海だ
ここは真夏の羽近宮高校。今は夏休みの終盤時。部室の中には4人のJKがうちわ片手に集まっていた
「暑ちぃ…スイカバーが溶ける…」
千歳先輩は崩れ落ちそうなアイスにかぶりついている
「仕方ないじゃない、夏は暑いものよ」
美並先輩はいつもより開いたシャツの胸元が、色気を漂わせている
「練習に身がはいりゃないよ」
千歳先輩は今にも溶けそうだ
瀬良さんが思い付いたように千歳先輩の肩を叩いた
「そうだ、合宿しよ!」
千歳先輩は相槌を打つ
「合宿? いいねぇ、気分転換に違うとこ行こ」
私は疑問を投げかけた
「でも合宿って、練習しに行くんですよね…?」
千歳先輩は頬を膨らませる
「固いこと言わない、少しくらい遊ぼうよ」
「で、瀬良。場所はどこ行くか決めてるの?」
瀬良さんは断言した
「夏といえば海よ!」
千歳先輩がお菓子を摘まみながら聞いた
「ねぇ、これからどこ行くのさー」
私達は現在、新幹線に乗っている
「皆様よく聞いてください、これから美並様の別荘地へ向かいます」
「そこは海も近くて、眺めもさぞよーござんしょ」
瀬良さんはなぜか得意げだ
千歳先輩が納得した顔をする
「あー、そういうこと。美並はお嬢様だもんね」
(…知らなかった、美人でお嬢様なんて)
美並先輩がさらっと言う
「そんなことないわ、家ぐらいは普通よ」
(普通の家は別荘なんて持ってないよ…)
『うっわーー!』
別荘に到着すると感嘆の声がもれた。
私は目を輝かせながら言った
「素敵な所ですね」
千歳先輩は部屋を見て回る、つられて私も辺りを見回した
「すごい、ジャクジーもある!」
千歳先輩のはしゃぐ声が聞こえた。
私は一面のガラス窓に目を向ける、外には見慣れない光景が広がっていた
「何これ…綺麗な景色」
私達が別荘に見とれていると、瀬良さんが広間で叫んだ
「はいはい、そこまで! じゃ早速海に行くわよ」
「みんな〜水着の準備はOK?!」
そこは一面の輝く海。水着姿の人達が思い思いにはしゃいでいる
「はぁ〜! 着いたね〜」
瀬良さんが手を広げ深呼吸して海の空気を味わっている
「早速、泳ご!」
千歳先輩は着替えて泳ぐ気満々だ
「あ、違う違う、私たちはこっちこっち」
瀬良さんが千歳先輩を止めてその手を引いた
「ここ、なに?」
「なにって、海の家だよ」
千歳先輩がそうたずねると、瀬良さんは当然だと言わんばかりに答える。そして、皆に向かって指令を下した
「部費が足りませーん」
「アルバイトしまーす!」
「はぁ? 聞いてないんだけど」
千歳先輩はカンカンだ。そして、切実なお願いをした
「美並、部費出してーー」
「ーーそうねぇ」
美並先輩が考えているところを瀬良さんが制した
「ダメよ、自分で稼いでこそなのよ」
焼きそばやイカ焼き、焼きとうもろこしのいい匂いが漂っている
「砂浜にいるだけとか余計暑ちぃじゃない」
千歳先輩が砂浜を蹴りながらすねている
「文句言わないの」
瀬良さんに何だかんだ言われながら私達はバイトをする事になった
「…でも、何で水着にポンポンなんですか?」
私が瀬良さんにたずねる
「その方が人が寄ってくるじゃない、今日は踊って1日客寄せよ〜!」
私達は常夏のsummer girlに合わせて水着でチアリーディングをすることになった。瀬良さんがボタンをポチッと押すと曲が流れる
(ラジカセですか?!)
『常夏〜♪ 常夏〜♪ 常夏のsummer girl〜♪』
チアを始めると次第に私達の前に人が集まってくる
(水着で応援するなんて恥ずかしいよ…)
人が集まると同時に恥ずかしさが込み上げてくる。その時、知っている人によく似た人物が近寄ってきた
「え、秋冬くん?」
私が驚くのを横目に美並先輩が声をかける
「あら、来てたの?」
私は美並先輩にたずねた
「ん、学校も同じだし知り合いですか?」
「親戚なのよ」
「そうなんですか!?」
美並先輩の返答に声を上げる
(…知らなかった)
私は知り合いに会ってしまって、なんだか余計に恥ずかしくなった。
私に気づいた秋冬くんは目を背けている。何故か耳が真っ赤だ
「ふふーん、何々、応華の事気にしてるの?」
秋冬くんのよそよそしさを見つけた瀬良先輩が声をかける、耳元で何かを囁いている
「ーー今度、遊びに行かない? もちろん応華も連れて」
秋冬くんは何かこくこくっと頷いている
「ーー美並にあなたの連絡先聞いとくから……じゃっ」
瀬良さんは何かを言い終えると秋冬くんを離した
「秋冬、海の家寄っていかない?」
美並先輩が提案をしている
秋冬くんは何度か頷くと、言った
「友達と来てるから、呼んでくる」
『ーーわいわい、ガヤガヤ』
先輩達の水着効果もあって、海の家は普段よりは反響を呼んだようだ。あの後、秋冬くんも友達と一緒に食べに来てくれた。「持って行きな」と海の家の店長が戦利品もくれた
「いやぁ、大成功だったね」
帰りのバスの中、満足そうに日払いの部費をゲットして笑顔になる瀬良さん。
海に入れなかったことへの落胆と疲れた顔の千歳先輩。
魚介類を握りしめ今日の晩御飯の準備を考えている美並先輩。
私は窓の外の夕影に照らされながら、物思いにふけっていた