第4話
林田拓馬と吉岡華浦は大学時代の同級生である。
林田工業の御曹子である林田拓馬は、学生時代から高級車を乗り回し目立つ存在だった。
陽気で気前のいい彼は、いつも大勢のガールフレンドに囲まれていた。
地方出身の華浦は、こういう人種もいるのかいう目で彼を見ていた。
さほど仲がいいというわけでもなく、単なる同級生という程度の付き合いだった。
華浦の学生時代はほぼ勉学一色といっていい。
安い給料の地方公務員の家庭に生まれ、都会の私立大学に通う彼女は、親に対して申し訳ない気持ちから一生懸命に勉強に励んだのだった。
拓馬と華浦は、対照的な存在だ。
彼女は勉強のかいがあり、一流企業の総合職として就職することができた。
ところが、その会社も10年の間に経営が傾き、華浦は会社に未来がないと考え、早期退職に応じたのだった。
結局、振り出しに戻ったのだ。
彼女は、そんな自分をまた奮い立たせるために、旅に出ることにした。
ハワイのマウイ島だ。
TVで見たマウイ島の夕陽の美しさに、彼女は惹かれた。
マウイ島で10年間の仕事の労をねぎらうことにしよう。それから、今後の自分について考えていこう。
マウイ島のリゾートホテルに泊まり、ホテルのプライベートビーチで、荒く押し寄せる波をぼんやりと見たり、きままに本を読んだりして過ごした。
そのホテルの上層階の部屋から、鬱蒼として黒々としたジャングルが広がっているのを見渡せた。
そのジャングルの先にあるのは青い太平洋だった。
ジャングルからは聞いたこともないような南国の鳥たちの声が、高く響きわたっていた。