表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/642

第84話『頑強』

 突如出現した、全長四メートルのミドル級螳螂種レイパー。


 巨大な鎌を振り上げ、レーゼに向かって振り下ろす。


 レーゼは何とか剣型アーツ『希望に描く虹』で鎌を受け止めるが、その一撃はあまりにも重く、片膝をついてしまう。


 そこにさかさず、もう一本の鎌が襲いかかる。


「マーガロイスさんっ!」

「っ! 早く行きなさい! 鎌は私が引きつける!」


 助太刀しようとしてきた愛理を怒鳴るような声で制止させ、レーゼは受け止めている鎌を弾き返して、今襲ってきた鎌をアーツで迎え撃つ。


 力比べにもならず、簡単に吹っ飛ばされてしまったレーゼだが、自身のスキル『衣服強化』を発動していたため、地面に背中から叩きつけられても怪我は無い。


 のっしのっし……とレーゼに近づくレイパー。走り寄ってくる愛理と希羅々には目もくれない。


「はぁぁぁあっ!」

「せぇあぁぁぁあっ!」


 レイパーがレーゼに再び攻撃しようとしている隙に、愛理の斬撃と、希羅々の突きが、それぞれ別方向からレイパーの体の、比較的弱そうな部分――つまり関節部分に命中。


 だが直後、二人の顔が歪む。


 胴体程では無いが、関節も非常に硬かったのだ。


 それでも諦めない。レイパーに反撃される前にその場を離れ、希羅々はレイパーの左側へ、愛理は背後へとそれぞれ回りこみ、少しでも攻撃の効きそうなところを狙ってアーツを振るう。


 さらにそのすぐ後から、レイパーの鎌の嵐を潜り抜け、レーゼが胴体を斬りつける。


 しかし、刹那。レイパーが翅を大きく広げた。鎌で獲物を狩るイメージの強い螳螂だが、短距離を直線的に飛んだり、威嚇するために翅を広げることもあるのだ。


 ミドル級螳螂種レイパーは翅を羽ばたかせて少しだけ浮くと、すぐに翅を動かすことを止める。そのまま自分の体重で相手を押し潰すかのように着地し、その際に発生した衝撃で三人を纏めて大きく吹っ飛ばした。


