どっせい!!!!
チームF、『フリューゲル』を名乗る少年少女の保健室乱入。
たしか、俺はチームS、『スカーレット』に配属されたはずだった。
そこに別チームが乱入してくるというのは、どういうことを示しているのだろう。
心はワークス、拳銃を取り出しながら、緊張した表情で乱入者を警戒する。
「怖い怖い。流石絶対無敵のチーム『スカーレット』の特攻隊長さんだ。我々四人を前にしても、なおそのように活路を見出す姿勢、感服する。我も見習わなければの」
保健室の扉から堂々と入ってきた小柄な少女が、独特の高い声色で言う。
「ツバサ。絶対無敵と行っても、『元』ですよ? 今は見る影もありません」
「だな。さっさとやっちまおうぜ」
少女をツバサと呼ぶのは、後ろについてきた少年の眼鏡をかけている方。
眼鏡をかけていない、がたいのいい少年もそれに続いて発言する。
「そりゃあどうかねえ。まだ、衰えているわけではなさそうだよ」
ショットガンの女も少年少女のやり取りに口を挟む。どうやら仲間のようだ。
その様子を俺の傍で見ていた心が、慎重に口を開く。
「復活の間を奪い返しに来たのね。それも自殺特攻で」
「立派な作戦だろう。現にこうして成功した」
心の言葉に、ツバサが応じる。
自殺。死ねない世界で自殺することは可能なのだろうか。
さっきの久住の突然の爆散。その現象はおそらく最初に襲ってきた女のショットガンで起こされた現象だ。
「死ねない世界で致命傷分のダメージを負うと、消滅してしばらくのちに復活の間で復活する。それを逆手にとって、自ら消滅して復活の間に乗り込むなんて、クレイジーとしか言いようがないわ」
油断した、と心は歯噛みする。
つまり、ダメージの痛みのあるこの世界で、ショットガンの女は自分が文字通り死ぬほどの苦痛を受けながら、わざと消滅して、どこからかこの室内にテレポートすることが出来た、ということか。
それは確かに狂っている。
「保健室というのは出入り口が二つ付いているんだよねえ。けどこの状況でスカーレットさんが脱出することは不可能さね」
「我々がマスタークリスタルを出せと言っても、大人しく従うわけもなかろ。楽に死なせてやろうぞ」
ショットガンの女が銃口を向けながら威圧する。
心はともかく、未だに状況が呑み込めていない俺はどうすることも出来ないままそのショットガンに怯えていた。
いつの間にか、フリューゲルの男たちも展開して、俺たちの退路を塞いでいる。
「グレイト。これは確かに逃げられないわね」
心はそう言って、後ろの壁に右手を添える。相手に背を向ける格好になり、それが相手を戸惑わせた。
――――《破顎》
心の口から小さくそんな言葉が聞こえた気がした。
その言葉の意味は分からない。その意味を考える隙もなかった。
心の腕に青い閃光が走り、次の瞬間
キィィィィィ―――――――ン、ドガララアシャアアアアアア!!!!
甲高い耳障りな音と、崩壊音。
何が起こったのかは、理解できない。いや、心が何かをしたということだけは理解できた。
突如として心の手を添えていた壁から騒音と、土煙。
とにかく自分を守ろうという本能から、俺は口元を腕で守るような体勢で、騒ぎが収まるのを待っている。
何者かによってその腕をむんずと掴み、土煙の方へ引っ張られる。
声を出そうにも、土煙が邪魔で、呼吸すらままならない。あまりに唐突なことに、俺はなすすべなく土煙の奥へ引き込まれた。
なんとか足を回転させ、転ばないようにするので精一杯。と思ったら、何か見えないものに躓き体勢を崩す。
そのまま腕を引っ張られ、引き摺られながら奥へ奥へ。
俺の体から青い光が発せられていることから、見えないがあちこち怪我をしているのだろう。
痛覚はある。意識すると、とんでもなくあちこちが痛み出した。
「てめえ、逃げんな!」
「さすがスカ…………面……い……」
「感心してる場合じゃ!」
「くそが!」
後ろから罵倒が飛んでくる。
フリューゲルの面々が事態を理解し、動き出したのだろう。
すかさず後ろから銃声が聞こえてくるが、さっきのショットガンすら、俺の元へは届かなかった。
(そうか……心がどうやってか壁を壊して、抜け穴を作ったのか)
視界が晴れる。全身土まみれになって、俺の腕を引っ張る心と、情けなく引っ張られるがままになっていた俺の姿が露わになる。
漸く状況を理解できた俺は何とか自力で立ち上がり、心の方を向く。
心はそれを気にも留めず、未だ土煙が立ち込めている穴の方へ声を発する。
「久住! 時間稼いで! グッドラック!」
「分かってらあ! ワークス!!」
穴の奥、保健室の中から、先ほど消滅したはずの久住の応答があった。
もう復活時間を迎えたのだろう。今思えば心は穴を開けるタイミングを見計らっていたように思う。
久住が復活するのに合わせて逃げられるように図っていたのだろう。
だが、久住がどれだけのことを出来るだろうか。ショットガン相手に木刀でどうにかなろうものか。
ましてや一対四である。
「おい、心! 俺たちも久住を手伝った方がいいんじゃ」
「黙って! ここは逃げるしかないのよ!」
その目には、決意。
その表情に俺は何も反論することは出来なかった。
「アテンション。歯を食いしばりなさい。舌噛むわよ。そして上手く受け身を取ることね」
心の忠告の意味が分からなかったがとりあえず口を塞ぐ。
「グッド……どっせい!!!!」
女の子らしくない掛け声とともに、世界が回転する。
いや、回転しているのは俺の方だ。この細腕のどこにそんな力があるのか、曲がりなりにも男である俺を、心が一本背負いをした。
――――いや、これは背負い投げではない。
普通の背負い投げなら投げ出すところで、俺の服の裾を掴み、そのまま回転。
俺の体は急降下から、再び急上昇を始め、そのまま上空へと投げ出された。