残念勇者【詳細】
【残念勇者】
「『お前が好きだ、俺と一緒になってくれ』と、胸をガン見しながら言う男をどう思う?」
「勇者」
おしまい。
そんな話。(約3600字…………長い……m(_ _)m)
※一話とは別な話となります。
「『お前が好きだ、俺と一緒になってくれ』と、胸をガン見しながら言う男をどう思う?」
「勇者」
「……わりと本気で凹んでるんだけど……」
「あれま。何?あいつの事なの?」
住んでいる村に丁度いいお店がなく、仕事終わりに込み入った話をするために隣町の行きつけの食堂に来た女性が二人。何品かつまみつつ、お酒も三杯目のおかわりを受け取ったところでやっと相談が始まりました。
相談者の女性は標準的な体格ですが、胸が大きく、テーブルに肘をつくのも大変そうです。母も祖母も標準的なのに彼女だけが素晴らしい発育となりました。摩訶不思議。
相談されるこちらの女性は背は高めですが他は標準的な体格です。……標準です。
二人は同い年の幼なじみで、何かあれば語り合うのが彼女たちの普通です。お互いお酒を飲めるお年頃になり、相談内容も成長してきましたが今回のはちょっと毛色が違うようです。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、あいつ真性だったのね、やっぱり」
「やっぱりって何よ……」
「だってそうでしょう? 野菜を売りに王都に行って聖剣に選ばれたとかで勇者として魔王討伐メンバーになった時も、あんな仰々しいメンバーの中で普段着に聖剣って格好でも、特に疑問に思わない男よ? そんで畑を耕しに行くノリであっさりと出発していったじゃない? あの時にはもうあんた以外、村中であいつの馬鹿が確定されてたけど」
「ちょっとひどくない……?」
「どこが。半年でケロリと帰って来て『魔王やっつけたから褒美をがっぽりもらったぜ~』なんて村中で分けちゃうし。まあそれは前の年の不作が引いてたから皆で助かったけど、普通はしないでしょうよ」
「そこが良いところだと思う……」
「分かってるわよ。皆分かってる。あいつの真面目に働くところも天然さも皆が知ってる。で?討伐に出る前に何か言われてたんだっけ?やっと教えてくれるんでしょ?何て?」
「…………魔王をやっつけたら、………………胸を触らせてくれって……」
ドンガラガッシャアアアン!!
なんと店内の他のお客どころか店員さんまでひっくり返っています。勇者も子供の頃から町の人たちとは顔馴染みです。彼女たちとも幼なじみな事をこの酒場に集まる人たちは知っていたので、どうやら皆さん聞き耳を立てていたようです。
ひどい約束です。
なんと残念な勇者でしょう。
確かに彼女は胸のせいでたくさんの男たちに声をかけられてきましたが、それに応じる性格ではありません。思春期の頃は泣いたりもしましたが、現在では親友の教え通りに綺麗な無視をします。たまにしつこい男が追いかけてきますが、その時は親友と勇者がいつも追い払ってくれました。
働き者でいつも助けてくれる勇者。
まさか本当に勇者になるなんて。
魔王討伐など命の保証のない旅に出かける彼が心配で、帰ってこられるなら何でもすると思って了承しましたが、いざそうなると彼女は複雑な思いにかられたようです。
胸の彼女は真っ赤になり、友人である親友は大笑いしています。
「そ、それで? さ、触らせたの?」
親友が笑いすぎて涙目で聞くと、正面に座る彼女はさらに赤くなり、テーブルに突っ伏しました。
お?これは触らせたか?と思いましたが、答えは否でした。
「何でよ? おっぱいの為に頑張った勇者にご褒美をあげなさいよ」
「すごく台無し!」
「真実」
「言い返せない!?」
大声を出してまたしゅんとした彼女に、あららと皆が思いました。
「何よ、何に落ち込んでるの?」
言いよどんだ末に小声で答えた内容に、誰もが眉をひそめました。
「……回復役で、お姫様も討伐メンバーにいたでしょ?……『勇者に近づかないでよ売女』って、胸を見ながら言われたの……」
「はぁぁあっ!? あンの絶壁姫~っ!!」
「え、普通でしょ? スレンダー美人に言われると余計に落ち込んじゃって。あいつは私の胸しか見てないし、私って何なんだろうって、」
「あいつは天然だけど、あんたも大概なお人好しだからね!? 姫の胸なんて詰め物に決まってるでしょう! 派手な鎧で誤魔化してたけど偽物だからね!」
「そうかな~?」
「何?私の言う事が信じられないって?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ俺、あのクソ姫ぶん殴ってくるわ」
聞き慣れた男の声がすぐそばから聞こえました。二人が振り返った店内に、聖剣を持った作業着姿の勇者がいつの間にか立っていました。
