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第85話『斧鳥』

 一方、雅と真衣華は、未だ工場で身を隠していた。


「これから、どうしようか?」

「取り合えず、レーゼさん達と合流したいですねぇ……。目的のレイパーも見つけた訳ですし」


 そのためにも、自身の鞄を取りに行きたい雅。今は道のど真ん中に放置されていた。その中には彼女のULフォンが入っており、それさえあれば愛理に連絡を入れることが出来る。


「ごめんね、私のULフォン、壊れちゃって……」

「いえいえ、別に真衣華ちゃんのせいでは……。でも、運が悪かったですね……」

「うーん……ULフォンって、そんな簡単に壊れるようなものじゃないはずなんだけど……」


 懐からULフォンを取り出し、外観を眺めて首を傾げる真衣華。大きな外傷は無く、何が原因で壊れたのか皆目検討も付かない。


「ウィンドウは出るんだけど、通信機能全般が駄目みたい」

「こんな時に、何もピンポイントな壊れ方をしなくても――っ!」


 建物の陰から周囲の様子を伺っていた雅の顔が、緊張に染まる。


 真衣華も雅の視線の先を見て、その理由を知り、顔を強張らせた。


 キリギリス顔のレイパーが、入り口付近でキョロキョロと雅達を探していた。


 まだ二人の隠れているところに気が付いたわけでは無いようだが、あろうことか、二人が隠れている場所の方へと歩き出してしまう。


「……まずいですね。見つかるのも時間の問題です……」

「奇襲をしかける?」


 真衣華の提案に、雅は首を横に振る。勘だが、失敗するような気がしてならなかった。


「一旦、ここを出ましょう。あれさえあれば……」


 鞄の中に、このレイパーの対策として持ってきた『ある物』が入っている。


 雅が何を持ってきたのか真衣華は知らないが、ゆっくり聞いている余裕は無い。レイパーに見つかる前に外に出ることが出来れば、最悪駅まで戻り、希羅々と合流する選択肢もあると判断した真衣華は、雅の提案に頷いた。


「南側と西側にも建物がありました。結構遠回りしますけど、建物に隠れて進めば、見つからずに脱出出来るはずです」

「オッケー」


 二人は足音を立てないように慎重に、しかし素早くその場から離れる。


 雅の考えた通り、南側の建物の裏を通り、西側へ。


 西側の建物の陰から様子を伺い、レイパーの姿が無いことを確認して、敷地の出入り口まで一気にダッシュする。


 だが一つ、二人には誤算があった。


 それに気が付いたのは、出入り口に到着するまであと十メートルを切ったところ。


 東側の建物から、レイパーが姿を現したのだ。


 驚き、一瞬立ち止まってしまった雅と真衣華。


 レイパーが自分達を見つけていなかったために、辺りを適当にうろついていたが故の偶然だった。


 当然、二人を見つけてしまうレイパー。


 見つけるや否や向かってくるレイパーとは対照的に、突然のことに咄嗟の判断が出来ず、硬直したままだった雅と真衣華。


 頭が冷静になった頃には、既にレイパーが雅に殴りかかっていた。


 咄嗟に雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』を盾にするように体の前に出して攻撃を防ぎ、その隙に真衣華が片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』で敵の腹部に攻撃を仕掛ける。


 だが、思いの外攻撃に体重が乗らなかった真衣華。斧の刃は、レイパーの腹に僅かに傷を付けたものの、大してダメージを受けた様子は無い。


「くっ……真衣華ちゃん! ここで何とか倒しましょう!」

「分かった!」


 相手に攻める隙を与えないよう、二人で交互に斬撃を繰り出していくものの、レイパーは無駄の無い鮮やかな動きで攻撃を躱していき、逆に雅が踏み込もうとした瞬間を狙って彼女の首に手を伸ばす。


