エラン・ビタール【その5】
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「アストラ!」
すぐにカレンの声だとわかった。振り向くと気は強いがどこか女性らしさを持った、まぁ一言で言えば美人がそこにいた。
黙ってればいい女なんだが・・・。
「ん?なんか言った?」
「い、いや何でも(汗)。どうかしたのか」
「そりゃこっちのセリフよ。あなた最近元気がないから隊員みんな気遣ってんの!副隊長なんだから、もちょっとしゃんとしなさいよ!」
「うるせぇな、おれにだって色々あんだよ」
彼女はその場を離れようとしたおれの背中を掴み、一言。
「呑みいこ」
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BARモモは昔ながらのバーで、バーテンダーがちゃんと酒をつくってくれる。昨今は機械やロボットがオートマで物をつくる店しかない。そんな味気なさに嫌気がさしたところ、見つけた良い店である。
酒を呑みながらおれは思うことをカレンに言った。
「兄貴が例の実験を承諾した」
「其れってウェポンの同化・・・」
「ああ」
ウェポンとは人型をした兵器である。100年位前は人が乗るのが当たり前だったみたいだが、今はAIや遠隔操作が主だ。おれの隊は遠隔操作を得意とした隊員で構成されている。カレンはその中でも優秀な隊員だ。そのうえ気さくで正義感が強く、周りからの信頼も厚い。因みにおれがこの隊の副隊長で兄貴のルイが隊長だ。
「どうかしてるぜ。いつの世も戦争だ。それを起こさないための社会かと思ったが、其処に疑問を持つのは唯の時間の無駄だったな。何の為に戦ってるのかわからなくなる」
「でも誰かがやらなきゃこの国を、この星を守れないわ」
惑星ナーガはおれたちの住む星だ。機械産業が盛んで小さい星ながら豊かな場所である。しかし、惑星テラにある敵国アルケから兵器の技術を譲渡するよう要請があった。
その要請を拒み今戦争をしている。
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帰り道おれはカレンにボヤいた。
「兄貴も同じことを言っていたな。だが歴史はそんなものの繰り返しだ。戦ってるのを傍観してる上層部と富裕層だけが得をする社会だ。苦労するマイノリティーは御構い無しだ。戦争の無くならない社会そのものを否定したくなるな」
「・・・それは違うわ」
カレンが真剣なまなざしでこちらを向いて、更に言葉を続けた。
「もちろん戦争は肯定出来ない!でも、でも社会は人の為にあるものだよ!確かに間違いを繰り返してきたかも知れないけど、その度にみんな戦ってきたんだ!ルイ隊長はそれをわかって承諾したんだと思う。何時だって人は分かれ道にいるけど、前に進まなきゃいけないんだよ」
「・・・」
もっともなことを言われておれは硬直した。こいつの覚悟はおれなんかよりもよっぽどある。
「でも犠牲はつきものと思いたくはないわ。人の命は尊いはずよ。これだけはアストラに言いたいの」
「な、なんだよ」
「生きて・・・色んな不条理なことがあるかもしれないけど、それでも生きる道を選択して」
「へっ、人の生き死に深く考えてたら任務に集中できねぇさ。でもまーありがとうな」
そっとカレンを抱き、おれたちは其々の帰路に向かった。




