絶望と恐怖の魔法訓練①
たどり着いた先はまたしても窓もない密閉空間。さっきまでいた部屋とほとんど同じだが違うところがある、それは円形状に椅子が人数分置いてあるだけだ。
「適当に座りたまえ」
言われた通り全員が恐る恐る椅子に座る。その瞬間全身を何か得体の知れないものが這いずり回っている感覚に襲われてさらに金縛りにあったかのように体が硬直して動かなくなる。
そして何も考えられずパニックに陥る。
「体が動かんだろう。だが心配する必要はない予定調和だよ、その椅子には魔法がかけてあってね。なんてことはないくだらん魔法さ、座った者の体の自由を奪うんだ」
なんだそれは!?これから魔法の訓練をするんじゃないのか?目だけ動かして見るとジアンちゃんや他の人達も恐怖と絶望とが入り混じったような顔をして眼球をギョロギョロさせている。
かく言う俺も体が全く動かないという未知の体験に正常な思考ができず変な汗が出てパニック状態になっていた。
無駄だと分かっていても必死に体を動かそうと試みる。
そんな俺の努力も報われず指一本動かせず口からひゅーひゅーと虚しい息遣いが出るだけだった。
そんな俺たちをあざ笑うかのようにフード男からさらなる言葉が紡がれる。
「さあ訓練を始めよう、この訓練は先ほども述べた通り翻訳の魔法を覚える為の……前座だ。まずは魔力を感覚として感じ取りそれを己の体に纏わせる。これが中々最初は難しくてね普通は才能ある子供が幼い時から何年もかけて会得するものでね。しかし君たちには時間がないだろう?少々の突貫工事はご愛嬌さ
……まぁ何人かは死んでしまうかもしれないがね」
フードの悪魔が笑顔で何か恐ろしい言葉を囀っている、俺はまるで今から拷問でも受けるかの如く恐怖していた。いやもうこの世界にきたということ自体が拷問に等しかった。
拉致監禁され人権を失い食べ物もろくに与えられず家畜が如く扱われる。現代社会においてそんなことが許されようか?否!安全な法治国家で育った俺達にこのような人権無視と常軌を逸した行動が理解できるわけがなかった。悔しかったのだろうか虚しかったのだろうか絶望したのだろうか気がつくと頬に熱い水がつたっていた。
それが涙だと理解するのにあまり時間は必要なかった。
「おやおや泣くことはないじゃないか、これから無価値な君達に新たに生きる力を与えようというんだ逆に感謝して欲しいくらいさ。」
こいつはサディストのうえ狂っている。椅子に縛られた哀れな7人は共通して同じこと思っていた。
「さてでは始めよう。」
フード男が隅に置いておいただろうカバンの中から注射器と薬剤のビンを取り出す。
これからロクでもないことが起きるのは目に見えていた。