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応援依頼

教室の窓から覗く木漏れ日に手を当てながらチア部の打ち合わせをしているエトセトラ。

今日も全力でやり切ったねと瀬良さんと歓喜していると、見た事のある女子生徒がトコトコとこちらに歩み寄ってくる


(あや)ちゃん? どうしたの」


彩ちゃんは私と同学年、違うクラスの子である


「あの……、瀬良さんって不思議なパワーがあると聞いたのですが」


「……へ?」

私は思わず声を出す


「お願いです。話を聞いてもらえませんか……?」


(……え?)


「わかった、まずは話だけでも聞いてみようか」


瀬良さんは戸惑う私をよそに彩ちゃんを部活終わりの部室へと案内する。私も付いて中に入った。


彩ちゃんは言いづらそうに喋り出す

「実は兄の事なんですが……」


「彩ちゃん、お兄ちゃんいたの?」


「はい、同じ高校で一つ上の兄がいます」


「その兄が、クラスの友達とのちょっとしたいざこざで、あ、兄が言うにはそういう事らしいのですが、学校に居づらくなったみたいで不登校みたいになってしまいまして……いつも家にいるんです」


「……うん、うん」

瀬良さんと私は相槌を打ち、話を真剣に聞いている



「……それで、瀬良さんのパワーで兄を元気づけて欲しいんです。

そうすれば兄はまた学校に行くようになるんじゃないかって……」


それを聞いてから、瀬良さんは目を見開き言った

「彩さん、パワーがあるっていっても私に出来る事は1つしかないよ」


「――それは、応援する事だけ」


「それでもいいなら、その話引き受けるよ」


「よくわからないですけど、兄が元気になるなら……よろしくお願いします!」


「出来る限りやらしてもらうよ、ね、応華!」


「はい! 瀬良さん」

(瀬良さんの力が見られるんだ、楽しみ)

そう私は内心嬉しく思いながら返事をした


「それで、彩さん。お兄さんのお名前聞いていいかな?」


「はい、奏出(かなで)といいます」


「いい名前だね。じゃ、早速明日から動くとしようか。彩さん、今日一緒に帰って家の場所教えてくれる?」


「わかりました」


私達は彩ちゃんに同行した


「ここが私の家です。兄の部屋はあそこです」

そう言って彩ちゃんは正面2階の窓が見えている部分を指差す


「ありがとう、応援しやすそうだよ。よかった」

それを聞いて、彩ちゃんは何が行われるのかよくわからず首をかしげている。

彩ちゃんを見送ってから私は瀬良さんと少し話をした後帰宅し、明日にそなえゆっくり休む事にした



授業が終わった後、私達は部活を早引きし、自主練と称して彩ちゃん家の前に行く、ユニフォーム姿のままで。


瀬良先輩が合図を出す

「じゃ、応華いくよ」


「はい!」


瀬良先輩が掛け声をかける

「奏出さーん! 今からチアリーディングしまーす。よかったら見届けてくださーい」


「――Fighting.今も奏出はfighting.その胸の内、少しだけ聞かせて、Cheer up」

しばらく声を出して応援していると、近所の人達や通り過ぎる人達がじろじろとこちらに見に来る。


そうして、2階の窓が開き、奏出さんが出て来て第一声

「うるさいよ! 近所迷惑じゃないか!」


しかし、私達はそれに構わず出来る時間まで応援し続ける。

そうして、行ける日には彩ちゃん家に行って応援し続けること数ヵ月。今では、


「ありがとー! またね」

奏出さんもこう言ってくれる間柄になった。


私達は暑い日も、雨の日も、雪の日もチアリーディングをし続けた


「継続は力なりよ! 応華」


「私達に出来ることは応援あるのみ、ですよね瀬良先輩!」


例年珍しく寒さが続いたある日、いつものように応援していると、

彩ちゃんの家からお母様らしき人物が出て来た



「いつもありがとうございます、息子が今日は風邪で休んでいまして」


「あの、寒いので中にどうぞ」


そうして、家にお邪魔すると、お母様は温かい飲み物を私達に差し出す


「実は、息子がですね。体育とか、実習とか、クラスメイトが校舎にいない時に学校に通い始めたんですよ」


「ちゃんと学校にいけてない事は恥ずかしくないって。家の前で応援されるほうがよっぽど照れくさくて恥ずかしいって」


「ようやく今の自分を受け入れることが出来て、息子は前を向き始められたんだと思います。本当にありがとうございました」


「――そんな、私達は何も。ただ応援していただけです」

私が謙遜していると瀬良先輩は言った

「そうなんですよお母さん、私にはパワーがあるんです! どわっはは――というのは冗談で、きっかけは何にしろ息子さんは自分の力で学校に行こうと決断されたんだと思います――」


それから、何度もお礼をされるお母様に恐縮しながら家を出た。

瀬良さんは空を仰いで言った

「ダメな自分から逃げない、か――。いやぁ、骨身にしみるね」


「瀬良先輩、泣いてるんですか」


「いやぁ、まばたきも忘れて真剣に話聞きすぎちゃって。目が乾いちゃったていうか、ドライアイっていうか」


「雪、降ってきましたね」


「本当だ。丁度いいや、目うるおそっと」


(上向いてごまかしちゃって。先輩って可愛いとこあるんだな)



~数日後~

「え、瀬良先輩! 奏出さんと付き合う事になったんですか?!」


「うん……まあ、告られちった!」


(……いいなぁ)

私はそう思いながらも喜ばしい気持ちで言った

「おめでとうございます!」


その報告を聞いて美並先輩が言った

「瀬良もついに彼氏持ちか」


千歳先輩も続けて言った

「うらやま~」


そんな中、悲愴感にさいなまれ肩を落としている枝さんが口を開いた

「そんな! 憧れの瀬良先輩が?! 私、瀬良先輩のこと……ぅ、うえ~~~~ん!!」


枝さんは泣きながら部室を飛び出してゆく。

私は慌てて部室の入り口に顔を出し、枝さんに呼びかけた

「枝さーん! どうしたの?!」


「ぅわああああん……」

泣き声がこだまするばかりで、こちらを振り返る余裕がなさそうに枝さんは走り去ってゆく


「そっとしといてあげなよ」

美並先輩が言った


「LikeとLoveが入り混じってたんだな」

千歳先輩は言った


「え?!」


美並先輩が言った

「位地は気づかなかった? 枝の瀬良へのまなざし」


千歳先輩は言った

「よくある、先輩まぶしいです! 大好きです!! ていうのだけじゃなく……枝はマジっぽかったもんね」


「まぁ、いずれ立ち直るわ」

「女は強くなってなんぼよ」


「はぁ――」

(枝さんがそんな想いを秘めていたなんて……知らなかったな)

(――いまは痛くても傷はいつか癒える。乗り越えて元気になってほしいな)



それから、私は、ばったり奏出さんに学校で会った

「あ、奏出さん。お久しぶりです」


「久しぶりです、位地さんだっけ? 瀬良の後輩の。あの時はありがとうね」


「いぇ、お会いできて嬉しいです。あれからその、どうですか……」


「ん? 学校のこと? 今は通学してるよ、クラスで授業を受けてる」


(よかった――)


「最初は、君達に応援されてた人だ! って物珍らしがられてね、みんな寄って来たよ……でも、次第にそれもなくなって今は落ち着いてる。まぁ、人の噂なんてそんなもんだよね」


(……そっか)


「でも、平穏な今の学校生活のほうが好きだよ。大切な人もできたしね」


(きゃっ――)


「あの、素敵な笑顔ですね――。先輩をよろしくお願いします」



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