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体験入部

授業以外何もする事がない、身が入らない、

空っぽの私は先輩に睨まれてこれ以上憂鬱(ゆううつ)になるのが嫌だったので、

チア部の体験入部に行くことにした


(気が乗らなければ入部を断ればいいし、適当でも)


そんな風に考えながらチラシを頼りにチア部と描かれた場所の扉を開けると、

中には5人くらいの生徒がいた


(みんな女の子。チア部だから当たり前か)


私はそう思いながら話し中のところを邪魔しないようにそーっと扉を閉めて前を向くと、

チラシを渡してきた先輩と目が合った


「――あ」

思わず声が出た


「よく来たわね」


先輩は満面の笑みで私をエスコートし、横に椅子を付け足して座らせた。


どうやら今度のチア活動について、運動部の試合日と照らし合わせながら日程を決めていたみたいだ。

大会や試合で応援する日を大本番と決めて、それに合わせて練習を突き詰めてゆく


(――まともな部活だ)

私はちょっと感心していた


「じゃ、ミーティングも終わったし! 自主練行こうかな!! 自主練一緒に行く人!」


横にいた先輩はそう言うと手を挙げて立ち上がり、皆んなにアピールしている



「また、始まった。瀬良(せら)の悪い癖」


「いつもの、だよね。誰もいかないよね」


他の先輩達は声を潜め、クスクスと笑い合っている


(あ、この人。瀬良さんっていうんだ)

私はそう思いながら横にいる瀬良さんに、その場にいたもう1人も一緒に目線を合わせていると、瀬良さんが私の手を取り挙げて言った


「はい! 行きたそうに見つめていたあ・な・たに決定!!」


(え、えぇ~~~~)


私が動揺していると他の先輩が次々、声を掛けてきた


「かわいそう、あなた大丈夫;?」


「ぅえ~、恥ずかしくて私ならできない」


「あなた、彼氏いるの?! いないなら地獄よ!」


「ぇ、失恋したば……」

私がそう言い掛けると、瀬良さんは私の手を引き部屋を出て更衣室に駆け込んだ。


瀬良さんは手際よく着替えながら、私にポンポンを渡す

「とりあえずあなた初日だし、私の後ろでポンポン振ってるだけでいいから」


「ぇっ。は、はい……あの、これから何が行われるんですか。自主練っていったい……」

瀬良さんは私が質問している間に、スカートをくるくると回しチアコスチュームに着替え終えた


(うわぁ。この人何気にスタイルいいし、様になるなぁ)

私がそんな事を思っていると、再び瀬良さんは私の手を引き更衣室を出て校庭に駆け込んだ



「本当に来た! 楽しみ~」

「瀬良、服装とか気合い入ってない?!」

そこには学校の女子と男子が立っていた


「お2人の交際記念日を祝って応援します♪」

そう言うと瀬良さんは2人に向けてチアリーディングをしだした。


ポンポンを上下に振り上げ次々とポーズを決めて行く


(ちょ、ちょっと待って。何コレ)


私が状況を飲み込めず、混乱していると、瀬良さんは目で合図を送りながら

「ポンポン振って、私のポーズを引き立てて」

と小声で指示してくる。


チアリーディングを見ながらイチャつく男女を見て、私は泣きながらポンポンを振った。


「2人の3ヶ月記念日、おめでとう!!」

瀬良さんが最後に歯切れよく言って、応援は終了した。


(何よコレーーー。涙)


これが私の体験入部初日だった。


その後も事あるごとに瀬良さんに見つかって、私は連れて行かれると自主練に付き合わされた。

人間って何度も同じ事が繰り返されると慣れるもので……私はある日、何か吹っ切れた。


(人を応援するってすごい!)


「瀬良さん、私、なんだか楽しくなってきました!」


「応華、それ、ゾーンに入ったわね。自分の今の気持ちなんかどうでもよくなるの」


「私、一生ついて行きます!」


こうして私は晴れてチア部に入部する事になった



「チアリーディングには、スタンツとダンスの2種類があるの。

大まかに言って、スタンツは組体操を取り入れたアクロバティックな競技、

ダンスはダンスを中心とした演技を競う競技」

「チアリーディングと一口に言っても、演技や技術を競う大会もある、れっきとしたスポーツなのよ」

チア部の美並(みなみ)先輩が、ホワイトボードに書きながら基礎を教えてくれている


(チアってスポーツなんだ、なるほど! それにしても美並先輩、キレイで背も高いし素敵だなぁ)


私が見とれていると、横から千歳(ちとせ)先輩が言った


「うちは人数足りないから大会には出たことないよ?」


「そう、うちの部は試合で選手を応援するチアリーディングがメイン。

ま、どんなスタンスでも、とにかく応援するってのが大事なのよ」

美並先輩は人差し指を立て、念を押して言っている


「これがプロのチアリーダーになると、選手と付き合うのNGだったり、

スタイル維持できないとクビになったりと厳しい世界なのよ」


瀬良先輩が口を開き、私に熱く話しかけてきた

「大体基本はそんな感じね。どう、応華。私達と一緒に頑張りましょう」


「なんで瀬良先輩はそんなに熱心なんですか?」

体験入部の時に一緒にいた、場の空気に流されて入部した感がいなめない、

同期部員の(えだ)さんが聞いた



「私? 私は……そうね、あれは私が高1の時だった――」

そう言って瀬良先輩は語りだした


「私は、クラスの女友達に突然無視され始めて、ぼっちにされる事が多くなっていたの」


「瀬良って空気読めないもんね」

と美並先輩が当然のように口を開く

「そっか、瀬良ハブられてたんだ」

と千歳先輩も口を開く


瀬良先輩の語りは止まらない

「でも、唯一私を認めてくれた人が現れたの。

コウタッチャ(光太)と偶然知り合って、彼と付き合うようになってから」


「あれ? 光太って1年の時、瀬良と同じクラスだったよね?」

と千歳先輩が口を開いた

「つまり、ハブられてから存在に気付いたんだ」

と美並先輩も口を開いた


瀬良先輩の語りは続く

「彼は何でも褒めて認めてくれたわ、私の全てが好きだって」

「でも私、そんな彼をフッたのよ。

なんーでも褒めてくれるのが、日に日にうっとうしくなって、面倒になって」


「うわー」

千歳先輩が声を出した

「瀬良らしいわね」

美並先輩は妙に納得している


瀬良先輩は熱く語る

「さすがに私、最低よね。でも私にはチア部があった。

いつ如何なる時も自身の乱れを見せず、目の前の人を全力で応援する――」


「自主練は最低な自分への(いまし)めなの。彼のためにも、私、最高のチアシストになるの!」


「瀬良先輩――カッコいいです!」

他のみんなが若干あきれ顔になる中、私は瀬良先輩に向かって全力で拍手を送っていた


「じゃ、またねーー」

「はい! 失礼します」

私はチア部のみんなと別れた後、校門を抜け学校を後にしていた


「1年、位地応華。あの瀬良の訓練を耐え抜くとは、素晴らしい――」

その時、木陰に隠れてキラリと光るふたつの目が位地応華を狙っていた


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