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大惨事【夜語り企画】

夫婦喧嘩ってさ……



そんな話(約2100字)


秋月 忍さま主催『夜語り企画』参加作品です。


 

 静かな夜の荒野に真っ白いドラゴンがいました。


 白いドラゴンは鱗に星明かりを小さく反射させながら、目の前でドラゴンに向かって全裸で土下座をしている一組の男女を見下ろしていました。


「「 申し訳ございません! 」」


『お前たちの設定をしたのは我らだが、ここまで想定外の事ばかり起こすとは思わなんだ』


 白いドラゴンがため息とともに愚痴も吐きました。

 それには男女が揃って上体を起こし、勢いこんで白いドラゴンに訴えます。


「だってこの人!何でもいいって言うんですよ!それが困るから聞いてるのに!」


 隣の男を睨んだ女のその長い髪がゆらりとうねりました。


「はあ!?その時に指定したって材料が無いって結局作らないだろう!ね!こいつ結局こっちの話を聞かないんですよ!」


 女を睨む男の目が青から金色に変わりました。


『止めんかっ!!』


 白いドラゴンの一喝に、二人は少し吹っ飛ばされて尻餅をつきました。


「「 痛っ!? 」」


 二人仲良くお尻に擦り傷ができました。しかし、白いドラゴンが手加減してくれた事を分かっている二人は大人しくお尻をさするだけ。


『お前たちが喧嘩さえしなければ、今頃この地は植物が生まれ育ち、尻餅をついたとしても擦り傷も出来なかったであろうに……』


 二人もそれを十分に理解しているので項垂れます。それでも「でも」「だって」と二人はぶちぶち呟きます。


『でもへったくれもない。お前たちの喧嘩の後始末をする度に我らは分散した。もう我しか居らぬのだぞ。それを十分に分かっているのか?』


 正座をしていた二人は小さくはいと答えました。


『ならばさっさと子作りに励んで子を成せ。お前たちの能力は順次子に受け継がれると言ったろう』


 淡々と話す白いドラゴンとは逆に二人は今度はモジモジしだしました。なんなら顔も赤くなっています。


「いや、それは、分かっていますけど……なぁ?」

「ねぇ? こ、こんな所でそのままなんて……は、恥ずかしいじゃないですか~」


 全裸の二人に向かって、白いドラゴンは半目になります。


『お前たちが喧嘩をする度に時空を歪めるエネルギーが発生するのだが?』


 二人はエ、エヘヘ……とドラゴンから目を逸らしました。


『何度も言うが、この星は我らの力を合わせ、生物が生まれ育つように造った大事な星。お前たちの夫婦喧嘩で壊す訳にはいかん。この星が壊れた時はお前たちも死ぬ。お前たちはこの星でもあるのだ』


 二人は次にドラゴンが何と言うか分かっていたので、大人しくしていました。


『そのお前たちが喧嘩をする度に歪む時空からこの星を守る為に、水竜、金竜、火竜、木竜、土竜、天竜、海竜がそれらに同化し引っ張っていってくれた。そして今、冥竜も行ってしまった』


 二人は、二人を叱る声が白いドラゴン一体だけになってしまって、実は落ち込んでいました。


『我らの力が混ざりあったこの星だけが、我ら以外の生物への可能性があるのだ。我らの一体だけでは成分が足らぬ。手直しももう出来ぬ。我らの希望はお前たちにかかっている』


 二人は神妙に頷いたのを確認した白いドラゴンは、少し口調をゆるめました。


『……と言ったところで、そうなったらそれまでなのだろう。未来とは不確かなものだからな』


 白いドラゴンは空を仰ぎました。同化して星になった彼の仲間は遠く、見えません。


『さて、太陽に引っ張られぬように我は最期の力でこの星を回らねばならぬ。ではな、仲良くやれよ』


 二人が引き止めようと立ち上がる前に、白いドラゴンはサアッと静かに飛び立って行きました。その姿は上空で丸くなり、月になりました。


 二人は月を眺め、いつしか手を繋ぎました。


「うるさいうるさいと思っていたけど、本当にいなくなると寂しいな……」


 男が月を見ながらぽつりと言いました。


「うん……私たち、ちゃんと出来るかしら……?」


 女が大地にそっと手で触れました。


「生まれてから喧嘩ばっかりしたけど……お前までもいなくなったら嫌だなぁ」


 女が見上げると、男は眉間にシワを寄せて女を見つめていました。女は目に涙を浮かべました。


「私も嫌だよ……」


 女のこぼした涙は海になりました。そのままだと溺れてしまうので男は大地を引き上げて大陸を作りました。女は月から隠れられるように山を作りました。その様子に男は苦笑し、空に雲を作りました。


 女は男に寄り添い、男は女を抱きしめました。


 月は静かに地上を照らしていました。
































「ちょっ!ちょっと!?氷山が溶けてたけど!? ジィさんとバァさんは今度は何で喧嘩してんだよ!?」

「おお来たか!原因なんぞ知らん! とにかくもう中心地には寄るなよ!」

「父さん!母さん!舟の準備が出来たわ!早く生き物を誘導して!」

「いや!舟の方を動かすから目についた生き物全部乗せてくれ!」

「兄さん、こんな小さい舟で皆を乗せられるのか!?」

「大丈夫!舟は拡張できる!」

「姉さん、植物は!?」

「大地に根っこが残っていれば大丈夫!そのくらい強くした!」

「……あ。月からの誘導光が見えたよ~」

「よっしゃあ!まだ見捨てられていなかったーっ! 最後に月に向かうから、その光を見失うなよーっ!」



 そうして、二人の喧嘩の度に世界は様変りしていきましたが、その子孫たちは臨機応変に対処していきましたとさ。






 おしまい。


……企画参加、ドキドキ(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] こ、これはなんていう……愛に満ちた独特の神話( ´∀` ) 実際にこういう始まりだったとしても、私はいっこうに構わんッッッッ(ぇ
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