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第10章幕間

 異世界。シェスタリア上空に佇む天空島にて。


 雅とレーゼのことを探していたライナ・システィア達。レーゼと全く連絡が着かないことから、二人は雅の元いた世界へと転移したのでは無いかと推理した。


 そこで、雅の元いた世界へと転移する方法が無いか、手掛かりを求め、天空島を調べることとしたのだ。


 だがその際、天空島の床の下から白熊種レイパーが突如出現。先に天空島に来ていたライナとノルン・アプリカッツァが、これを辛くも撃破する。


 戦闘が終わった後、レイパーが出てきたところを調べたところ、地下に広い空間があることを発見した。


 そういう訳で、雅とレーゼの探索チームの六人――ライナを筆頭に、セリスティア・ファルト、ファム・パトリオーラ、ミカエル・アストラム、シャロン・ガルディアル、ノルンだ――は、早速中を調べてみることに。


 セリスティア達も、まさかこんな場所があるなんて思いもせず、目を丸くしていた。


 地下に降りてみたところ、大きな部屋からさらに別の部屋へと通路が伸びている。


 白熊種レイパーのこともあったため、二人一組となって慎重に探すことにした一行。


 ライナと一緒にいるのは、山吹色のポンパドールという髪型をした、紫色の眼の子供。見た目の年齢は十歳かそれ以下だろう。灰色のワンピースを身に着けた彼女は、シャロンだ。


 幼女にしか見えないシャロンだが、これは仮初の姿。巨大な山吹色の竜こそが真の姿なのだが、こんな地下に竜の体は窮屈過ぎる。襲われることも考えれば竜の姿でいたいのだが、こればかりはどうにもならなかった。


 非常用の灯り、ファイアボール――野球ボールくらいのサイズのガラス玉だ――を手に、ライナとシャロンは並んで通路を歩く。


「それにしても、お主がバスターじゃったとはのぅ。人は見かけによらんわい」

「あ、あはははは……」


 幼女の姿で老獪な口調のシャロンに言われても、どう反応すれば良いか分からないライナは、曖昧な笑みを浮かべるしか無い。


「バスターはバスターでも、ヒドゥン・バスターですから。秘密裏にレイパーを倒したりもしないといけないので、あまり強そうに見えない方が、都合が良いんですよね」

「色々なバスターがおるもんじゃのぅ。最初にお主を見た時も、何も気が付かんかった。儂もまだまだじゃな」

「シャロンさん程長く生きた方を欺けたのなら、私にとっては名誉みたいなものですよ」

「長く生きたと言っても、儂は竜の中ではまだ子供じゃよ」

「……シャロンさんって、人間で言うとどれくらいの年齢なんですか?」

「まぁ、この見た目くらいじゃの」

「え」


 思わず出た一言に、シャロンが半眼を向けてくる。


「……いくつだと思っておった?」

「……えー、まぁ、その……七、八十歳くらいかと」

「儂も乙女じゃ。年寄りだと思われるのはちと傷つくのぅ……」

「ごめんなさい。でも、そんな口調だから……」

「む? 変かの?」


 純粋な眼で聞いてくるシャロンに、ライナは苦笑い。ドストレートに「変です」と返せればどんなに楽か。しかし相手は人生(?)の大先輩である。


「見た目が子供ですから……もっとこう、若者っぽい言葉遣いの方がイメージに合うと思いますよ」

「……成程。ちと待っておれ」


 そう言うと、少し考え込むシャロン。


 一体どうしたのか、と微妙な空気に心を張っていると、突如、シャロンが両手の人差し指を頬に当て、ぎこちない笑みを向けて口を開いた。


「きゃるーん!」

「…………」

「……これ、何か反応を返さんかい」

「ご、ごめんなさいっ」


 顔を真っ赤にして頬を膨らますシャロン。相当な羞恥心に打ち勝っての、渾身の発言だったのだが、ライナのイメージする子供とは余りにもかけ離れていた。シャロンの中での子供のイメージがどんなものか、非常に気になるライナ。


「な、なんかもう、シャロンさんはその口調のままで良い気がしてきました……」

「……言いたいことは色々あるが、儂もこちらの口調に慣れておる。そのままで良いのなら、そうさせてもらおう。それにしても――」


 そこで一旦言葉を切ると、シャロンの眼に真剣な光が宿る。


 そして辺りを見回して、眉を顰めた。


「……大仰な地下室など作ったのに、何もないのぅ。却って不気味じゃ」


 シャロンの台詞に、ライナは頷く。辺り一面、茶色の壁しかない。ここに入ってきてから、ずっとだ。


「この壁、何で出来ているんでしょう? 土とはちょっと違うようですが……」

「分からん。儂も初めて見た」


 壁に手を触れて、シャロンは首を傾げる。


 初めて見た、と言っておいて難だが、何となく、シャロンはこれを知っているような気がした。


 記憶の片隅で燻っているような、気持ちの悪い感じだ。


「こっちの道、もしかして外れなんでしょうか? 他の皆のところなら、もっと何か手掛かりが……」

「いや、そう判断するのはまだ早かろう。通路はまだ続いておる。ファイアボールもまだある。ならば、もっとよく調べるべきじゃ」

「でも……」

「……焦らずとも良い。儂らの探しているものは、きっと、早く見つけなければ逃げてしまうようなものでは無いはずじゃ。ゆっくりでも、目の前の現象をよく観察し、どんな些細なヒントも見落とさぬようにせねば、却って時間ばかりかかってしまう。焦る時ほど、一歩引くことが大事じゃよ」


