第一章4 「傲慢たる支配者」
※2017/2/1 本文、一部修正しました。
俺の名は代々城彼方、流刑囚だ。現在は刑の執行を待ち、拘置所に収容されている身だ。そして今、実刑に向けての説明会への参加義務を全うしている真っ只中、なのだが…。
俺は、ここに来て以来無かったほど焦っている…。
多少なりとも緊張感をもって参加するのが当然な場ではあるが、しかし、それを考慮してもこの場に漂う緊迫感が異様であるのは自明の理だ。
何しろ、その場にいる刑務官の全てが銃を抜き、俺たちの方を鋭い眼光を以って睨み付けているのだから。
否、正確に言えば”俺達”と言うのはおかしい。
他の囚人と刑務官の視線、そして銃口が向くのは俺の後ろ、一人椅子から立ち上がり、周りを睨み付ける例の馬鹿嬢様”姫折冬那”と、その取り巻きであり拘束服により拘束され、机に押さえつけられている”片桐芹”と言う奴等である。
彼女らを見る刑務官の目は全てが鋭く、焦りと困惑が乗っている。囚人の中には怯えている者もいる。このシチュエーションを楽しそうに眺めているものまでいるのが、流石は大罪人と言ったところか。ほめられたことでは決してないが。
そして、なぜかその視線は俺にまで向けられていた。
どうしてこんなおかしな状況になってしまったのか。その発端は、十数分前に遡る。
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冬那による、彼方への死刑宣告があった時から場は移り、先とは別の部屋で当日の動きについての説明がされている。
部屋の中央部にきれいに並べられた長机。その周りを囲むのは20名ほどの刑務官。各共同室の担当をしている看守や、このために呼ばれた監視役も混じる。そして、長机に合わせて用意された椅子に座るのは、今回の説明会の聞き手、60名にも及ぶ囚人たちである。
その中でも右後ろの方に座る女性、姫折冬那の静かな憤慨は収まることを知らなかった。
朝目が覚めると、彼女は拘束服を着せられ、腕まで拘束されていた。看守が女でなければ殺してやろうかとも考えたほどだったが、彼女は不満を押さえつけ大人しく説明会に参加した。
ここに入る直前に死んでしまった彼女の祖母の言い付けである、「所の方の言葉にはしっかり従うこと」を守り続けてはいたが、彼女にとってそれはストレスでしかなかった。
その上、今目の前に座っている男、話に聞いていた『流者の箱舟』を見せられたあの部屋で隣にいた男に、少し前に馬鹿扱いされたのである。余りに呆れたものだったのでそいつに対して死刑宣告してやったものの、不満の募っていた彼女の怒りを更に大きなものにするには十分であった。
こんな馬鹿な男は、相手にすることすら嫌悪感を抱くというものである。
先程から数名の刑務官がこちらを横目に見ている。彼女の怒りを警戒しているのだろうか。無理もない。
その行動すら、彼女には喧嘩を売られている風にしかとることができなかった。それ程に怒りを抱えていたのである。
実際のところ、彼女は思考が常人とは逸脱しているのである。頭は回り、考えてから行動することはできる。しかし、その考えた結果自体がおかしいのが彼女なのである。
そしてその結果が、遂に怒りとして爆発したのである。
――――バンッッ!!!!!!
部屋内に響く打撃音。それと同時に、彼女は椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がっていた。
「もう我慢ならないわ。この国には馬鹿しかいないの?」
その叫びにより、皆の視線が彼女へ一点集中したのは間違えようのない事実だ。
「この私を国から追放するとか、本気で言ってるの?笑わせないでくれる?まさか私のことを知らないだなんて言わないわよねえ?私は姫折家当主の孫にして、”聖ティーチェ教団”の現教祖、”姫折冬那”よ」
沈黙の中に騒めきが走る。それは名を聞いたことによる驚きなのか、発言自体への驚きか。
「例の船、『流者の箱舟』だっけ?確かにあの時のに似た力は感じたけど、弱すぎる。あの程度の技術で私の権能を超えるだなんて、最早鼻で笑えるレベルね」
鬱憤を晴らしてやった、とでも言いたげな満足そうな表情。その様子からわかるように、彼女にはかなり子供っぽいところがあるようだ。
大罪人を相手する官職を担う者達であれば、これこそ鼻で笑う程度の威勢ではあった。しかし、それに対する刑務官達の目つきは鋭く、多少なりとも焦りを孕んでいた。特に彼女の部屋を担当していた女性看守は、見ればはっきりとわかるほどの焦りを顔に浮かべていた。まるで「一歩遅かった」と後悔するように。
「ほら、芹も何か言ってやりなさい」
“芹”と呼ばれた隣に座る女性は、同じく冬那の不満を口にするべく席を立とうとする。その瞬間、
――――ピッ
今日一度聞いたような電子音がどこからか鳴る。と同時に芹の体はリストスーツにより拘束され、机に顔を伏せる。まるで、その顔を何らかの力で押さえつけられるように。
しかし、ここにいる誰もが、その違和感に気が付いただろう。彼方や何方もその中の一人だ。
