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白稜学園広報資料室  作者: 陣屋との
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IZ Report no.1

 さて。まずは今現在我々を取り巻く状況について、多少なりとも整理をしておこうと思う。


 “三里塚の動乱”に端を発する日本国内の内乱は、いま現在においても継続している。1960年代に台頭した大和帝国鎖環連合と言われる組織――今で言うところの黒軍が、一国の軍――日本公帝国軍――白軍に衝突した一番始めの事件が、この三里塚の動乱だ。


 これはそれまで軽視されていた大和帝国鎖環連合(書くのがめんどうなので以下は大和鎖連とする)という一組織が、政府軍である日本公帝国軍と拮抗しうるだけの軍事力を蓄えていた。そのことが始めて明るみに出た事件であり、そして、この戦争のきっかけと言える事件だった。


 均衡状態を保っていた両軍はこれにより、以降なし崩し的に武力抗争へと踏み出していく。三里塚から東京へ、京都へ、全国へ。そうしてこの日本は、未曾有の内乱状態に落ちていった。


 だが今現在において、この戦争は少しだけ、その形を変えている。

 “変えている”――いや、“変わってしまった”、だろうか。その性質を同じくしたまま、形だけが変化……言うなれば、拡大したのだ。


 それには、例え個人であろうと企業であろうと学校であろうと、どちらの立場かを表明しなければならないことが大きく関係している。……の、だが。その説明のためには、そもそもどうして大和鎖連などという一組織がここまで巨大な勢力になり得たのかを、説明しなければならないだろう。


   ◇


 まず大和鎖連とは、海外文化を取り入れ諸外国との関係を密にしようとする日本の中で、「諸外国には与しない」と主張しはじめた組織だ。勃興当時右派の一派でしかなかった大和鎖連は、まずはその知名度を上げなるべく多くの協力を得ようと尽力した。


 彼らの行ったことは有り体に言えば単純だ。“協力すれば協力しただけの融資をする”。


 日本公帝国軍最大の誤算は、この資金がとんでもなく莫大であったということ。江戸幕府時から脈々と受け継がれてきた資金であるというトンデモ説まで確認できるほど、その資金は惜しみなく協力者に与えられていたのだ。

 大和鎖連はこうした莫大な資金の元、水面下で着々と、“黒派”を作り上げていっていた。


 徐々に国内を侵蝕する黒色は、気付けば無視出来ない規模となる。単発的な武力抗争であれば、それこそ日本公帝国軍に対抗しうるほどに。


 連鎖反応を起こす武力抗争。それによる人的被害にしびれを切らした日本公帝国軍が、ここである手法を取った。それは減り続ける軍人という人的資源の問題を解決出来る方法――徴兵だ。

 だが悲しいかなこの手段が、黒軍を今現在の規模にまで肥大化させた最大の原因となった。


 誰だって徴兵には――自分が人を殺し、殺されることには――反対だろう。

 大和鎖連はこれを非常にうまく利用した。


「大和帝国鎖環連合の一員であれば、徴兵に従う必要はない」


 大和鎖連の一員になった人間はそうであるからこそ日本公帝国軍の徴兵に従わずにすむ。そうやって一員となった人間、家族、組織を全力でサポートする傍ら、彼らは宣伝した。


「我々大和鎖連は徴兵制度を良しとしない。政府に、日本公帝国軍に従うということは諸外国に服従するということであり、服従の先には強制的な徴兵制度が待っている!」


 この動きに警戒を示した日本公帝国軍はすぐさま徴兵を撤回し、“義勇兵”を募集するようになる。徴兵という手段は、国内で既に強大な力を持とうとしている大和鎖連の前において、悪手でしかなかったのだ。


   ◇


 武力抗争は続く。

 人的資源が次々に失われていく中、両軍が次に取った手段は同じもの――“人材の早期発見”だった。


 内乱以前から、軍事カリキュラムが存在する学校……とりわけ高等学校に重点を置き、両軍は“視察”を送る。

 どちらの軍に所属するのか、どこの軍とパイプを繋ぐのか。少しづつどちらの派閥であるかが学校毎に決定されていき、そのパイプは太くなっていき(もちろん、学校によってまちまちではあるが)――とにかくそのようにして、現在の高等学校は形作られていった。


 だが問題は、そこよりも当時の高等学校に少なからずあったある制度へ、ある変化をもたらしたということだった。

 戦争がその形を少しだけ変化――”拡大する”ことになったというのは、まさにこの部分のことを指し示している。


 この部分――どこがどう拡大したのか。


 それはあくまで軍人同士の争いでしかなかった両軍の争いの拡大。

 軍人同士ではない――派閥に分かれた“学生同士の争い”。


 当時の高等学校には、元から軍事的カリキュラム(この当時というのは明確な派閥はなかったときのことだ)として、他学校への演習という項目があった。

 明確な派閥がないということは、すなわち政府側の、日本公帝国軍側の管轄であるということを示す。日本公帝国軍同士の演習はあくまで演習として、将来的な徴兵を見据えたものだったのだろう。


 だが、ここに大和鎖連側であると立場を明確にした学校が入り込んだら、どうなるだろうか。


 大和鎖連側であると表明した学校と、日本公帝国軍の学校。

 答えは明確。――学生による、(・・・・・・)擬似的な戦争(・・・・・・)の勃発(・・・)


