1話 〈大災害〉でTSして身体確認をした話
ふと、陽の光で目を覚ます。
まだ少し寒さの残る風に身を震わせ起き上がる。
腰回りがやけに涼しい、昨日は腹でもだして寝たのだろうか。
それに胸回りが重く錘でもつけているかのようだ。
空には太陽が燦々と輝き身体を照らしている。
どうやら屋外にいるようだ。
ここはどこだろう。
ビルには樹木が這っていて何やらとってもファンタジックな感じになっているがこんな光景見たことがない。
田舎の過疎化して廃墟と化した町村なら建物が樹木に侵されている場所もあるかもしれないが、ここのようにビルが何棟も存在するレベルの街で日本の中にここまで廃墟然とした都市はまだ存在しないはずだ。
この場所の正体を明かすために昨日は何をしていたのかと思い起こしてみても〈エルダー・テイル〉のバージョンアップを待っていた以降の記憶が全くない。
もしかしてテンションが上がりすぎて飲みすぎたんだろうか。
前にもはしゃぎすぎて急性アルコール中毒で倒れたことがあるからいまいち否定もしづらいか。
まあ、記憶がないものはないんだからと思索を打ち切って伸びをする。
そうして俺はまた身体の違和感に気づいた。
何やらいつもより地面が近い。
二日酔いで感覚でも狂ったか。
「うわっ」
伸びをして姿勢を戻そうとするとうまくバランスをとれず前方に倒れこんでしまう。
「っ痛ぅ~」
前に倒れた時に胸部に圧迫と肉を潰されたような疼痛を感じる。
頭に手をあてて頭痛はないことを再確認し起き上がり、そのまま手を下げ眼前まで降ろしてハッとする。
手が幼い。
指一本一本が短く手のひらがやけに柔らかい。
どういうことだ、頭を振ってさらに気づく。
首を左右に回すと髪の重さに体を引っ張られている。
そこまで確認して俺はようやくこれらの違和感が気のせいではなく現実に何かが起こっているのだと悟った。
とりあえず違和感のもとを探ろうと俺が目を覚ました付近にあった池に自分の顔を映し、俺は絶句する。
本来なら黒髪に短髪、ブラウンの瞳、不健康な肌色をした中肉中背の男を映すはずの水面に、青いセミロングの髪を水面方向に垂らし、碧色の瞳をした、色白の肌をした小柄な童女が映っていたからだ。
ただ、一般的な童女と大きく違う点として首には何の意匠か読み取れない刺青が入っていること、それに何よりその体つきに比して異様なまでに大きな胸だ、男が何も知らずに設定したロリ巨乳とでもいうべき大きさを引っ提げており露骨に現実感を失わせている。
ははぁ、夢か。
夢だな。
そう思い、確認のために頬をつねると鈍痛がする。
「夢じゃない…」
数瞬、思考が停滞する。
ハッと気を取りなおして俺は絶叫した。
「ロリっ娘になっとる!?」
おいおいマジかよ。
毎年初詣でロリにしてくださいと神様にお祈りした甲斐があったのか?