「雅ちゃんっ? ぐっ――!」


 首を乱暴に掴まれた雅。レイパーは助けに入ろうとした真衣華を蹴り飛ばし、雅の体を持ち上げて、首を押さえる指に力を込める。


 だが、手応えがおかしいことに、低い唸り声を上げた。


 雅がレーゼのスキル『衣服強化』を使い、全身の強度を鎧並にして絞め殺されるのを防いだのだ。


 レイパーは面白くなさそうに顔をゆがめると、雅を近くの建物の壁に勢いよく放り投げる。


 孤を描いて飛んでいく、雅の体。このままでは激突は必至だ。


 しかし雅は空中で何とか体勢を変え、壁に足の裏を着け、反動を利用してレイパーの方へと跳躍する。


 そしてその瞬間、志愛のスキル『脚腕変換』を発動。


 雅の『共感(シンパシー)』で発動した『脚腕変換』の効果は、志愛と同じ。足の裏で何かを強く蹴ると、それに比例して三秒間腕力が上がるのだ。


 思いがけない強烈な一撃がレイパーの胸部に入り、大きく吹っ飛ばされたレイパー。


 上手く受身を取り、大きな隙を作ることは避けたものの、吹っ飛ばされた先には真衣華が二挺のフォートラクス・ヴァーミリアを構えていた。


 彼女の振り回す斧を両腕で受けつつも、流石に形勢不利と判断したのだろう。レイパーは、建物の屋上へと大きく跳躍する。


 だが、屋上にはすでに雅がいた。


 レイパーの焦ったような動きから、敵の次の行動を予測していた雅。セリスティアのスキル『跳躍強化』を発動し、屋上へと先回りしていたのだ。


 レイパーが着地するより早く、雅が斬撃を繰り出してレイパーを吹っ飛ばし、地上へと叩き落とす。


「真衣華ちゃん! これ使って下さい!」


 屋上から地上に戻るには時間が掛かる。


 故に雅は真衣華にそう叫ぶと、百花繚乱を彼女に向かって投げた。


 その行動の意味するところを、真衣華は理解する。百花繚乱の合体能力は、彼女も知っていた。


 空中で縦に半分に割れる百花繚乱。一見すると百花繚乱が増えたようにも見える。


 同時に、真衣華のフォートラクス・ヴァーミリアが彼女の手から離れ、二本の百花繚乱の方へと向かっていくと、百花繚乱がフォートラクス・ヴァーミリアの左右にくっついた。


 その姿はまるで、斧に翼が生えたかのよう。百花繚乱が上下に動く様子を見れば、それはまさに鳥だ。


 意思を持ったかのように、空中を自在に飛び回る、合体したアーツ。


 全身が刃になっているそれが、前後左右、様々な方向から猛スピードでレイパーに体当たりしていく。


 必然、レイパーの体に無数に出来る傷。


 高速で動き回る合体アーツに翻弄されながらも、レイパーはここで、真衣華の姿が無いことに気がついた。


 どこだ――と言わんばかりにあちこちに目を向けるが、頭上から殺気を感じ、そちらに顔を向ける。


 刹那、レイパーの肩に、真衣華のもう一本のフォートラクス・ヴァーミリアが振り下ろされた。


 飛び回っていた合体アーツだが、下側には取っ手があるため、真衣華はそれに掴まり、レイパーの頭上まで移動していたのだ。そして落下の勢いと、自身のスキル『腕力強化』で筋力をアップさせ、強烈な一撃をお見舞いしたというわけである。


 敵が怯んだ隙に合体アーツは屋上にいる雅を地上に降ろし、レイパーの腹部へと突っ込んでいく。


 レイパーも何度も同じ攻撃は食らわない。突っ込んできたアーツを、まるで白刃取りするかのように両手で押さえる。


 しかしその直後、レイパーの体が持ち上がる。この合体アーツの推進力は、レイパーの力よりも強かったのだ。


 そのままレイパーを、どこかに連れ去る合体アーツ。


 どこへ行くのか――と一瞬疑問を持った二人だが、すぐに行き先が思い浮かぶ。


 互いに顔を見合わせた雅と真衣華は、合体アーツの後を追うのだった。



 ***



「っ! いたっ!」

「やっぱり!」


 合体アーツがレイパーを連れ去った先は、二人が最初にレイパーに襲われた場所。


 雅の鞄が置き去りにされていた、あの場所だ。


 未だ上空にいた合体アーツとレイパーだが、レイパーはしきりに合体アーツを殴りつけ、そしてついにアーツを分解させることに成功する。


 合体が解除された百花繚乱とフォートラクス・ヴァーミリアは、それぞれ持ち主の元に戻り、レイパーは大きな音を立てて地上に落下。アスファルトに、大きな凹みを作る。


 レイパーが起き上がるが、動きが明らかに重い。これまでのダメージが、確実に敵の体力を奪っていた証だ。


 最早これまで……と言わんばかりに、大きく翅を広げたレイパー。このまま逃げる気だ。


 だが、そんなことは雅が許さない。


 雅は鞄を開き、中からこのレイパーの対策として用意していた『ある物』……ガスライターを取り出す。


 今やタバコという存在がほぼ消えたため、もうお目に掛かる機会は殆ど無い代物だが、雅はこちらの世界に戻ってきてから、これをずっと探していた。先日、ついに手に入ったのである。


 雅はライターのギザギザの部分――横車を回し、火を灯すと、それを百花繚乱の刃に近づける。


 そしてセラフィの『ウェポニカ・フレイム』を発動。


 小さな火は百花繚乱の刃全体に広がり、激しく燃え上がらせた。


 この『ウェポニカ・フレイム』というスキルは武器に炎を宿す効果があるが、雅が使うためには火種が必要だ。


 異世界ではミカエルの炎魔法に頼ったり、そうでなくとも火種は意識せずとも容易に見つかったのだが、こちらの世界ではそうはいかなかった。


 炎を纏った百花繚乱は切れ味や、エネルギー弾の威力が増すため、何度も使いたいタイミングはあったのだが、その度に火種が無く使えなかった雅。


 いつでもどこでも火種が用意できるよう、試しに持ち運びしやすいガスライターは使えないかと考えていたのだ。


 雅は百花繚乱の柄を曲げ、ライフルモードにすると、それまで刃に纏わりついていた炎が全て、銃口へと吸い込まれていく。


「その翅……熱に弱いと聞いています!」


 そう叫びながら、飛び上がるレイパーの背中を目掛け、雅は炎を纏った桃色のエネルギー弾を放ち、素早く百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードに戻す。


 レイパーの翅に攻撃が命中した瞬間、あっという間に翅が炎に包まれ、溶けて無くなってしまった。


 翅を失えば、レイパーは当然、空中に留まることは出来ず、手足をバタバタさせながら落ちてくる。


 そして地面に落下する刹那。


「はぁぁぁあっ!」

「せえぇぇぇえいっ!」


 雅と真衣華が同時に、レイパーに斬撃を繰り出す。


 百花繚乱の刃と、二挺のフォートラクス・ヴァーミリアの刃が、レイパーの胸部に大きな傷を作り、敵の体を遠くまで吹っ飛ばした。


 遠くまで吹っ飛ばされ、地面を転がるレイパーの体に力は無い。


 ようやく転がるのが止まったと思った瞬間、大爆発するのだった。

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