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それでも私は妊娠したい  作者: 優月
6/6

浮気


「あれっ……」


廊下には妊娠検査薬が落ちていた。トイレからでてすぐの場所。たしか私、料理場に…。辺りを見回す。



────家だ。



「…夢??夢にしてはやけにリアルな…」


あのほこりっぽさも、ハーブティの味も、お腹の減り具合も何故だろう、夢のはずなのに妙にリアルに覚えているのだ。あんなリアルな夢を見ることがあるのだろうか?


変な夢を見た。



そう片付けてしまえば簡単だが、なぜだか忘れてはいけない気がしたのだ。花音は立ち上がると、リビングのソファに腰をかけた。目を閉じればこの夢が見れるとは限らない。いいや、でも、現実的ではない夢だった。なんせ空を飛んだし、魔法剣士という謎の職業。変な設定すぎる夢を、こんな平凡な私が見れるのか。どこかで読んだラノベやアニメでもこじらせたんだろう。


無理に納得させる。



時計を見ると18時半。そろそろ旦那も帰ってくる頃だ。


ピロリン


ケータイの着信。メッセージを受信。


『今日は大切な話がある』


旦那からそう一言送られていた。ああ、嫌な予感がする。思うところ、別れ話だろう。離婚でも突きつけられるのだ。なんせこのところ花音は今まで以上に旦那にきつく当たっていた。心当たりもある。子供に恵まれず、消極的な旦那の姿は見ていてやはり腹が立った。こんなんだから子供ができないのよ!と何度も口にした。最近、旦那は私を避けるかのように家にもいつもより遅く帰ってくることが増えたし、すれ違ってもいる。悲しいだけの結婚生活に変わってしまった。子供もいない今なら、離婚だってまだ容易い。戸籍に傷はつくが母子家庭や父子家庭になるくらいならまだマシだ。


はぁ。


キャリアばかりを追い求め、子供など二の次としてきた自分自身にも非はある。何年経っても出来ない子供に、イラついたこともある。お医者様に不妊だと言われた時の絶望は、旦那にはわかるまい。


旦那は帰ってくると、私の目も見ずに座り込んだ。向かい合うように私も座る。

俯いて言葉を発しない旦那を見ると、今までの結婚生活を馳せて悲しくなる。恋愛結婚だった。大学で出会って、それは憎いところもあったけれど恋をしたのだ。スポーツに一生懸命な彼を、仕事にも一生懸命な彼を支えたいと思ったのだ。

震わせた声でプロポーズしてくれたことも、昨日のように覚えていた。ただ、これは予想外だった。子供ができない、なんて。

愛想をつかされてしまうことも、別れを切り出されることも、そこからは負の予想ばかり。


「────別れてくれ、花音。」


重たい声が、部屋に響いた。


「初美を妊娠させてしまった────」


この言葉が私の目を丸くさせた。


「え?いま、なんて?」


「初美だ。初美に俺の子が宿った。」


初美は私の大親友だった。ありえない────

私の夫と知りながら────


なぜ────



「…すまない」



浮気────────


思考が停止し、何も考えられなかった。言われた言葉の意味を嘘だと思いたくて仕方がなかった。


「金は払う。俺と別れてくれ。」


身勝手で、最低な男だ。

けれど本当に身勝手だったのは夫だけだろうか?


「…うんざりよ。あなたを信じていた私が馬鹿だったわ。」


何度夢を見たのだろう?


子供と旦那に囲まれて笑い声で包まれた幸せな家庭で暮らすこと。それもあっけなく、この男に壊されたのだ。ずっと恋い慕ってきた、この男。旦那なんかじゃなく、ただの男に成り下がった、こいつに。


全てを────


「俺は初美を愛している────」


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