「あッ…………クッ………」
「構え」
冬那の唸りと、部屋の前方に立つ一人の刑務官の声がほぼ同時に発せられる。そして一斉に向けられる銃口。
威勢に対する驚きから一変して、部屋の中には静かな緊張感が走る。
「許可を」
焦りを落ち着かせつつ、例の女性看守が何らかの許可を求める。状況から察するに、おそらく発砲の許可であろう。
冬那が芹に手を差し伸べた瞬間、
「よし」
そこにいる囚人は、みな何らかの状況の変化への覚悟をしただろう。しかし、その覚悟は完全に無駄であった。
「ヒッ」と言う、誰かの竦むような声が聞こえたものの、みなが想像していたようなことは何一つ起こらなかったのである。
確かに、声と同時に何人かの刑務官が引き金を引いたのだ。万が一の時の為に用意されていた、気絶用の銃弾は音もなく、そして見えることもなく冬那の方へ向かっていった。しかし、冬那自身には何の変化もない。彼女の体から数cm離れた空間に、とても微量の電流が消える瞬間が見えるのみ。気絶させるための武装のはずが、一切効果を見せなかったのである。
その二つ目の大きな違和感を根源とする焦りは刑務官中に、まるで波紋のように伝わっていった。
「だから言ったでしょう、あなた達の程度の力では私には通用しない…」
沈黙を破ったのは、その波の発生源である張本人、姫折冬那だ。発砲許可を出した、おそらくこの空間の中で最も権利を持つ刑務官を睨み付けて、呆れの混じった声音を隠そうともせずに。
「やるなら私を捕まえた時くらいのを用意しなさい。きっと今のあなた達には無理なんでしょうけど…」
「ほう……君がティーチェの姫折冬那と、隣がペアの片桐芹か……確かに君の力、噂通りの凄まじいもののようだね」
他者に比べればさほど冷静さを失ってない。しかし、予想していたからと考えればそれも肯ける。
そう、彼女は明らかに異能を持つ存在であるのだ。
「これから起こる出来事を強制的に改変、か……片桐の件に関しては反応から見ても予想外だった、と言ったところか。その力、まさに権能と言うべきか…」
通称をティーチェ、正式な名称を「聖ティーチェ教団」。姫折家の人間を中心として成り立つその組織は、競争の激しさゆえに擦り切れてしまった者達の拠り所として多く存在する、所謂「宗教団体」の中でも、集団としての規模の大きさと、出回るよくない噂によって知名度の高い団体の一つである。そして、この教団にまつわる噂の一つ…。
若き教祖の「異能」についての噂である。
『月の扉』が現れるとほぼ同時期に発見されたと言われる、人間にはありえない能力を持つ者の存在。この”姫折冬那”がその例の一つであるということは、既に聞いていたことなのだろう。しかし、それを相手にするとなると、これ程面倒で抗うことのできないようなことは他にはない。忌々しげに睨み呟く刑務官。
自分自身に起こる出来事に関して予想できる範疇で、それを未然に防いだり、その結果自体を変えることができる。言い換えれば、”運命”に抗うことのできる能力。それは明らかに人間の域を超えた力、あるいは小さな”神”にも等しい力であるともいえるのであろうか。それが、生まれ持った彼女の権能。
しかし、その力について、驚くよりも考える男がいた。代々城彼方だ。信じがたい話ではあるが、異能については彼にも思う節があるのである。そう、あの晩に彼を襲った「殺意」と、それにより生み出された攻撃そのものである。体験したのはあの一回限りだが、人知を超える力としては等しいものを感じる。
彼方の場合は、完全に乗っ取られて暴走していた形ではあるが、冬那の場合は、その人並み外れた力を使いこなしている様子だった。この差はどこから生まれるのか。あの傲慢さも、この力故に存在するものなのか。そもそもこの力の正体はなんなのか。解けない謎ばかり増えていくのである。
「私に対する感想なんてどうでもいい。それはわかり切った変わることのない事実。それよりも芹の拘束を解きなさい。さもないと、潰すわよ?」
「潰す?姫折、お前の力は起こりうる自称の改変。起こったことはどうすることもできないのだろう?対処の方法などいくらでもある」
事実、リストスーツによる拘束や銃撃からは逃れているものの、腕の拘束を解くことはできていない。あくまで予測が必要なのである。
例え彼女がここにいる人間をすべて処理することができたところで、部屋を閉じきってしまえば彼女にここを抜け出す手段はない。どちらにとっても、この状況はジリ貧でしかない。
「それに、今更異能など珍しくもない。現に、お前の目の前の代々城彼方の方が手に負えないだろうな」
「「は?」」
彼方と冬那、両者は話の急展開に対する驚きの声を上げる。
しかし、刑務官側からすればこれはあくまで時間稼ぎ。この事態に唯一収集をつけることが出来そうな存在がここに来るまでの、あくまで時間稼ぎなのである。
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くっそ!なんなんだあの偉そうな、いや、実際偉いんだろうけど、あの刑務官は!!!こんな面倒事に俺を巻き込みやがったぞ!!!!
