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蒼の姫と紅王子  作者: 雪影
2/2

場違い

王子視点です

 魔素が大気に満ち溢れた世界、ルティアスフィア。アスタリカ、ヴェルモンド、ツヴェルク、ダリルカ、エネシアンの5王国で大陸は治められ、周辺には島国もあり、そこは専ら採掘や農耕地になっている。生存する種は、エルフ・魔族・人族・獣人族の4種の人間と、世界の狭間から生まれる魔物、そして、それ以外の動植物である。魔法に関しては、火・水・木・金・風の5妖精との契約により行使することができ、先天的に属性は決まっている。一般的に個人が保有する属性は1~2種であり、稀に3種保持者が見られる。そういった特異的な人物は世界人口の約1%にも満たず、大抵幼くして亡くなることから、【妖愛の幼子】と呼ばれ、哀れまれる。

 以上がこの世界の概略的な説明であり、常識である。


 俺、ウィリアム・フォン・アスタリカはここでいう【妖愛の幼子】である。といっても、幼子という年齢はとっくに過ぎてしまったが。


 愛馬の歩みと伝わる振動を感じながら、空を見上げる。雲一つなく、春らしい穏やかな陽気に眉根を寄せる。自国から離れてもう5日ほど。

 どうしてこうなったのだろう。

 深いため息をついた。


 ***


 2週間ほど前のことだった。


「ウィリアム」

「はい、母上」

「あなたにツヴェルクの王女様と婚約してほしいの」


 戦場からの帰還後、母上に呼び出された俺はすぐに彼女の下に行った。恭しく膝を折り、首を垂れる。告げられた言葉は、王女との婚約だった。正直に言って、そんなのはー


「嫌です」

「いうと思ったわ・・・なんとなく想像できるけれど、理由を聞かせて」


 呆れたようにため息をつく母を見上げながら、視線だけを斜めに落とした。

 いくら戦場で功績を挙げたからと言って、妃を迎えなければ国を継げないことはわかっている。

 それに、もう20だ。周囲の男たちには嫁がいるし、子を成した者さえいる。王子として、また、一人の男としてしなければならないことはわかっている。

 だけれども、出来ないのはやはり。


「母上、私は戦場で死ぬべき人間です」

「あなたが【妖愛の幼子】・・・いえ、5妖精に寵愛を受けていることと関連が?」

「ええ。戦の中にこそ居場所があるのです」


 この国・・・アスタリカは地形的にどこの国からも攻め込まれやすく、また周囲に森があるため、魔物との交戦が多い地である。他国との関係は至って良好ではあるが、ダリルカに関しては長年の敵国であり、何年か毎に戦争が起こる。故に、この国の民は常に戦いを強いられ、猫の手でも借りたいくらいに兵というものが重要な役職なのだ。

 そうした背景も踏まえると、俺は戦場にいなくてはならないのだ。

 自分で言うのもなんだが、5妖精すべての魔法を行使することのできる者は俺以外にいない。

 そして、俺以上に火力がある兵はおらず、勝率を上げるには戦闘に立たねばならないのだ。


 兵器。


 その言葉がしっくりくるし、実際敵側の兵に言われたこともある。

 そもそもすべての属性魔法が使える人間などいてはならないし、いたとしても短命であろうというのがこの世界の摂理である。すれば、自身の死は明日にでも訪れると信じ生きなければならない。

