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第10章閑話

 七月十日火曜日。午後三時三十一分。


 束音宅のリビングにて。


「雨、ひどいわね」


 窓に叩き付けられる雨粒の音を聞きながら、レーゼは憂いを帯びた顔をしていた。


 ちらりと雅の方に視線を向けるが、すぐに戻す。


 雅は「そうですねぇ」と返してきたが、言葉に覇気が無い。


 もう一時間以上も、彼女は椅子に座り、出現させたウィンドウにジーッと目を向けたままだ。


 見ているのは、優香から送られてきたメール。


 取り急ぎということで早速内容を確認して、雅もレーゼも驚いた。


 先日雅と真衣華が遭遇した謎の男性が、発見されたのだ。



 但し、遺体として、だが。



 阿賀野川の河口近くに流れているところを一般市民に発見され、警察へ通報されたとのこと。


 男の名前は菊澤健吾。三十二歳の会社員だが、ここ数日は無断欠勤していたらしい。


 新潟市南区にあるアパートで一人暮らしをしているものの、最近はずっと留守にしていたらしく、近隣の人達からも心配されていたそうだ。


 そんな彼が、何故あんな場所にいたのか……現在、調査中である。


 遺体は首の骨を折られており、これが死因だ。


 不可解なのは、首のところにある締め跡から、猫の手のようなもので力を加えられたのではないかというもの。


 人間に殺されたわけでは無いらしいが、動物に殺されたのなら、川で流されていたというのは不自然極まりない。


 と、なるとレイパーの仕業と考えられるのだが、今回殺されたのは男。特別な事情が無ければレイパーに狙われることは稀である。


 一体、何があったというのか……。状況が状況だけに、不気味で仕方が無かった。


「……長い事見ていると、心に毒よ。その辺にしておきなさい」


 ずっとメールを見て考え事をしている雅だが、流石に止めさせるべきだと思ったレーゼ。


 それ故の今の発言だったのだが、雅は目を瞬かせると小さく「ん?」と漏らす。


「……何? どうしたの?」

「あ、いえ……。『心に毒』というの、初めて聞いたので。『体に毒』の間違いでは?」

「……え? 言うでしょ? 『心に毒』って。『体に毒』っていうのも使うけど」

「いやまぁ、神経参っちゃうよ、とか、そんなことを言いたいんだなってのは伝わるんですけど……。あ、もしかして、異世界独特の表現なんですかね?」

「嘘っ? こっちじゃ本当に使わないの?」

「初めて聞きましたよぉ……」


 まさかの事実に、二人はついクスリとしてしまう。


「でも、ありがとうございます。確かにちょっと気が滅入っていたかも」


 笑ったら、いつもの雅に戻り、レーゼは表に出さないがホッとする。


「それにしても結局、あの人は一体何だったんでしょう?」

「ミヤビの推理じゃ、鏡を持ち去ったキリギリス顔の化け物の正体があの男なのよね?」

「ええ。状況的にそうとしか……。あいつが爆発した場所で倒れていたわけですし。真衣華ちゃんは信じたくないみたいでしたし、私も正直、間違っていて欲しいって思っているんですけど……」


 言いながら、雅は拳を握り締める。


 優香が作ってくれた探知機で、あの化け物がどこから来たのか突き止めようとしたのだが、なんと、雅と真衣華が戦った辺りに鱗粉が大量に落ちており、どこからやってきたのか全く分からなかった。


 まるで、探知機で自分の居場所を探られたくないから、あらゆる場所に鱗粉をばら撒いたとでも言わんばかりだ。


 結局、持っていかれた鏡の行方は分からないまま。


 もし雅の推理が合っていれば、男の遺体を調べれば何か分かるかもしれないが……今は、優香からの報告を待つしか無い。


 だが一つ、分かったこともある。先日、弥彦山で見つかった五人の女性の内、レーゼが傷跡が不自然だと思った女性だが……レーゼの勘は当たっていた。調べた結果、あの女性を殺したのは、ほぼ間違いなくあのキリギリス顔の化け物とのことだ。


 そして彼女は、菊澤の元カノだということも、調べがついている。


 菊澤と、キリギリス顔の化け物が無関係とは、到底思えない。


「……ええ。私もそう思うわ」


 そうは言いながらも、レーゼのバスターとしての勘が告げていた。


 裏で何か、もっと大きな悪意が蠢いているぞ、と。



 ***



 同じ頃。


 新潟市内にある、とある倉庫にて。


 ここは先月まで、とある企業が製品置き場として利用していた場所なのだが、会社が倒産し、来月には取り壊されることになっている。


 中にあった物は全て撤去され、後は解体されるのを待つのみ。


 そういうわけで、今は誰もいないはずの場所なのだが……。


 カツ、カツ――と、中で誰かの足音がしていた。


 黒猫の顔をしているのに、尻尾が無く、やや筋肉質の真っ黒な細身の化け物。


 以前、優達を襲った怪物がいた。


 手に持っているのは、二枚の鏡。


 キリギリス顔の化け物が雅達の元から持ち去った、あの鏡だ。


 何故、この化け物が持っているのか。


 黒猫顔の化け物は、誰かを待っている様子。


 しばらくすると、黒猫顔の化け物とは別の『何か』の足音が聞こえてくるのだった。



 ***



 そして、その倉庫を遠くから眺める影がいる。


 骨ばったフォルムの真っ黒い肌をした身長二メートル程の人型の生き物。トゲのある肩パッドに、黒いマント、血で汚れたブーツを身に着けるその化け物は――魔王種レイパーだ。


 雅達と一緒にこちらの世界に転移してきて、何故か今まで姿を隠していた凶悪なレイパー。


「ケヌミノド、ビヤヘワタネモオ」


 そう呟くと、口元を三日月の形に歪めるのであった。

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