姫は褒美になりません
「姫と結婚を…」
「要りません」
そんな話。(約1100字)
とある国のお城の謁見の間。
世界を脅かした魔王を倒した勇者一行が、王様にその報告をしていました。
勇者、戦士、魔法使い、僧侶、武闘家、そしてこの国の姫。
戦士、魔法使い、僧侶、武闘家は国でも有名な実力者で貴族でもありましたが、勇者は田舎から出稼ぎに来てたまたま聖剣を抜いてしまっただけの農民でした。
王様は皆に褒賞を約束してくれましたが、平民の勇者にはさらに姫と結婚できる地位を与えるとも約束していました。
姫は勇者がどんな人物かを見極める為に、旅に同行したのでした。魔王を倒したことだし、姫としては結婚するのは悪くはないと判断していました。
「勇者よ、よくぞ魔王を倒してくれた。褒美に姫を娶るがよい」
「え、要りません」
「は?」
「ちょっと!どういう事? 私を妻にできるなんて、これ以上ない褒賞でしょう!?」
「剣も使えねぇ、魔法も出来ねぇ、城で待ってろってのに無理矢理侍従侍女50人引き連れて付いて来た上の我が儘放題。野宿だってのに風呂を沸かせとか、俺は糞の役にも立たない人間を初めて見たわ。そんな女を娶るわけねぇだろ。王様、ほんとマジで勘弁してください。俺たち、魔王を倒したんですよ? 姫よりも金を下さい」
「そ、そんな事言わずに。ほ、ほらほらなかなか美人だろう?」
「草刈り鎌も持てない食っちゃ寝美人なんて心の底から要らねぇです」
「田舎者が無礼な! お父様!どうぞ勇者の首を!」
「ホラな王様。娘可愛さも分かるけど、これを魔物を倒しながら付き合って来た俺らに割り増しで褒賞もらえませんかね? 戦士なんて綺麗な金髪がゴッソリ抜けたんですよ? 魔法使いは爪を噛む癖がついちゃったし、僧侶なんて修行をやり直さねばとずっとブツブツ言ってるし、武闘家は隈が取れなくて暗殺者にジョブチェンジしようとするし。侍従さんや侍女さんたちだって本当に辛抱強いよくできた人たちですよ? 国を担っていく有望な人材を潰してまで守る程の価値は姫さんには無いと思います」
「な!なんという無礼!!キーーッ!!」
「……勇者よ、お前でもどうにかならんか……?」
「お父様!?」
「無理。てよりも嫌」
「勇者ぁ!!」
「……そうか……やはり、駄目か……」
「お、お父様!?」
「修道院も無理だと思うんで、幽閉をおすすめします」
そうして、あわよくば姫の性格矯正を目論んでいた王様はすっかりそれを諦めました。
姫は末長く幽閉され、調子を取り戻した戦士、魔法使い、僧侶、武闘家、そして旅に同行した侍従侍女たちも加わり、国はより栄える事になりましたとさ。
褒賞を割り増しでガッポリもらった勇者は故郷に戻り、畑を耕しながら、青く晴れ渡った空を眩しそうに見上げました。
「平和っていいなぁ」
おしまい。