第3話
シャンパンが運ばれ、二人は乾杯をした。
「今日の再会に乾杯」と拓馬が言った。
「実は華浦、林田工業は現在厳しい状況にあるんだ」
酒に弱い拓馬は、すでに顔を赤くしている。
「どういうこと・・」と華浦が彼の顔を見て言った。
「あの会社は祖父が経営者なんだが、祖父も年なので、会社にはほとんど来ていない。実質的な経営は、親父と親父の亡くなった兄の息子の圭が取り仕切っている。その圭が問題なんだ。親父と経営方針が合わない」
華浦は前菜を食べながら言った。
「親族同士でもめているのね」
「まあ、恥ずかしい話なんだがね。圭という男は利己的で冷たい。従業員のことなんて何も考えていない。自分のために会社を食い物にしているんだ」
「よっぽど嫌な人間なのね」
「そうだ。あいつを何とかしたいんだ。そうしないと会社が危ない」拓馬は力強く言った。
「それが、私と何か関係があるのかしら」
華浦はあっさりと言った。
「つまりだ。奴の動きを知りたい」
拓馬はう上目づかいで、彼女を伺った。
「君に圭の秘書になってほしいんだ」
華浦はふうんという顔をした。
「つまり、私はスパイね」
「まあ、そんなところかな」
「私はもめごとに巻き込まれるのはご免こうむるわ」
拓馬が持って来る話はこんなことだろうと華浦は思った。
「そんなに長い期間にはならないと思う。君のような頭のいい女性にはうってつけなんだ。頼むよ華浦。謝礼ははずむよ」
彼は哀願するように言った。
華浦はシャンパンを飲み干して言った。
「少し考えさせて」