 まぁなんだかんだ20年も生きてしまっては、もう気にしてもいないが。


「いつ死ぬかもわからぬ身です。次王はレオンで構いませんので」

「まったく・・・いいえ、これは命令ですウィリアム。ツヴェルクへ赴き、王女様との婚姻を結んで来なさい」

「母上」

「行くだけ行きなさい。他にも候補はいらっしゃるそうですし、あなたが気に入らないのでしたら次を考えますわ」

「次・・・・」


 レオンというのは弟で、この国の騎士団長である。

 弟は【妖愛の幼子】ではなかったが、木と水の二つの魔法を使い、国の守護を務めている。

 また頭がよく、彼が考えた勝つための戦法や布陣が的確だったため、立場的には弟の方が上だ。

 妬ましくないのか、と同期の兵士に言われたことがあるが、正直、自慢の弟としか言えなかった。


 彼が王になるなら、この国はもっと良くなるだろう。

 それだけが確信としてあって、そうなるべきだと思っている。

 だからこそ、こうして俺のために心を砕いてくれる母の行動が不思議だったし、ただ面倒事を押し付けられたような気がした。


 ***


 結局あの後、半ば追い出されるかのように、馬と荷物と案内役の騎士を用意され、出国した。

 いくら命令だからと言って、その日のうちにとは思わなかった。


「まぁ、暫くは大きな戦もないし・・・いいか」

「?ウィリアム王子?何かおっしゃいました?」

「いや・・・」

「そうですか・・・あ。あの湖畔の近くの城がツヴェルク王の城ですよ」


 ふと顔を上げると、遠くに三日月上の湖畔が見えた。

 そしてそれに沿うように建てられた城壁が見えた。きっとあれがツヴェルクの城なのだろう。


「我が国とはやはり違うのだな」

「アスタリカは戦の多い土地ですからね。ツヴェルクは戦なんてそうそう起こりませんし、気候も穏やかですしね・・・まぁ、問題がないこともありませんが・・・」

「政治上の問題でもあるのか?」

「いえ・・・一部の貴族に流れている噂、とでもいいましょうか・・・」


 どこか歯切れの悪い案内役の男の発言に首を傾げる。

 戦もない。気候も安定している。

 ならば人間の絡む問題であるのは間違いない。

 別段知らないからと言って問題はなさそうだが、知るに越したことはないだろう。


「話してみろ」

「・・・なんでも王女様がここ数年体調を崩されておられる、とか」

「王女様が」

「王女様付の側仕えが失踪したのが理由だと・・・私共は聞いております」


 くれぐれも他言はなさいませぬよう・・・!と懇願する男を一瞥する。

 言いにくそうだったのはきっと、その肝心の王女と婚約をしようとしている男に聞かせていいものか悩んだからであろう。

 まぁ、普通は聞かせてはいけないような気もするが、俺にとっては有益な情報だった。

 側仕えが消えただけで具合の悪くなる女を手元になど置けるわけがない。

 母上には悪いが、この婚約はやはりナシだな。

 ふ、と目を伏せ口角を上げる。

 行くだけ無駄とは知っていても、他国の王城の造りを見ておくことは重要だ。

 目的を完全に別に切り替え、目の前にある城壁をじっと見つめ、自分ならどうここを攻め立てるか考えながら城へと向かった。


 ***


「この度はお招きいただき感謝します、ツヴェルク王」

「遠路はるばるよく来てくれたアスタリカの王子殿。戦果で名高い貴公と縁を得る機会ができたこと、誠に感慨深い」

「身に余るお言葉です。ウィリアムで構いません、閣下」

「では、そのように」


 通された玉座の間で、ツヴェルク王との形式上の会話を進める。

 他国の王子に対しても、丁寧な物言いと雰囲気をすることに施政者としての器の大きさを感じた。

 なるほど。この国の外交がつつがなく発展しているのは、きっと王の尽力の賜物なのだろう。

 周りを見渡せば、この国の貴族や王族が半分、友好関係にあるヴェルモンドとアスタリカからの有名な貴族位が半分が集められていた。

 まぁ王女との婚姻だから、さすがの顔ぶれ、とでも賞賛すべきか。


「あ、あの」


 自分の席を探しながら、周りの様子を伺っていると、一人の騎士に話しかけられた。おずおずとこちらの顔を伺いながら話す仕草から、彼の気の弱さをうかがい知ることができる。

 甲冑についた紋章からツヴェルクに仕えている騎士であることを知る。


「なにか?」

「!アスタリカのウィリアム王子、ですよね?ツヴェルク王騎士団の長を務めているハンス・モーリアと言います!」

「はぁ」

「ここにおられるということは、姫様との婚姻に参加されるのですよね?俺、応援してます!!」

「いや、私は」

「では!!」


 前言撤回。どこが気の弱い男だ。

 言うだけ言って満足したのだろうか、困惑する俺を残し、彼は仲間だろう騎士たちの輪に入っていった。

 応援ってなんだ、お前も一婚約候補だろう。というか名乗るだけ名乗って去っていくのはどうなんだ?

 考えるだけ無駄のような気がしたので、とりあえず空いている席の一つに腰かける。

 目の前のテーブルには、スコーンやフルーツがあったので、それを少しつまむことにした。


 あぁ、早くこんな茶番を終わらせて、ダリルカとの次の戦を想定した訓練をしなければ。


 むぐむぐと菓子を頬張っていた俺は予想もしなかった。

 このあと、運命の出会いがあるなんてことを。

次は王女視点で、ようやく二人が出会います。

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