45.修学旅行1日目 その4
女風呂で盛り上がっているとき、ジャックとアレンは『しまった』という表情をしていた。
風呂エリアに入る扉にはこんなことが書いてあった。
《ご迷惑をお掛けしますが、間違いがあってはいけないので7:30~9:00まで私立参之森女学園の貸し切りとなっています。御理解とご協力をお願いします。 ホテル東雲》
扉の前には男性教員が一人で立っていた。とても温和そうな老年の教師だった。
彼は少し考えると、
「女性なら大丈夫ですよ」
「いや僕ら男だって」
「あ、失礼しました」
ベンチで待っているか、と二人でベンチに座る。ジャックがこんなことを言った。
「僕らってそんなに女に見えるかね?」
「さあな。背が低いのもあるかもだし」
「だからトイレ入ると驚かれるのかい。アレンはそういうことないだろ?」
「一回痴漢されそうになったことはある」
「あ、僕がそいつの指握りつぶしてやった時だね」
「お前そんなことしてたのか!?」
「冗談だよ、指をへし折った」
「変わってない!」
ジャックは『んー?』と声を出したあと、話題を変えた。
「あそこの教師らしき人って新幹線のなかの怒鳴り声の人?」
「え」
あくびをしながら京都案内の本を見ている老年教師、ジャックたちは名前をしらない國城先生。とても怒鳴る人には見えないがこういう人ほど怒ると怖いのはいやというほど知っている。
そして、國城先生に聞こえないように
「地味に國城組の組長に顔が似てるね」
「あぁ、そうだな」
世界の暗部の観察眼はその教師が暗部関係者なのではないかと考えた。
ジャックが名前を上げた『國城組』は参之森地区にあるヤクザの名前。若い男が組長で、『大きな枠組み』に入らない新しいタイプのヤクザだ。國城会の母体、と言った方が適切かもしれない。別に薬物とかを扱わず、多くの│能力者を保有しているため危険視されているのだ。
「………もし誰かに危害が及ぶなら、容赦はしないのでありますよ」
「│口│調」
思わず裏社会モードに入るアレンを押さえつつジャックは少し考え事をする。
そして、決行した。
「ねえアレン。綾瀬百合ちゃんのことだけどさ」
國城先生が、反応した。しかし少しだ。ジャックやアレン、もしくは裏社会の人物でないと感じ取れないような些細な動き。
「……百合さんがどうしたんだ?」
「ここの修学旅行客らしいよね。さっき白い髪が見えたよ」
目的は、國城という教師が暗部側か炙り出すこと。百合の能力は世界を揺るがしかねないのだ。本人は『口内炎できたから唾に薬効持たせよう』とか『頭ぶつけて痛いから頭のその部分の汗に痛み止の成分加えよう』とかにしか使っていないが、名前の通り『│生物災害』、裏社会で有名になれば兵器利用もされるほどの能力だろう。
クローンでも作れれば多彩な毒を扱う広域殺人兵器の完成かもしれない。
國城組にそのような野望があるかわからないが、裏社会に情報が出回れば大変なのだ。
わざと聞こえないように、裏社会の住人には聞こえるような声量で
「あの子、狙われてるらしいから守らないとね」
國城先生が、動いた。ジャックもアレンもポケットに隠せる武器に手を伸ばした。
しかし、反応は予想していたものと違った。
「その話を聞かせてください」
焦ったような顔だった。
「………思い通りに行き過ぎて怖いと思ったら思い過ごしかい。いや、思い違いだったね」
「國城さん、でいいですか?」
「えぇ、國城茂と申します」
國城、は当たっていたらしい。しかし、あそこの初代組長は現在38歳のはず。
慎重に話を進めようとしたところで
「貴方がた、いや君たちが世界の深いところで戦う人物だと信じて言う、私は國城組組長國城大和の父親だ」
父親。國城組組長の父親は、カタギだったのか。
「………予想とは大きく違ったね。で、何を聞きたい?」
「私の息子が、これに関与しているかどうか」
「聞いてどうする気だい? まさか、止めにいくとかそう言う訳ないだろうね?」
「殺してでも止めにいく。私は、もう間に合わないなんてごめんだ」
「間に合わない、とは?」
「おい、ジャック!」
「止めるなよ、アレン」
ジャックは裏社会でも異端であるが、力押しの脳筋野郎、という評価は端からみた評価である。
綿密な情報調査を行い、能力による変装をフルに使い、ターゲットを行動不能にできるような脅迫を行った上で、相手を叩き潰す。万が一命が助かったとしてもすでに『大切な人』の情報が漏れている以上死ぬと同義。
容赦がない。価値観が違う。こいつは平然と一般人ですら巻き込むのだから。
「そこは、言わなくてもいいですから」
「………ありがとう」
話した。自分たちは裏社会で仕事をしていると自己紹介し、百合が能力者だということも話した。國城先生はそこまで驚いた様子もなく、
「まあ、あの綾瀬蘭さんの娘なら違和感ないでしょう。ニュースになりましたからね、クロロホルムの充満した部屋で居眠りしていたなんて」
笑いながら言う國城先生は、暗部から見ても『強い』と感じる。しかし、重要な点はそこではない。
「可能な限りでいいんだ。僕らは今『暗部とは一切関係ない一般人』として旅行してる。だからもし何かあったら、この電話番号にかけてくれ」
それはジャックやアレンからしたらある意味最も信頼のおける人物『白影ヨキ』の電話番号。どこにでも表れる神出鬼没の殺し屋。
「頼んだよ」