この展開は、彼方にとっては最悪のものだった。
確かに、二人の力について考えていたところではあるが、あくまで俺の望むのは状況の早期解決。それに俺が関与することなどありえないのだ。つまり俺がこの会話に参加したところでいいことなどないわけで。
「代々城彼方…って、ああ、死刑囚のことね。こんな愚民が私を超える?ハハッ、ありえないわ。私は全てを支配する力を持った存在。こんな男の入る余地なんてないわ」
言っておけ。こういう奴は相手にするとダメな奴だ。無視するのが得策だと信じよう。
「……何黙ってるのよ。反論すらも思いつかないかしら?まあ、当り前よね。事実なんだもの」
なんだこいつ、俺にどうしてほしいんだ。
関わると碌なことにならない。そうわかってはいても、煽り耐性は低かった。流石にイライラしてきた。
誰かこいつを黙らせてくれ……。
と、その願いを叶えたのは、意外な人物であった。
「あ、そうですよ!」
わっ、びっくりした。いきなり声を発したのは、俺の隣の何方である。何か妙案でも浮かんだのか。状況が状況だから期待したいものだが。
「流れ着いた、その先の世界の支配者になればいいのですよ!」
……
………?
何をおっしゃってる?
「は?なんなのよ、あんたは。ああ、捕まってた五月蠅いやつか」
第一印象が酷いが、まあ、それで正しいのだから仕方ない。そんなことより、何方の奴が何を言いたいのかなんだが。
「彼方と同じくひどい言い様ですね、浅江何方です。ってそうじゃなくて、話の流れを端折りすぎましたね、失礼」
「私に有益な意見なんでしょうね、それは」
説明を求める冬那。俺も気になるところではある。
「あくまで僕の推論なので、あなたが気に入るかどうかはわかりませんが…冬那さん、でしたっけ。あなたはこの世界の頂点にふさわしい人物、ってことですよね?」
「当たり前よ。わざわざ確認するまでもないわ」
おお、こいつの土俵に入るのか?
「で、そんな冬那さんを追放しようとする国の考えが理解できない、許せない。そうおっしゃってましたよね」
改めて聞くと、ほんと頭がおかしい話だ。口に出すと確実に面倒なことになるだろうが。
「だったらですよ。そんな変な人間の存在する地球なんて捨てて、『流刑』によって流れ着いたところでその威厳を発揮したらいいじゃないですか!」
…ああ、なんて単純でよくわからない理論なんでしょう。通じるとしたら、扱いやすい馬鹿くらいなものだろう。
こんな話で釣ろうとは、これは計算なのか、何方の本気の考えなのか、難しいところだ。
「変な人間」なんていう表現を受けた刑務官達が少しピクついたのは見えたが、流石にここで反論するほど幼稚な考えの者はいないようだ。
肝心の傲慢女だが、
「…………」
黙って目を細めている。これダメな反応じゃないのか?流石にそこまで騙されやすい奴ではないらしい。ちょっとやばいかもしれない。
と、
「…確かにそうね」
あれ?
「そうよ、こんな地球にいる理由なんてないのよ。この状況を利用して私の新世界を創り上げればいいだけの話よ。寧ろ好都合だわ!」
前言撤回。騙されましたね。
「あなた、なかなか面白い考えをするのね。気に入ったわ。特別に私の眷属にしてあげる」
「え、け、眷属…ですか。あ、ありがとうございます」
顔が引きつってますよ、何方さん。
流石の何方でも、こんな奴の眷属にはなりたくないらしい。
夜に書くとこんな感じにしっちゃかめっちゃかになるんですよね...
そもそも、ここら辺のお話は早く進めたいだなんて思っちゃってるっていう()
設定が滅茶苦茶になっちゃってて、しかも今の段階だとわけわかんないですよね
ここら辺の解説は後々...
そんな感じで、僕の頭の中にあるストーリーを表現できる様に心がけるので、読んでね?(切実)