 これが、戦争の変化、拡大。そして学生戦争の始まり。

 資料で確認出来る限りこの衝突の一番はじめに起きた場所が千葉県成田市――三里塚付近であったことは、まさに“奇しくも”としか言いようがないだろう。


   ◇


 それから数年。軍部同士の衝突は以前ほどの過激さは見せないものの、まだ武力抗争は散発的に起きている。……一触即発のパワーバランスを保ったまま。


 悪化したのは軍部ではない。過激さを見せるようになったのは拡大したその端側――学生同士の争いの方だった。


 それぞれの軍と深いパイプを得たそれぞれの学校は、優秀な人材を推薦するため、そして推薦できる優秀な人材を育成するため、軍事カリキュラムを強化していく。必然的に他学校との“演習”もが、積極的に行なわれていくことになる。


 ……、少し違うな。

 これは“例えどのような条件で、どのような規模の抗争が起きようと、それは学生同士の「演習」である“とされるようになった、といった方がいいかもしれない。


 軍事カリキュラムに籍をおく学生はその“演習”において、競いあいながら自分と違う色の人間を殺し成果を上げ、そして軍の期待のエースとなるのだ。それは、望むとも望まずとも。


 もちろん軍事カリキュラムに所属している生徒の中には、そうした名誉を全く望んでいない生徒も居る。

 作戦に従い、命令に従い、自分のやることを成す人間。人を殺す征服感に酔った人間、罪悪感に潰される人間、それは本当にまちまちで、まったく一概に言えるものではない。


 では例えば、彼(仮にA君としよう)について考えてみよう。

 A君は部隊長である。使命感自体はそれほど強くない。良くも悪くも作戦に、命令に従う人間だ。


 そんな彼にはある作戦が下されていた。

 それは、AA街道を下り黒軍本体に攻め入ること。そしてそのAA街道に別部隊が居た場合――AB道路に回り込むこと。


 まず彼にとって不運だったのは、このAA街道に黒軍の歩哨(まあ二人ではあった)が居たことだろう。彼は命令通り、AB道路に回り込む決定を下した……のだが、なんとそこには、黒でも白でもない新興勢力部隊が息を潜めていた。


 それが“インペラトル”――赤軍と言われる勢力だった。

 一切が謎に包まれているものの、その勢力は新たに力を伸ばしていると言える、その部隊。


 赤軍部隊に奇襲を受けたA部隊は、頼りの綱の通信機をやられ、路頭に迷うこととなった。AA街道に行くにも、赤軍との乱戦によって黒軍別部隊が警戒を強めてしまったため、現実的ではない状況下。


 これでは作戦を敢行することが出来ない。パニックになったA君をよそに、A部隊は撤退を余儀なくされる。

 頭であるはずのA君は見るからに使い物にならない。部隊の人間たちは各自で撤退を始めた――つまりA君は部隊に見捨てられ、置いていかれてしまったのだ。


   ◇


 かくして絶体絶命に陥った彼。


 彼はこのときガンブレードを持つ中性的な少年(少女?)に追われていた。その少年(少女)が放つ弾丸から逃れながらも彼は、ビルの中へと逃げる。ビルの一階。オフィスだった場所だ。

 エントランスは広いが、奥にはそれよりも狭いエレベーターホールが存在していた。エレベーターホールは向かい側への通路へと繋がっていて、そちらには元コンビニエンスストアであった場所が見えている。


 彼の思惑は、そのエレベーターホールを通り、向こう側へと逃げるというものだった。

 上手くここを抜けることが出来れば、相手からは死角の場所へと逃れられる。銃火器を持っている相手に対しては、十分有効だと言える策だろう。

 だがそのためには、後ろから断続的に放たれる弾丸をしばらくやり過ごす必要がある。しかしエレベーターホールの通路は狭く、そこを通る間はどうやったって無防備になってしまう。


 そこで彼は、ある手段に訴え出ることにした。


 それは、エレベーターホールの脇に引っ掛かっていた、防火扉。

 相手の姿が見えない僅かの時間で、彼はこの防火扉を締めるという手段をとった。彼はその鉄扉に手をかける。牽制のように銃弾が彼のすれすれの位置を掠め飛ぶが、彼の力は緩まない。……が、不運なことに、それはなかなか動かなかった。

 そもそもこの防火扉、金具のとこかに異常があるのか、半開きのままずっと固着していたものだったのだ。


 だが彼はここで信じられないほどの馬鹿力を発揮することになる。

 なんと彼は、その完全に壊れていたかと思われていた防火扉を、力任せに閉めてしまったのだ!


 大理石製の床と瓦礫の一部が擦れる嫌な音をも振り払って、防火扉が動いていく。長らく動いてはいなかったのだろう。その扉の上からは、パラパラと何かの破片がゆっくり落ちていった。重たい金属が大理石と擦れる音と、それに伴う少しの土煙。やがて扉は完全に閉まった。


 俺にとっての不運は、ここからだった。


 A君を追って、やってきたその少年(少女)と、それについてきた少し日本人離れした顔立ちの青年がビル内に入ってきた。彼らは、閉まりきった防火扉と、その裏に居た――俺とを、見比べる。

 それもそのはず、それまで(・・・・)俺が隠れていた(・・・・・・・)防火扉が閉まって、俺を遮るものはなにもなくなった。A君を追ってきた彼らは、Aくんが防火扉を閉めると同時にビル内に入ってきた。――俺の隠れていた防火扉が閉まっていくと同時に、彼らがビルの中へ入ってきたのだ!


 恐る恐る手を上げて戦闘意思がないこと示す俺に、青年は近づきながらこういった。あくまでにこやかに。


「お前白軍? まあいいや、ちょっと聞きたいことがあるから来いよ。……殺されたくなければ、さ」


 これはつまり、有り体に言えばこうだ。

 いま現在、俺は軟禁状態にあり、インペラトル勢力の――ええと、まあ、うん。要すると、俺はどうやら、赤軍の捕虜になってしまってた――というわけだった。

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