胸の彼女は驚きで声も出ません。
実は二人で飲みに行くと勇者に教えていた親友は、テーブルに片肘をついて行儀悪く勇者を睨みます。
「プロポーズ失敗してんじゃないわよ、おっぱい勇者」
「うるせぇ、結婚を申し込むのがあんなにこっ恥ずかしいと思わなかったんだよ。目は見れねぇわ、言うのに必死でどこを見ていたかも覚えてねぇし。つーか、おっぱい勇者って何だ?」
え、と胸の彼女は呟きました。
親友は構わずに喋ります。
「どこから聞いてたの?」
「売女って言われたってとこ」
「あっそ。で?何でお城だか教会だかに返したはずの聖剣を持ってんのよ?」
「知らねぇ。腹立ったら手にあった」
「んで? 聖剣持って来て何がしたいの?」
「姫をブッ飛ばしてプロポーズの仕切り直しだ!」
え、とまた胸の彼女は思いました。
「馬鹿言うんじゃないわよ。魔王を倒しゃ英雄だけど、姫を殴ったら犯罪者よ。親友を犯罪者に嫁がせるわけにはいかないわ」
「今だから言うがな、あの姫のせいで討伐メンバーの貴族たちは皆ハゲたんだぞ。あいつらが可哀想過ぎて魔王を相手にするより慌てたわ、あのハゲ製造姫! いつの間にか俺の女まで泣かしてたとか絶対許さねぇ!!」
「ハイハイ。あんたが犯罪者になって一番に泣くのはこの娘よ。遠くの姫なんかどうでもいいわ。ちゃんと始末つけなさいよ」
ぐっ、と勇者が喉を鳴らし、みるみる赤くなる顔を皆が見ていました。
と、聖剣を床に突き刺し、かつて勇者だった青年は胸の彼女の正面に立ちました。そして何度も深呼吸をしました。何度も何度も繰り返し、見守るお客の方がそれに飽きる頃、彼女の方はというと、彼女も負けじと真っ赤な顔です。言ってもいない事に答えているその様子にお客は内心で拍手をしていました。
そして、眉毛の下がった彼女の方がやっと口を動かしました。
「お、『俺の女』って、私?」
そこから!?と皆が思いました。勇者も若干顔色が青くなりました。
「え!?そうだよ!?あれ?旅に出る前に言ったよね? 『帰って来たら触らせて』って……」
「う、うん。『胸を』でしょ? 覚えてる……よ?」
勇者は撃沈しました。床に倒れシクシクし始めた彼をお客たちは生ぬるい目で見ています。
「俺……緊張すると駄目なの? 胸を触らせてって言ったの? サイテー……」
「天然を通り越した驚きの馬鹿ぶりが残念よね。あんたはどういう意味でそんな風に言ったのよ?」
親友が呆れを隠さずに酒をちびちび飲みながら聞きます。
「……『これからはイチャイチャする仲になろう』……」
「「「「 分かるかボケ 」」」」
店内に響いたツッコミに勇者はビクッとしました。そんな勇者に胸の彼女はおずおずと聞きます。
「胸だけを触りたいんじゃないの?」
勇者は彼女に向かって正座し、真面目な顔で言いました。
「胸だけ?何で? お前のどこもかしこも触りたい」
「「「「 阿保 」」」」
またも店内に響きました。
でも彼女は赤い顔のまま、座って落ち込む勇者の正面にしゃがみました。
「……私を、好き?」
「うん。好き。後生なので結婚して下さい」
またも勇者は彼女の目を見つめて言いました。そして彼女の左手をそっと持ちました。
「指輪代を稼ぐ為に勇者になったけど、うっかり全額皆で分けちゃったから、指輪が無くて申し訳ないんだけど……」
はたから見れば立派に求婚の様子ですが、内容は残念でなりません。
それでも彼女は、知ってるよとへにゃりと笑いました。安否の知るすべのない勇者が無事に帰って来た時、村では彼女だけが腰を抜かしました。真っ先にただいまと言って抱えてくれた勇者がいつも通りだったので、彼女はこの上なく安心しました。
だから先の求婚で勇者が胸だけを見ていた事がとてもショックだったのですが、今の勇者は紛れもなく彼女を見ています。
それは彼女の望みに望んだ事でしたので、彼女は素直になることができました。
「末長くよろしくお願いします」
そして。
勇者の喜びに呼応した聖剣が暴走して、お店の屋根を吹っ飛ばして夜空に花火を咲かせました。
お客に祝福だともみくちゃにされ、店長に本気殴りされてる勇者を眺めながら親友が聞きます。
「結婚決めた途端に借金持ちになったけど、あいつで本当にいいの?」
笑いながらお店の天井を指さす親友に満面の笑みで返事をすると、親友は彼女のカップに自分のカップをちょんと当てました。
おめでと。
彼女は、親友に抱きつきました。
ズルい!と叫ぼうとした勇者は、空気の読めるお客たちに押し潰されましたとさ。
おしまい。
オーバー!文字数多すぎ!
前書きだけで良かったのに、50字じゃ投稿できないぃぃ!
…………まだまだです……私がしょーもない……




