第5話
それは、まったくの別世界だった。
神秘的なほど大きな自然にひたり、彼女は時間の感覚さえ忘れそうになった。
そのおかげで、今までの出来事、会社での不愉快な思いを一掃することができた。
彼女は新しく力を蘇らせた。
日本に帰って来て、今後の事を考え始めたときだった。拓馬から電話をもらったのだ。
華浦は自分のマンションに帰り、拓馬の話を考えてみた。
確かに面倒な話に思えたが、さしあたって失業中の自分にとってはいい話かもしれない。
何か抜き差しならぬ事態になったら、逃げてしまえばいい。
華浦は拓馬に電話をした。
「拓馬、今度の話受けるわ。ただし、最終的な責任はすべて拓馬にあるってことだけは、はっきりしておいてね」
華浦は長椅子に座りながら、携帯の向こう側の拓馬に言った。
「ありがとう。華浦助かるよ。もちろん、君の降りかかることなんて、何もないから安心しくれ」
拓馬の声は弾んでいた。
これで契約成立と華浦は思った。
初めての林田工業への出社日、華浦は人事部長に連れられて、専務である林田圭の部屋を訪れた。
林田工業の本社は10階建てのビルで、林田専務の部屋は9階にあった。
人事部長が専務の部屋をノックした。
「どうぞ」と専務が言った。
部屋のドアが開けられると、ドアの正面のデスクに彼はいた。ノートパソコンから顔を上げた林田専務は彼女と目があった。