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それでも私は妊娠したい  作者: 優月
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子宝ってなによ

部屋の掃除をさっとある程度終わらすと、お腹が減っていたのですぐに地下の料理場へ向かった。たしかに女など一人もいなかったのだ。男臭い料理場。料理は女の仕事────そう言っていた旦那のあの憎たらしい顔が思い浮かんでは消える。きっと私、思いもよらないほど旦那への鬱憤が溜まっていたんだわ。はぁ、と溜息をつく。


「へぇ、お前が噂の女?」


料理場の入口で突っ立っていた私に声をかけてきたのは筋肉隆々な体にエプロンを巻いた一人の男。噂の女とは失礼な。

そうは思ってみたものの、このお城で噂の女と言えば私しかいないだろう。なんせ、お妃様とアイリーンに次ぐ王族以外での女子なのだから。


「え、ええ。そうよ。」


「いいケツしてるな!」


ガハハと彼は大声で笑った。なに?この国の人はそんなにお尻が好きなの??イライラして、顔が歪む気分だ。本当に失礼ったらありゃしない。現実世界ならば、セクハラだと訴えているところだろう。


「どういう意味?」


「子宝に恵まれそうだって言ってんだよ」


そしてガハハとまた笑う。何言って────


子宝というワードで現実に引き戻されてしまう。私は不妊で、お医者様と一緒にタイミング法で頑張っていたんだ。ずっと子供が欲しかったんだ。


「子宝ってなによ………」


思わず声が震える。

旦那は私のお尻を褒めてくれたことは無かった。思い返せばそれもムカつくポイントだ。お前のケツはデカい、将来垂れるぞなんて失礼なことばかり旦那は口にした。その度に、冗談よしてよ、と飲み込んではいたが悲しくなっていたのも事実。子供が欲しいと言っていたくせに、子供作ろう?と誘ってみても反応の悪い旦那がいた。旦那を積極的にさせるために、スカートが嫌いで、長髪も嫌いな私も頑張って髪を伸ばし、スカートだって履いた。けれど旦那はそれを、似合ってないと一言で切り捨てた。好きになった相手だというのに、好きな部分よりもずっとずっと貶されていた部分のこと、たとえそれが冗談だとしても悔しくて恨めしくて憎かった。女として、捨てられたくなかった────そんな気持ちもあったのだ。


気づけば、瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。


「カナメが女の子泣かした!」


誰かがそう言った。


「違うって!俺はただ!!な、泣きやめ、頼む!」


誰か否定してほしい、私が不妊であることを。

誰か認めてほしい、私が頑張ってきたことを。

いいや、いっそ女として愛してほしい。

せめて旦那の前では女でいたかったのだから。



涙でぐらりと世界が揺れた。


「あっ」



「花音っ!!!」



────花音────



誰かにそう呼ばれた声だけが耳に何回も木霊した。



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