21.アリエス先生の能力者講習その1
「百合さん」
「なんでしょうか……」
「やりすぎです」
「はい……」
アリエスの『フラスコ』内部にあるログハウスが破壊されていた。能力の制御を目的とした訓練でアリエスが『身を守るには毒の噴霧以外の攻撃方法も必要』と余計なことを言ったのがはじまりだった。
尾の先端は水鉄砲の銃口みたいだった。ここから発射されるのは毒液で、威力は水鉄砲というか鉄砲水だったが。
まるで高圧水流カッターのように噴射された水はログハウスの壁をぶち破り何本か木を薙ぎ倒した。毒の種類は麻酔だった。
「なんというか、軽自動車にジェットエンジンを積んでいるようなアンバランスですね」
「誉めてないですよね」
「普通行きすぎてもモンスタートラックとしか形容しないのですが。本当に素質ありですね」
どうやら誉めているつもりだったようだ。
「さて今日のざつが、座学は能力者のランク付けについてです」
「先生、いま雑学って……」
時々授業みたいな感じでミュータントについて教えてくれるのはアリエスだ。
桜は忙しい。百合を心配して頻繁に休みをとる教師としてどうなのか心配になる行為をしているが、最近では発作やら蕁麻疹やらもなくなったから仕事に打ち込んでる。身近にいるミュータントに詳しいミュータントはこの二人しかいないのだ。
山中に訊いてみる、というのは桜が着いてきそうだったからやめた。
「まずは世間一般、捜査官やマスコミも使っているものが『危険度』です」
ここは風通しの良くなったログハウスの地下室。とても大きなスピーカーもある、音楽室みたいな部屋だ。
そこのホワイトボートにアリエスはこう書く。
『マグニチュード5.6 震度3』
「しかし『危険度』は能力そのものの大きさではなくもたらされた被害によって上下します。被害というのは何人殺傷したか、どんな規模の建物を破壊したか、他のミュータントへの影響力などです。地震ならば震度ですね」
『綾瀬百合 危険度:E』
Eに赤で丸をつけて『これが最低危険度』と書く。
「でもそれって見られてなければ上がらないんじゃないんですか?」
死体を完全に焼いたり、もしかしたら暗黒空間に飲み込む能力だってあるだろう。その前には無意味なのではないか、と思った百合だったが、
「大体の捜査官はミュータントに強い恨みがあります。だから個人の独断、とまではいきませんが多数決で危険度が上がることもありますよ」
予想以上にまっくろだった。
アリエスは百合の危険度の上にこう並べた。
『ゴーレム 危険度:SSS』
『霧の教団 危険度:SS』
『死神 危険度:S』
『ジェイソン 危険度:A』
『スタンバトン 危険度:B』
『グラスホッパー 危険度:C』
『バタフライ 危険度:D』
『綾瀬百合 危険度:E← これが最低危険度 』
「対能力者執行部の公式サイトにはリスト化されたミュータント危険度がありますよ。目撃情報でもなんでも電話してそれがきっかけで確保や処分に向かえば賞金がもらえます」
百合さんの名前は入ってませんけどね、とアリエス。不思議に思ったことを聞いてみるとリストのミュータント名については全部特徴などからの連想で書かれているらしい。変なニックネームがつけられていることもあるのか、と聞いてみると、ホワイトボートにこんなものが付け足された。
『ヘルメット・オジサン 危険度:A』
『ムッシュ髭もじゃ 危険度:SS』
こういうものは大体小学生が目撃したミュータントに対するあだ名らしい。ムッシュ髭もじゃに至っては瞬間移動ができる駄菓子屋のオジサンらしいが調べていったら何度も人を分厚い壁のなかに瞬間移動させて殺すというミュータントだったようだ。
「単独の捜査官はCランクが倒せれば優秀な方ですよ。基本彼らは集団行動ですし」
どうしてそんなことを知っているかは聞かないでおこうと思った。アリエスとの付き合いは長いもののあまり私生活についてはわからないこともある。もしかしたらリストアップされた危険度Aのミュータントの中に彼女のあだ名が紛れていることもあるかもしれないのだ。
「平和に暮らしたいなら騒ぎを起こさず、戦いたいなら事件を起こせば望むようになります。もっとも後者は長生きできないですけど」
しかし。
そういったあとにホワイトボートにこう書く。
『不死身のミュータント』
それは、マリアとかの………。
「意外と身近にいるものですよ、このタイプは」
「め、珍しいんじゃ?」
「ここにもいますよ」
自分を指差すアリエスは、何だか自慢気に見えた。
「不死身にも色々と種類がありましてね、おおまかに『とかげみたいに再生』『損傷をなかったことに』『破損箇所は拾いに行かなくてはいけない』『傷は治らない』の四種類で最初からAからDまでに分かれています」
私はAです、と言ってトカゲの尻尾をつけたデフォルメ化した自分の絵を描く。腕が落ちているが腕は生えている。白衣の右袖だけノースリーブだった。
「Aは一番想像しやすいものでしてね、アニメの不老不死も大体これでしょう。腕がにょきにょき生えてきます。実際はかなり数が少ないですがね」
次にBと書いた下に3頭身のローブを着た人物を描く。これもまた右袖だけノースリーブだった。
「タイプBは、例えば腕が切断されたとしても」
ローブの人の右腕を、少し離れたところに点線で描く。
「次の瞬間には腕は治っていて前の腕は綺麗に消滅します」
………どうでもいいがアリエスの描く絵が可愛くてそこが気になる。
「タイプCは多くの不死身のミュータントのタイプです。腕を切られた場合、落ちた腕を拾わなくてはなりません」
次は金髪のつり目の男性キャラクターが自分の左腕を拾いに行っている絵を描いた。
「もし、だけど、腕とか粉々になっていたらどうなるんですか?」
「破損部位の大きさによってはタイプAのような再生をしますね」
最後に、と区切って
「タイプDは正直言ってとても稀でメリットはひとつもありません。といいたいところですが」
そう言って倒れている黒髪の少女を描いた。その頭には天使の輪があった。
「傷が治らないから不死身なのに『死にます』」
「え?」
不死身なのに死ぬ。それは矛盾していないかと百合は思った。
「死後発動型能力、と言いまして肉体が滅んだり心臓が止まったあとに幽霊の状態で能力者となったり死体をそのまま使って動き出したりします。私が最近読んだホラー小説の怪人がこの系統だと言えますね」
つまりゾンビというわけだ。百合の頭の中に金色の鬼がなぜか浮かんだ。
「このタイプで、死体を体にしたミュータントは不死身のタイプがAかCになります」
アリエスはホワイトボートをひっくり返し、裏に新しいことを書き始めた。
「次は地震でいうマグニチュードの部分についてです」
並ぶのは0から10までの数字。
「これは、まあ実用性皆無ですね」
「なんでですか?」
「温度計もないのに寸分の狂いもなく温度がわかるとしたら、その人は確実にミュータントですよね。まだ測定方法ができていないんですよ」
一応、と区切ってから文字の横に字を書き始める。
0:能力なし
1:湯タンポレベルの熱操作能力
2:スプーン曲げ
3:ポルターガイスト
4:一般的なミュータント
5:ほとんどの肉体変質能力者
6:ほとんどの生物創造能力者
7:部品部品での能力実体
8:人型などの形をもつ能力実体
9:不死身のミュータント
10:現実改変 常識歪曲
「曖昧ですけどね。一応の基準です」
これを見てふと思う。
In this city.は常識を曲げているのでは、と。
質問したかったが何故か口にすることが出来ずに今日の授業は終了した。




