表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/640

第82話『愚直』

 倒れた二人に、低く笑うような声を漏らしながら、ゆっくりと近づいてくるキリギリス顔のレイパー。


 雅と真衣華の右手の薬指に嵌った指輪が光を放ち、二人の手にそれぞれのアーツが握られる。


 雅の手には、メカメカしい見た目の、全長二メートル程の武器。剣銃両用アーツ『百花繚乱』だ。


 真衣華の右手には、紅色を基調とした全長一・三メートル程の大きさの、半円形状をした片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』。


 真衣華は立ち上がると同時に、『鏡映し』のスキルを発動。『フォートラクス・ヴァーミリア』の影から、もう一挺のフォートラクス・ヴァーミリアが出現し、真衣華の左手に握られる。


 雅が百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにし、レイパー目掛けて桃色のエネルギー弾を放つ。


 攻撃が直撃し、僅かに怯んだ隙に、真衣華は二挺のアーツを、レイパーの胸部にXの字を書くように振り下ろす。


 同時に、真衣華は自身のもう一つのスキル『筋力強化』を発動。


 スキルにより腕力が上がり、強烈な二連撃がレイパーにヒットし、敵を吹っ飛ばす。


 追撃せんと、雅は百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードにし、倒れたレイパーに向かって真衣華と一緒に走り出した。


 そして、片膝立ちになっているレイパー目掛け、二人は同時に攻撃を仕掛ける――が。


「っ!」


 レイパーが空高く跳躍して攻撃を躱すと、彼女達の背後に着地した。驚くほどの脚力だ。


 キリギリスの顔にこおろぎの翅、鱗粉は蝶。それを踏まえると、足は飛蝗では無いかと思う雅。


 ちらりと、雅はレイパーの背後に視線を向ける。そこには、彼女の鞄。


 先程の奇襲の際、肩から外れてしまっていたのだ。


 このレイパーの対策として、『ある物』を鞄の中に入れていた。


 何とかしてその『ある物』を使えれば良いが、レイパーに隙は無い。


「……真衣華ちゃん、あいつを少し引き付けられますか? 私に作戦があります」


 小声で真衣華にそう告げると、真衣華は緊張した面持ちで小さく頷く。


 真衣華は二挺のフォートラクス・ヴァーミリアを持つ手に力を込めると、レイパーの方へと地面を蹴って勢いよく接近する。


 額に玉のような汗を浮かべ、スキルによって強化された攻撃を、嵐のように次々と繰り出していく。


 レイパーは足や腕を斧の側面に叩きつけ軌道を反らし、時にバク転や跳躍等を駆使して直撃を避ける。


 それでも小さな傷が体に次々と出来、少しずつではあるが真衣華が敵を圧していた。


 しかし、それも長くは続かない。


 体がなよっとしている真衣華は、その見た目通り体力にはそこまで自信が無かった。今のようにアーツを振り回していれば、あっという間に動きが鈍ってしまう。


 最初こそ真衣華の乱打を捌くのに精一杯の様子だったレイパーも、今は軽々と攻撃を躱している。


 そして真衣華が大振りになった瞬間を狙い、レイパーの蹴りが、真衣華のアーツに炸裂。握力の無くなった真衣華の手から、アーツを吹っ飛ばしてしまう。


 吹っ飛ばされたのは『鏡映し』のスキルで創り出された方では無い、本体のフォートラクス・ヴァーミリアだ。真衣華から三十メートル程離れた場所に、大きな音を立てて落ちた。


