絶望と恐怖の魔法訓練②
「さてまず君からだ。」
薬剤を注射器に吸い出すとフード男は徐に俺から見て右から3番目の男に容赦なく注射器を首筋に刺した。
鮮やかな薬剤がどんどん男の首筋から挿入されていく。
え?なぜ首筋?腕の静脈じゃないのか?疑問が浮かぶがここは異世界である。俺たちの常識などなんの役にも立たなければたっていたとしてもこの哀れな男の状況を変えることはもうできない。
「次だ」
鮮やかな色をした薬剤が入ったビンから注射器でまたしても吸い出し躊躇なく2番目の男の首筋に射し込む。
一度使った注射器を変えたりしないんだろうか?と何故か他人事のように思考している自分がいた。
現実感があまりなく夢の中にいるんではないだろうかとボーっと目で今の状況を観察していた。
「次」
遂に俺の番が来た。鮮やかな液体を満たしている注射器をボーっと見ている間に挿入は終わった。
痛みは不思議となかった、かわりに妙に刺された箇所が痒かった。
「7人全員処置完了だ。」
気づいたら全員に注射をし終わったらしい。気怠げに他の人の顔を観察する。
俺と同じく何かを諦めたかの顔をする者、いまだ恐怖している顔、涙を止めどなく流している者色々だ。
「さて君達に注射した液体の説明がまだだったね、あの液体はアビスバイパーと言われる蛇の毒液でね。体の中に入ると魔力を暴走させるんだよ、暴走した魔力は体中の血管という血管を突き破り失血死する。だが魔力を持たない者が噛まれても無害な蛇なのだ。不思議だろう?だがこの毒液の効果はこれだけじゃない噛まれた者の魔力が暴走すると同時に一定期間魔力が増大することが確認されている。こんな興味深い毒液はないよ。どっちにしろ失血死してしまうじゃないかって?」
ひと呼吸置いて悪魔が得意げに話す。
「心配無用だ。なぜなら君達7人は魔力を極微量しか持っていないことは確認済だ、毒液の効果はほとんどないだろう……アビスバイパーに噛まれてもね。」
そこで悪魔は口を三日月に変える。
「だがそれでは何の意味もないだろう?そこで君達に注射した量は致死量の10倍だ。これなら死ぬか魔力が感じ取れるくらいまで魔力を底上げできる素晴らしい仕組みだ。それに実は君達が座っている椅子にかけてある束縛魔法は少量でも魔力で干渉すると解ける仕組みになっているんだ。よってこの実験の生還者は自動的に体は自由になるという訳だ。」
悪魔は饒舌に得意げに語る。
俺の頭はもう何も考えられずそして矛盾しているがお気に入りのJ-POPが頭の中で流れていた。
「では数時間後に様子を見に来るよ、それまでティータイムとしよう。」
悪魔は家畜を見下ろし初めて心配そうな顔をして言葉を紡ぐ。
「気をしっかり持てそしてまた生きて会おう」
悪辣なる悪魔は視界から去った。だが俺達に残された時間はそう長くはないのかもしれない。
ドクンと心臓が跳ねたような感覚とともに
「が!!」
信じられないような激痛が全身に駆け巡る。
汗が吹き出し鳥肌が立つ。
毛穴の一本一本に極細の針を刺されたのかと思うほどの鋭い痛み。
心臓を直接握り潰されたかのような痛み。
痛み痛み痛み痛みイタミイタミイタミイタミ痛痛痛………
そしてブレーカーを落とされたかのように俺の意識はブラックアウトした。