僧侶頑張る……?
回復役って大変。
……そんな話。(約2100字……ちょっと長い……)
「うがあぁぁぁぁぁあっ!!」
小柄な女の子が、女子らしからぬ叫びをあげました。
彼女は僧侶。回復役として討伐パーティーに参加しています。
小柄なために年若く見られますが、パーティーのリーダーである剣士と同い年です。
一通りは叫んだのか、ぜえぜえとする僧侶に剣士がそおっと声をかけました。
「……もういいか?」
「良いわけあるかボケ何回言えば分かるんだよ私は回復役であって魔法じゃ直せないお前らの破れた服を直すだけの人員じゃないっての」
ぜえぜえとしていた割りに一息でけっこう喋った僧侶に感動しながらも剣士は困りました。
「だから、街に戻ったら服を買おうぜ? ドラゴンだけあって宝石類もたくさんねぐらにあったし、全員分の服くらい余裕で買えるって」
軽い調子の剣士を僧侶はギロリと睨みます。
「清貧を尊ぶ国一番の貧乏寺院出身の私にそれを言う?」
剣士は瞬時に背中にまで汗をかきました。何度睨まれても慣れません。
しかし僧侶は一つ息を吐くとケロリとしました。
「ま、そんな事はあんたらには関係ないか。ほれ、さっさと破れた服を持っておいで。街に戻るまで女の子にボロボロの服を着させるんじゃないわよ。男は後でね」
そう言うと、僧侶は自分の荷物から手芸セットを取り出しました。それを待っていた着替え済みの女子メンバーが僧侶のまわりに集まります。全部で5人。僧侶を入れるとパーティー内の女子は6人です。
今回のドラゴン討伐のために組んだメンバーは、剣士、僧侶、戦士、魔法使いの4人。
ドラゴン渓谷に入り進むにつれ、仲間がやられたり、逃げてるうちにはぐれたりした冒険者を吸収しながら、最終的には12人になりました。
もともと今回の討伐のためだけに組んだ4人でしたので、連携がいまいちなところにどんどんと人数が増えてしまい、その度に連携の練習を兼ねてモンスターを倒して来ました。
しかしドラゴン渓谷はドラゴンだけでなく、他に強いモンスターもいましたので、いつもメンバーは傷だらけになりました。
幸いにも、僧侶の他にシスターという回復役、薬師という薬のスペシャリストがいましたので、命を落とすまでのことはありませんでした。
しかし。僧侶以外、裁縫ができないという事が判明。
シスターは裁縫ができるにはできるのですが、とっても遅いのです。僧侶が袖の破れを直し終える頃、シスターは玉結びをやっと成功させていました。
他の女子は針に糸を通すのすらイライラとしてできません。
男連中に至っては、裂かれた場所は破り捨てるという事を平気でやらかしました。さらにそれを焚き付けに使おうとしたので僧侶は全力で止めました。
『使える物は使えると思えるうちは使えるように使うべし!』
そう叩き込まれて育った僧侶は、毎日の空き時間を裁縫につぎ込むことになりました。
「すごい!」「毎度惚れ惚れするわー」「速いよね~!」「友達の家が服屋さんなんだけど、そこのお針子さんより速い気がする……」「見てると簡単そうなのになぁ」
女子がきゃいきゃいしているうちに、男子は野営の準備をします。
僧侶が服を繕いだしてから役割分担が固定しはじめました。
場所によっては小動物を狩って、それが食事時に出ることもありますが、基本は携帯食です。片付けも楽です。
人数が多いと夜間の見張りも交代が楽で、僧侶は見張りを免除してもらって繕い続けました。
「鎧はちょっと凹んだだけなのに、なんで中のシャツは斬られたように破れてるのかしら……?」
戦士は全身鎧をまとっています。しかし彼のシャツの方がいつもボロボロです。なぜそうなるのか本人もよくわかっていません。そうなると僧侶にはとんと見当もつきません。
剣士も魔法がかかったマントを羽織って、軽鎧を着ているのですが、彼もマントよりもシャツの方がボロボロになります。
不可思議。他のメンバーもそうです。僧侶は後衛なので、あまり攻撃を受けません。
しかしその不思議現象が僧侶のストレスになり、彼女は戦闘後にやさぐれることが増えました。
それでも、破れた服は繕わなければならないという信念のもと、僧侶はせっせと直します。自分を含め12人分をほぼ毎日繕うので、今では街のお針子に匹敵する腕になりました。帰ったら繕い物の内職が増やせるかな~?と考えはじめました。
僧侶は気づいていませんが、他のメンバーは何となく思うことがありました。
何がどう作用するのか、僧侶に繕われた服を着るとダメージが少ないのです。
世間にはそういう刺繍はありますが、効果はおまじない程度です。
僧侶に繕われた服を着ると、致命傷になりうる攻撃も、服がざっくりと切られはしますが身体にはかすり傷程度しか残りません。なのであっという間に回復です。
リーダーである剣士は、前衛職のためにいつもダメージの多い戦士に言いました。
「繕ってる時のあのブツブツ言っている文句が呪いに昇格したのかもしれないな……」
「恐いんですけど!……でも鎧まで守ってくれますからね……どんな術ですかね……?」
実際に助かっている事に毎回感謝していた戦士は、剣士の言いように微妙な感じになりました。
そして少し考えた剣士はぼそりと言いました。
「もったいないの呪い……?」
おしまい。
『服が破れた女の子は好きですか?』……より(笑)
前に書いた『魔法使い』と似てるなぁ……残念私!(笑)




