新天地へ2
今回で船内の話しは終わります、もう少しお付き合いお願いします
移民船生活も2週間目今日もエリーの立てたカリキュラムに従い講義漬けだ、
慣れない勉強漬けで始めの方は疲れていたが最近慣れてきたのか疲れない、
それより新しい知識を吸収する喜びを感じ毎日が充実している
今日も朝食を取り終え(レーションではない、旅の間は食事が付いている)
教室に向かう
途中廊下でフィリップに声をかけられる
「ジョンやないか!お早うさん」
「教官!お早うございます」
(講義中テンションの上がったフィリップが自分の事は【教官】と呼ぶように
言い出してから教官と呼んでいる)
「講習受けに行くんやろ!一緒に行こや」
「はい!ん?講習?」
「何や!時間割り見てないのんか?今日は講義は無いで、全農の講習
があるんや」
「あっ!本当だ(時間割りの紙を見ながら)、全農の講習って
何をするんですか?」
「何って!・・・まあ色々や、行ったらわかるさかい行こや」
いつになく生真面目なフィリップの顔を眺めながら何やら不安な気持ちが
噴き上がってくる
会場に入るとジョンの想像以上の人数で賑わっていた空いている席に座ると
隣にフィリップが座って一言
「講習の最後で希望者を募るやろうけど絶対サインしたらあかんで!」
「何のサインですか?」
「それは講習聞いとったらわかるやろ、ええなって思ても安直にサインしたら
あかんで!」
「はぁ~!」
そんなことを会話しているうちに壇上に一人の男が上がり話し出す
「ええー!皆様、今日は全農の講習にお集まり下さり有難うございます、
私本日の講師を致します【スコッティ・カシミヤ】と申します、
本日はよろしくお願いします。」
スーツを着込み上品に話し出すスコッティに『こんな人もいるのだな』
とジョンにとって唯一の講師(教官)と比べ自然と好印象を思い浮かべる
ジョンの横で
「けっ!何がよろしくお願いします、じゃ!胡散臭いやっちゃで」
と呟くフィリップ
「お嫌いなんですか?あの人」
「嫌いも何もあんな奴!ええか、あいつは詐欺師やで!いや、寄生虫や」
何やら怒りが収まらなくブツブツ独り言で呪詛を吐き続けるフィリップ
『そおーとしておいた方が良さそうだ』と思いながら壇上の話を聞き続ける
今回の講習を要約してみると移民先の惑星での農業はまだ始まったばかりで
全農としては各種の実験的農業を行いあらゆる知識と情報を集めたい
その実験的農業を行う人達を今回は募集する為の講習らしくその作業に
従事すると開墾済み農場の提供、格安賃貸住宅、従事期間中(5-10年間)
の給与の支給、などかなりの好条件に聞こえる、ジョンの周りの人達も
ザワザワしだした
「勿論皆様にもご不安な点も御座いましょうから現地施設を見てしっかり
ご検討していただき御契約頂ければ幸いです」
そしてスコッティの後ろに在るスクリーンに農場や家の写真が映し出される
『かなり良いじゃないか」などと感じていると
「ええか!絶対サインするんやないで」とフィリップが話しかけてくる
フィリップの方を振り向き見ると前方を睨みつけたまま「ええな!」
と更に続ける
「はい!」余りの迫力にそれだけしか応える事ができないと壇上から話しが続く
「これらが現地の写真です!調査員の募集は申し訳ありませんが申し込み順
となりますのでこの後募集受け付けも致します、勿論現地を見てからも
受け付けは致しますので・・」
「気の早い何人かはもう募集の列に並び出しているとフィリップが立ち上がり
「行くで!ジョン、もう講習も終わりやろ、こんなとこさっさとサイナラや」
「はっ はい!」すでに会議場を出ようとするフィリップに話しかける
「あのぉ!教官、何がまずいんです?」
「話しは明日や!明日講義で話したるわ!、わいは行くとこあるから
これでさいならや」
足早に立ち去るフィリップを見つめ今日は帰ろうと自分の部屋へ帰る事にした
翌日講義で
「昨日の講習どない思た?」
「そんなに悪い話には思えませんでしたけど・・・・」
上目遣いで様子を見ながら
「せやっ!ええ話や、そないオドオドせんでええ、ジョンに怒っとるわけや
ないんやで」
「すみません!でも良い話なら何で?・・・・」
「数年前のディンブラ星の移民の話し、知っとるか?」
「ディンブラ星・・・、いえ、すいません」
「ポコポコあやまんな!話しにくいわ、あれは酷い移民先やった」
フィリップの語るには何とか居住可能なディンブラ星に移民計画が立った
のはやはり食糧難の為だったらしい、わずか2000名程の小規模移民を
率いたのはやはり【全農】、
この移民は当初から囁かれていたように失敗に終わった
「そん時移民に関わった全農職員は一人を覗いて全員クビや
左遷を喰ろうとる!」
「そんな!職員の皆さんが悪い訳じゃ~ないでしょう」
「移民した農家さんは自殺したり借金奴隷に落ちたのにか?」
「全員ですか・・・・!」
「せやっ!全員や、移民っちゅうのはそんくらいリスクが有るんや、今回の
移民はもうちょっと、いや全然条件ええけどな!」
「・・・・・・」
「でもな!途中で諦めて移民先を投げ出す事も出来たんや、それをあいつが、
あいつが引き伸ばして止めよったんや、借金まみれにして
食いもんにしよったんや!」
当時移民中止か継続かを話し合った移住者達をスコッティは移民中止なら
借入金の即時返済を請求したそうだ、返せないとわかりきった人達に更なる
借金を重ねさせ不毛な大地に釘付けた、そして何ら問題の解決すること無く
移民団が崩壊!
「89パーセントや!89パーセントの人が借金奴隷になったんや、
後の11パーセントの人は自殺や・・・・」
「あいつは唯一【全農】の売り上げ上げたっちゅう事でし出世しよったんやで」
「大変だ!皆に教えなきゃ!」
「無駄やっ!この移民仕切っとるのは全農やで、ここのおる講師も皆全農の
職員や、わいかて全農の職員やで、この組織は腐っとるんや、なんぼ一人で
頑張ってもあかんのや」
「教官・・・・」
「ジョン!頑張れよ、わいの知っとる事は何でも教えたる、絶対にこの移民
成功させよっ」
「はい、わかりました、教官!、これからもお願いします」
後日農業改革の父と呼ばれる男と農業改革の鉄砲玉と
呼ばれる男の生まれた日であった
いよいよ次回より移民先のお話になります、お待たせしました
新惑星の名前考え中!汗