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第90話『大槍』

 よもや自身の最大の一撃を打ち破られるとは思ってもいなかった希羅々は、頭が一瞬、真っ白になってしまう。


 (つの)を向け、自分に突進してくるサイのような顔のレイパーのことも、意識から逸れてしまった。


 故に、気が付いた時にはレイパーはすぐ側まで迫っており、希羅々は襲ってくるであろう強烈なタックルに備えて体を強張らせる。


 すると、


「はぁぁぁあっ!」


 横から、優がレイパーに向けて白い矢型のエネルギー弾を放った。


 同時に使用していたスキル『死角強打』により威力の上がった一撃は、希羅々が撥ね飛ばされる寸前でレイパーを吹っ飛ばす。


 倒れたところに、雅がブレードモードにした剣銃両用アーツ『百花繚乱』を振り上げ襲い掛かったが、仰向けに倒れたレイパーは地面を転がり彼女の攻撃を躱して立ち上がると、雅に殴りかかった。


 攻撃の応酬を始める、雅とレイパー。


「ボーッとすんな! 死ぬわよ!」

「っ! 分かっておりますわ!」


 優の檄の大きさに負けじと言い返した希羅々は、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を構え、雅と格闘するレイパーへと駆け出す。


 そのまま、レイパーの背中へと鋭い突きを放った。


 前方からは雅の斬撃、後方からは希羅々の突き。そして横からは優がエネルギー弾で援護。


 上手く三人で連携しながらジワジワとレイパーの体に傷を付けていくが、レイパーの動きは一向に鈍らない。


 それどころか、ダメージを受ければ受けるほど、アドレナリンが出るからだろうか。動きのキレが増していき、三人の顔に苦悶の色が浮かぶ。


 だが、諦めなければチャンスはやって来る。


 雅が縦に振り下ろすようにして放った斬撃を、レイパーが体を反らして躱した瞬間、そのチャンスを見つけた。咄嗟に『共感(シンパシー)』で愛理のスキル『空切之舞』を発動させる。


 これは自分の攻撃が、相手に躱された時に使えるスキルだ。


 愛理が使えば相手の死角へと瞬間移動する効果だが、雅が使った時は、三十秒間だけ自身の瞬発力を大幅に上げる効果になる。


 攻撃を空振り、隙が出来た雅へと殴りかかったレイパーだが、次の瞬間には、すでに彼女はレイパーの背後まで動いていた。


 そして、雅と希羅々で、同時にレイパーの背中を強打し、敵の体を大きく吹っ飛ばした。


「希羅々ちゃん! ちょっとアーツ借りますよ!」

「やる気ですのね! 構いませんわ!」


 百花繚乱の合体機能のことは、当然知っていた希羅々。


 雅は百花繚乱を倒れたレイパーへと向けると、刃の中心に切れ目が入り、上下にスライドする。出来た隙間に、希羅々のシュヴァリカ・フルーレがすっぽり入ると、そのまま刃ががっちりとレイピアを咥えた。


 完成したのは、全長三メートルものランス。


 雅と希羅々が、二人でランスのグリップを握ると、シャフトが白く発光する。


 その輝きに、本能的に危険を悟ったのだろう。


 サイのような顔のレイパーはヨロヨロと立ち上がると、二人に背を向けて逃げ出そうとする。


 が、


「はあっ!」


 優がそれを許さなかった。レイパーの逃走先に回り込み、白い矢型のエネルギー弾を乱射して足止めする。


 そしてその隙に、ランスを構えた雅と希羅々がレイパーへと近づき――レイパーが二人の方に振り向いた瞬間、その腹部を合体させたアーツで貫いた。


 緑色の血を流しながら、苦しむようにくぐもった声を上げるレイパー。


 レイパーの体が一瞬硬直したところで、雅と希羅々はアーツを抜き、その場を離れる。


 直後、レイパーの声が一際大きくなり、爆発四散したのだった。



 ***



「ふぅ……一時はどうなるかと思いましたが、何とか倒せましたわね……」

「あんたが大技を失敗させなければ、もっと楽だったのにね」

「……先程は、情け無いところをお見せしてしまいましたわ。申し訳ありません」

「……いや、何謝ってんのよ。言い返しなさいよ……ったく、調子狂うわね」


 発破を掛けるつもりの言葉だったのに、しおらしくなる希羅々。急にそんな態度になられても……と、優はちょっと困ったような顔になる。


「まぁ、結果オーライ。希羅々ちゃんの言う通り、レイパーは倒せたんだから、それで良いんじゃない? ――って、どうしたの、みーちゃん?」


 レイパーが爆発四散した後に立ち昇る炎をジッと見つめ、未だ警戒の様子を解かない雅。


 すると、彼女の眉がピクリと動き、ゆっくりと右腕を上げると、火元を指差した。


 一体どうしたのか……と優も希羅々も怪訝な顔で指を差されたところを注視し――大きく目を見開く。



 誰か、倒れている。レイパーでは無い。人だ。



 よく見ると、割とがっちりとした体つきの男性である。歳は四十代位だろうか。来ている服はボロボロで、体中傷だらけ。頭からは血を流している。


 キリギリス顔のレイパーを倒した時に出てきた男と、全く同じ状態だ。


 こんな人物は、先程までは間違いなくいなかった。どこから湧いてきたのか……優も希羅々も訳が分からない。


 すると、男の体がピクリと動き、三人は僅かに後ずさる。


 ゆっくりと起き上がった男は、三人を睨むとすぐに背を向けて走り出す。


「っ! 待て!」


 真っ先に追いかける雅。そしてそのすぐ後に、優と希羅々も続く。


 必死でじゅんさい池公園内を逃げ回る男だったが、ダメージの大きい体では、追って来る雅達から逃げ切れるはずも無い。


 すぐに取り押さえられた。


「あなた……一体何者ですか!」


 雅が、厳しい口調で、捕まえた男にそう尋ねる。


 男は何か言いたそうな目で雅を睨むが、それだけだ。彼女から目を逸らし、無言を貫く。


 だが、希羅々が男の首にシュヴァリカ・フルーレのポイントを突きつけると、途端に怯えた目になった。


「あまり信じたくはありませんが……先程私達が倒したレイパーは、もしやあなたでして?」


 キリギリス顔のレイパーを倒した後にいた男を見た時、雅と真衣華が想像したことと同じ事を、希羅々も思ったらしい。


 即ち、あの化け物はこの男が変身したのではないか、そう思ったのである。


 男は助けを求めるような目を雅と優に交互に向けるが、二人は無言で男を睨むばかり。


「答えなさい!」


 一際大きな希羅々の怒声。


 流石に観念したのだろう。


 男が、口元を震わせ、ゆっくりと開く。



「……ああ、そうだ」



 男がそう答えるのと、希羅々のULフォンにメッセージが届いた通知が出るのは同時だった。

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