「桔梗院っ!」

「ぐっ……この……っ!」

「っ! 危ない!」


 倒れた希羅々へと、レイパーは鎌を振り下ろす。


 思わず目を閉じてしまった希羅々だが、大きな金属音が響き、恐る恐ると目を開けると、そこには刀型アーツ『朧月下』で敵の攻撃を防いでいる愛理の姿が。


 相手の力を上手く殺し、何とか凌いだといった様子。


 だが安心するのはまだ早い。


 連続で振り下ろされるレイパーの鎌。その軌道を上手く読み、愛理と希羅々は攻撃の合間を縫うように走り回り、攻撃を躱していく。


 そしてその隙に、レーゼはレイパーの体を駆け上り、頭上へと力一杯に、叩きつけるような斬撃を繰り出す。


 美しい虹を描きながら放たれた一撃はレイパーの脳天に直撃。


 僅かにぐらつく、レイパーの体。


 そして次の瞬間、レイパーは初めて、痛みに悶えるような低い奇声を上げる。


 体を大きく暴れさせ、今まさに第二撃を放とうとしていたレーゼを振り落とすと、怒り狂ったようにレーゼへと鎌を叩き付ける。


 が、しかし。


「――っ!」

「借りは返しましたわよ!」


 鎌が直撃する刹那、希羅々が仰向けに倒れたレーゼの手を引き、助け出したのだ。


 上から振り下ろされたり、薙ぎ払われる鎌を、二人は跳んだりアーツで受け流したりして凌いでいくレーゼと希羅々。


 そして、愛理は二人がレイパーの攻撃を引きつけている間にもレイパーの体の周りを走り、あらゆる部分に次々と斬撃を浴びせる。


 すると、


「っ! ここだっ!」


 愛理が目を大きく見開き、そう叫ぶ。


 レイパーの後ろ足の付け根。


 ここだけ、他の部分と比べて僅かに皮膚が弱い。


 ようやく掴んだ手応え。愛理は朧月下を大きく振り上げると、そのまま後ろ足に斬りつける。


 何度も、何度も、何度も。


 レーゼと希羅々に気をとられていたレイパーも、ここでようやく痛みを覚えたのか、愛理の方に頭を向ける。


 だが、時既に遅し。


 気力を振り絞った咆哮のような声を上げ、力一杯に刃を叩きつけた瞬間、噴きあがる緑色の血と共に、ついに後ろ足が胴体から落ちた。


 グラリと、レイパーの体が揺れる。


 劈くように上がる、怒りの声。


 レイパーは思いっきり、鎌で三人を薙ぎ払う。


 三人はアーツを盾にして直撃を防ぐも、これまで以上の威力で放たれた攻撃の衝撃に、大きく吹っ飛ばされてしまう。


 地面に激突し、転がる三人。


 激しい戦いで体中痣だらけになりつつも、その目はまだ死んでいない。


 やっと見えた勝機。ここで攻めきらねば、もう倒すチャンスは訪れない。


 レーゼが真っ先に起き上がり、気合の声を張り上げ、地面を蹴ってレイパーとの距離を詰める。


 そのすぐ後に、愛理が続く。


 後ろ足を失い、体勢を崩していたレイパーだが、二人が接近した時にはもう体のバランスを取り戻しており、反撃の構えをとっていた。


 そして愛理へと鎌の乱打が繰り出されるが、その全てをレーゼがアーツで防ぎ、愛理を守る。


「シノダさん! 攻撃は私が防ぐ! あなたは――」

「分かっています!」


 痺れる腕で敵の攻撃を何とか凌ぎ、愛理へと指示を出そうとしたレーゼだが、どうして欲しいか分かっていた愛理は、防御をレーゼに任せ、どんどんとレイパーへと近づいていく。


 少し前。レイパーの攻撃を躱しながら、愛理はレーゼの行動を目に焼き付けていた。


 彼女の動きを真似して、レイパーの体を駆け上り、一気に頭上へと辿り着く。


 額には玉のような汗。顔は緊張で強張っているが、それでも愛理の朧月下が弓なりの残像を描いて、レイパーの眼へと直撃する。


 これまでとは別格の激痛。堪らず、レイパーは悶える。


 激しく体をくねらせるレイパー。片目を失いつつも、乱暴に鎌を振るうが、レーゼ達に当たる事は無い。


 大きな隙。そしてこの瞬間を、虎視眈々と狙っていた者がいた。


 希羅々だ。


 二人がレイパーへと接近していく中、希羅々だけは気配を殺し、レイパーから離れて背後へと回りこんでいた。


 彼女の目に映っているのは、レイパーの体についた傷。


 愛理が足を斬り落としたことによって付いた傷だ。


 そして希羅々の行動は、実はレーゼも愛理も気が付いていた。


 彼女が何をしようとしているのか、二人もちゃんと理解しており、それ故に必死でレイパーの注意を自分達へと引き付けていたのだ。


 希羅々はレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を構え、腰を落とす。


 そしてレイピアのポイントをレイパー目掛け、勢いよく突き出した。


 刹那、空中に全長十メートルもの巨大な『シュヴァリカ・フルーレ』が出現し、レイパーへと襲いかかる。


 希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』だ。一時間に一発しか放てない、希羅々最大の一撃。


 防がれたり、効かなかったら倒す手段を失ってしまうが故に、ここまで使うことを必死で堪えていた希羅々。


 だが、今この瞬間使わなければ何時使うというのか。


 巨大なレイピアの向かう先は、希羅々が見ていた傷跡。そこから抉りこめば、レイパーの体を粉砕出来ると踏んで放ったのだ。


 そして狙い通り、レイパーに出来た僅かな傷に、巨大レイピアのポイントが突き刺さる。


 眼に続き、体にも激痛が走り、レイパーの悲鳴が轟いた。


 硬い皮膚に次々に亀裂が入り、そこから大量の血液が噴出。


 足がもげ、翅が落ち、どんどんとバラバラになっていくレイパーの体。


 そしてついに、断末魔のような奇声と共に爆発四散するのだった。

評価や感想、ブックマーク等よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