「しま――っ!」

「真衣華ちゃんっ! 危ない!」


 今まさに、鞄に手を掛けた雅が、真衣華の手からアーツが吹っ飛ばされたことに気がつく。


 雅が警告の声を発するが、その時既に、真衣華はレイパーに背を向けていた。落ちたアーツに向かって手を伸ばし、一歩踏み出そうとしている。


 そんな彼女を逃がさんと、レイパーの手が彼女の首を掴み、体を持ち上げる。


 ギリギリと首を締め上げ、苦しそうな声を上げる真衣華。スキルで創り出した、もう一個のフォートラクス・ヴァーミリアが手から落ち、消えてしまう。


 このまま絞め殺そうと、さらに腕に力を込めるレイパーだが、その背中に突如強い衝撃を受けてつんのめり、思わず真衣華の体を落としてしまった。


 雅が、真衣華を助けんと斬りかかったのだ。


 本当なら鞄を拾い、その後真衣華を助けに行けば良かったのかもしれないが……気がついた時には雅はレイパーへと走り出していた。


 不意打ちをしてきた雅の方に、レイパーが体の正面を向けるが、刹那、胸部へと斬撃が襲いかかる。


 怯んだ隙に、三撃目――と雅が振りかぶるが、振り下ろす直前、雅の腹部にレイパーの掌底が入り、大きく吹っ飛ばされてしまう。


 レイパーはそのまま空高く跳躍すると、倒れた雅がいるところ目掛けて落ちてくる。落下の勢いで雅を潰す狙いだ。


 一発受けた腹を手で押さえ、顔を苦悶に歪めつつも、雅は地面を転がってその攻撃を躱す。


 雅は着地したレイパーへと再び斬りかかり、レイパーも雅へと蹴りを放つ。


 ぶつかり合う、アーツと足。


 レイパーの脚力の方が雅の腕力よりも強く、雅は弾かれるように二、三歩後退してしまう。


 僅かに体勢を崩したところに、レイパーの拳による乱打が襲いかかる。


 その時、崩れ落ちていた真衣華の体がピクリと動く。


「真衣華ちゃん! 私がこいつを引き付けます! だから逃げて!」

「駄、目……! まだ……逃げられない! 雅ちゃんこそ……逃げて!」

「そんなことを言っている場合じゃ……!」


 レイパーの攻撃を百花繚乱で必死に防ぐ雅。だが、長くは持たない。


「私の……アーツ、放って置けない……!」


 うつ伏せに倒れる真衣華の目は、遠くに落ちた自身のアーツに向けられていた。


 チラリと自分の右手の薬指に嵌った指輪に視線を向ける。


 体の一部がアーツに触れていなければ、収納は出来ない。


 真衣華は、這い蹲りながらも、少しずつフォートラクス・ヴァーミリアに近づいていく。


 彼女の頭の中は、自分のアーツのことで一杯になっていた。


 故に、レイパーが雅を蹴り飛ばした後、アーツを拾いに行こうとする真衣華へと飛び掛っても、彼女は気がつかない。


「真衣華ちゃんっ!」


 アーツへと手を伸ばす真衣華だが、目的の物はまだ十メートル以上先にある。


 レイパーが真衣華に止めを刺す方が、遥かに早い。


 だが、真衣華とレイパーとの間に、体を割り込ませた者がいた。


 雅だ。『共感(シンパシー)』により、ライナのスキル『影絵』で創り出した、分身雅である。


 分身雅は飛び掛かるレイパーを百花繚乱で受け止めると、これ以上真衣華の方には行かせまいと、がむしゃらに斬撃を繰り出していく。


 突如現れた新手にレイパーが怯んでいる隙に、本体の雅も接近し、二人掛りで攻め立てた。


 その間に、真衣華は何とかフォートラクス・ヴァーミリアの元に到着。


 それと同時に、レイパーの渾身の回し蹴りが分身雅を貫いた。


 消えていく分身。そして――


「くぅ……あぁあっ!」


 フィードバックによる激痛に悶え、膝をつく雅。それでも百花繚乱の柄を曲げ、ライフルモードにし、レイパーの顔面目掛け桃色のエネルギー弾を放つ。


 近距離でエネルギー弾を放たれることは予想していなかったのだろう。レイパーは、やや大袈裟な動作でそれを躱した。


 だがその瞬間。


「はあぁぁあっ!」


 気力を振り絞り、アーツを手に接近してきた真衣華の一撃が腹部へと直撃し、レイパーの体は大きく吹っ飛ばされた。


 背中から地面に叩き付けられたレイパーが上半身を起こすも、雅と真衣華はレイパーに背を向け、遠くまで走り去っていたのだった。

評価や感想、ブックマークよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