移り変わりの中で【ほころび、解ける春企画】
節分で豆をまくとね……
そんな話。(約1500字)
遥彼方さま主催『ほころび、解ける春企画』参加作品です。
テーマは『ほころぶ』
鬼は外~
福は内~
豆の音と共に、家々からふわりふわりと小さな影が出てきます。影はふわふわとその町で一番大きな木に集まります。
そうしてたくさんたくさん集まった影は、ぎゅっと凝縮するとひょろりとした赤い鬼の姿になりました。
「よう。今年もひょろっとしてるなぁ」
赤鬼の立つ枝よりひとつ上の枝には、同じくらいひょろりとした青い鬼がいました。赤鬼は苦笑しました。
「そう言う青鬼こそ」
赤鬼から見上げられた青鬼も年々細くなっていく自身の腕を見て苦笑します。
「まあなぁ。年々豆まきで厄祓いをする家が減って来てるし、こうして形になるだけいいかねぇ」
二人は少しだけしんみりとしました。
『厄』とは人間がいるだけ何処からともなく湧き出てきます。そしてそれらは住んでいる家にも染み着きます。
その厄が大きく溜まる前に、日々の節目に行事としてそれらを祓い、個々の平安を保ってきたのです。
祓われた厄は集まると鬼や妖怪のようなおどろおどろしい姿に成ります。そして百鬼夜行として他の地域の鬼や妖怪たちと連なって全国を見回るのです。
しかし現代では核家族や一人暮らし世帯が増え、節目の行事をしなくなり、追い出される厄が集まらなくなってきました。
百鬼夜行は、集まりきらなかったそこかしこに潜んだ厄を脅すのが役目です。
―――力ある我らが何もせずに去る地を荒らすべからず―――
それを終えると、百鬼夜行は富士山の上空で昇華します。
節分の百鬼夜行が昇華されると、春に向けて季節が動き出します。百鬼夜行が派手であればあるほど、春に続く花が綺麗に咲くのです。
「童のいる家は豆の祓いがされるが、その他の家はなかなかしないもんなぁ」
「それに夜でも地上は明るいし、百鬼夜行も霞むわな」
赤鬼がぼやくと青鬼も口元を歪ませます。時代の移り変わりは必ずあるものですが、百鬼夜行が行えなくなったときにこの国はどうなるのだろうと、やはりどこかもの悲しくなります。
「お。出た出た!」
赤鬼が何かを見つけました。身を乗り出したので青鬼は笑います。
「またか。お前さんも好きだねぇ」
青鬼の茶化した言い方に赤鬼は少しだけ照れました。見た目に似合っていない事は重々承知しています。それでも嬉しい事は隠せません。
赤鬼の目線の先には代々続く大きなお家がありました。そのお家では豆まきを終えて綺麗に掃除をすると、その晩のうちに雛人形を飾るのです。
赤鬼はその飾りつけを見るのが楽しくて仕方ありません。
「は~!今年も華やかだなぁ!」
「毎年同じだろうよ」
青鬼は赤鬼のその様子を楽しく見ています。
「いやいや、俺たちが花嫁行列を見る事なんて無いだろう?」
「行列でもないし、人形だぞ?」
「揚げ足を取るなよ。花に囲まれたものに縁が無いから見られるだけで良いんだよ」
「俺はそんなお前さんが面白いよ」
「そりゃあ何よりだ。放っておいてくれ」
「はははっ!」
ちょっとだけヘソを曲げた赤鬼は青鬼を無視して雛壇に飾られていく雛人形をキラキラした目で見ています。
そうして男雛と女雛が最上段に置かれ、ぼんぼりが灯りました。
長く仕舞われていた人形たちが穏やかな光の中で頬を染めたようになった時が、赤鬼のお気に入りです。
赤鬼は詰めていた息を吐くと、青鬼を振り返ります。
「お待たせ。いつでも行けるよ」
「まだ百鬼夜行は始まらんよ。もう少し見ていたらいい」
青鬼は柔らかく微笑みました。実は青鬼も赤鬼につられて雛飾りを見ることが楽しみになってきていたのです。
赤鬼はなんだかんだと結局は優しい青鬼とまた会えたことに嬉しくなりました。
「ふふ。ありがとう。じゃあ準備運動でもしようかな! 去年より恐ろしい声を出さないと!」
「あははっ!」
そうして次の日。夕べは夜中も犬がうるさかったねと話題になっている中で、雛壇に飾られた桃の花がひとつ、ひっそりと咲いたのでした。
おしまい。
文献とか民話とか植物の色々を調べていませんので、ゆる~く読んでください…(。-人-。)
犬に吠えられたという小さなオチがしょーもない…(笑)