 優しく、諭すような口調。


 ライナは少し納得がいっていない様子だが、頭をワシャワシャと掻くと、軽く深呼吸する。


「……一旦、行けるところまで行ってみましょう」

「じゃな。どうにも儂らは、天空島の下の方に向かっているようじゃ……。もしかすると、最深部に何かあるかもしれん」


 僅かな気圧の変化から、シャロンは自分達が下降していると思っていた。一見平坦なこの通路も、若干の傾斜がある。


「最深部……もしそうなら、レイパーがいるかもしれません。気を付けないと……」

「じゃの」


 とは言いつつも、その可能性は低いと考えているシャロン。もしレイパーが残っているなら、とっくに自分達に襲いかかってきても良いはずだ。


 それに、特段殺気も感じない。


 だがそれは油断していいことでは無いため、シャロンは「可能性は低い」と判断しながらも、ライナの言葉に頷いたのだった。



 ***



「……長いですね、この通路」

「てっきり、途中に他の部屋があると思っておったが……」


 ここまで、ただの一本道。相変わらず茶色い壁で囲まれており、ここまで何も無いと却って怪しいとさえ思ってしまう。既に、二人の歩く速度も慎重になっていた。


 景色が変化しないため、時間の感覚も狂ってくる。いま何時なのか、探索を始めてからどれくらい経ったのか……分からないことが、二人の体を大きく疲弊させていた。


 が、ようやく。


「……着いた」

「派手な扉じゃのぅ……」


 二人の目の前に、高さ三メートル程の、巨大な金色の扉が出現する。


 そして、その扉に彫られているのは、


「シャロンさん。これって……」

「うむ。博愛の女神、アイザじゃ」


 ミディアムの髪型の、白髪の美しい女性の姿。頭の上には、この世界で神様を表す、黄色い輪っかがある。


 ガルティカ人が信仰していた宗教、アイザ教――その唯一神、アイザだった。


「……綺麗」


 思わず溜息が出てしまう程の神々しさ。


 手を触れる事すら、躊躇ってしまう。


「……驚いた。創られてから相当な時が経っておるのに、非常に状態が良い」


 しばらく、アイザに目を奪われていたライナとシャロン。


 しかし、やがて目的を思い出し、意を決して扉を開く。


 そこにあったのは、小部屋。


 中には何も無い。ただの空間だ。


「…………」


 何となくではあるが、アイザ教にまつわる色々な物が置かれているのではないかと思っていた二人は拍子抜けしてしまう。


 同時に、先程とは違う意味の溜息が出る。


 骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだ。


「戻りましょうか……。ここで行き止まりのようですし」


 そう呟いて、踵を返すライナ。


 その時だ。


「……待つのじゃライナ。ここを照らしてみてくれんか?」


 緊張を滲ませるシャロンの声。何かに気が付いた様子だ。


 一体何があるというのか。


 言われたところをファイアボールの灯りで照らして――ライナとシャロンは息を呑む。



 最初は暗くて気が付かなかったが、壁に何か描かれていたのだ。



 経年劣化のためか、線の色が薄く、最初は気が付かなかった二人。


 描かれているのは、塔だろうか。


 下の方には人間と思わしきものがおり、そのサイズから、塔は十四、五キロメートル程の高さと推定出来た。


「何、これ……?」

「分からん……これも、天空島と同じくガルティカ人が創り上げた建造物なのじゃろうか……?」


 ただの壁画だ。しかし、見ていると心がざわつく不気味さがあった。


「でも、大昔にこんな大きなものがあれば、何かしらの記録なり跡なり残っているはずですよね?」

「今後創る予定の物だったのかもしれんの。しかしこんな巨大な塔、どうやって創るつもりじゃったのか……。む? なんじゃライナ。そんなに目をキラキラさせおって」


 言われてハッとなり、誤魔化すように大きく咳払いをするライナ。


「ごめんなさい。私、こういうの好きで……」

「まぁ、ロマンじゃしのぅ。気持ちは分かるぞ。しかし、どうしたものか……」

「元々はミヤビさんの世界に行く手掛かりを探していたはずなのに、思いがけない物を見つけてしまいましたね……」


 顎に手をやりながら、二人は揃って唸る。


 しかし、しばらくするとシャロンが口を開いた。


「ライナよ。一先ず、儂はここを出て、ガルティカ遺跡に向かおうと思う」

「ガルティカ遺跡に?」

「うむ。聞いた話では、ミヤビの世界の人の白骨遺体が、遺跡の中で見つかったのじゃろう? 別世界に移動出来る何かがあるかもしれん。レイパーのせいでゆっくり探索する余裕も無かったそうじゃし、一度しっかり調べるべきじゃろうて」

「……成程。なら、私も行きます」


 見つかったのは、謎の壁画だけ。


 この後、他の者達と合流したが、彼女達も収穫は何も無し。


 白熊種レイパーがここで過ごしていた痕跡はあったそうだが、そもそも何故こんなところにいたのかは未だ不明だ。


 ライナとシャロンがガルティカ遺跡に向かう話をしたところ、他の皆も着いて来ることになった。


 分からないことだらけで、先が見えない。


 かといって諦めるわけにはいかないのだ。

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