だとしたら神様はとんでもなく太っ腹だ。
もう来年からは財布ごと賽銭箱に投げ込んでもおかしくないレベルの御利益だ。
なんだこのご褒美さすがに頭がおかしくなったんじゃないのか、俺。
落ち着け、俺、とりあえず落ち着け。
とりあえず落ち着くために一度やたらと重い胸を揺らしながら大きく深呼吸をする。
やばい、この感覚癖になりそう。
なんて犯罪者みたいな思考が頭をよぎったがとりあえず気をとりなおすことには成功した。
では、まず状況確認から始めようか。
「あーあー。アメンボあかいなあいうえお」
先ほど声をあげたときに気づきはしたのだが一応再度発声をしてみて確認する。
「何で声は変わってねえんだ」
神様、御利益が中途半端ですよ、そう突っ込みたくなる。
男声のロリ巨乳とか誰得だよ。
いや、得な人もいるのかもしれねえけどさすがにそこまでの特殊性癖は持っていない。
積年の夢を穢された気がして溜息をつき、次に身体の確認に移る。
これはいわばメインといっていいTSの醍醐味だ。
身体の確認をするときに胸を揉んで思わず嬌声をあげるという恒例行事。
鑑を覗いてこ、これが俺?みたいなわざとらしい感想を呟いてTSを自覚する段階。
なのだが、声が変わってない以上男の野太い声での嬌声をあげることになる。
想像するだに気持ち悪いので気を張って無言で確認することにした。
身体全体を水面に映すために大きく身を乗り出しながらペタペタと身体を触って感覚を確かめる。
水面には俺が動くのと同時に童女が自身の身体を確かめるように触っていて、触られている感覚もある。
コートを羽織りその下にはやけに高級そうなブラウスを着て、下は短めのスカートを穿いているようだ。
腰のあたりがやけに涼しいとは思っていたがどうりで。
胸を触れば胸を触っている感覚があり、下を確認すればしっかりついていなかった。
というか、下着履いてねえ。
痴女かよ、もしかして痴女の身体にTSしてしまったんですか俺は。
まあ、そういうシチュエーションは大好物ですわ。
これはノクターンな展開もありうると一人納得する。
どうやら声以外は完膚なきまでにロリ巨乳になっているらしかった。
しかし、この童女の風貌、どこかでみたことがあるような気がする。
どこだったっけかな。
さすがにこんな特徴的なロリ巨乳を知っていたら忘れはしないはずなのだが。
頭に手を当てて記憶を探っていると突然頭の中にリンガー音が反響した。
「うわっ、なんだこれ」
その音と共に視界にポップアップウィンドウらしきものが表れる。
「すげえ、空間投影か?」
発信者欄にはコタ2という知り合いの〈エルダー・テイル〉でのプレイヤーネームが表示されている。
恐る恐る空中に浮かんだ承認ボタンをタッチする。
「お、繋がった。
もしもし、ライブラか!」
ボイスチャットでよく話していた通りの友人の声が聞こえる。
「ああ、俺だが。
一体どうなってるんだ?
これどうやって繋がってんの」
「いや、よくわかってないからオレに聞かれても困るけど。
一つ分かったことを言うとここは〈エルダー・テイル〉の世界らしい」
「はぁ?
何を言ってるんだお前、妄想が過ぎて狂ったか」
「いや、まあ信じないなら信じないでいいんだけど。
俺は一つ聞きたいことがあって〈念話〉したんだ。
お前もしかしてロリ娘にTSしてる?」
「ああ、そうだけど。
なんでわかったんだ?」
「羨ましすぎるだろお前。
リアルTSとか妬ましすぎる。
あー、糞。
俺も女にしとけばなぁ」
「いや、聞けよ」
それにTSといっても声が変わってないしさほど言いものでもない。
「あー、なんでTSしてるかわかったって?
どうやらこれに巻き込まれた人間は全員〈エルダー・テイル〉にログインしてたキャラクターになってるみたいなんだよ」
なるほど、言われてみればリアルになっていて気付かなかったが俺のメインキャラの装備、キャラデザそのまま再現されている。
既視感があったのは当然の話だったのだ、この異様な大きさの胸も髪も瞳も体型もすべては俺がデザインしたものだ。
どうして気づかなかったのかってくらいにはそのままだ。
一昔前の創作でよくあったVRMMOのキャラクターの能力を得ての異世界トリップってやつなのか。
そうだとすればまあ、いきなり訳も分からない場所に放り出されてどこの誰ともわからぬ童女になっているという状況よりは知り合いも元の〈エルダー・テイル〉で培った知識もあるしいくらかはマシかもしれない。
しかし、〈エルダー・テイル〉では既存の装備の下にはインナーがあるように設定されていた気がするけれどどうしてノーパンノーブラなんだろうか、少し腑に落ちない。
「ああ、なるほど。
納得はしていないが理解はした」
「その反応ってことはやっぱりあの巨乳幼女になってたのか。
貴重な体験すぎて妬ましいぜ。
まあいい。
〈念話〉だけで話してても埒があかないしとりあえず落ち合おうぜ。
お前今アキバだよな?」
アキバだよなと言われても場所を確認する方法がない。
確かに〈エルダー・テイル〉のアキバっぽいと言われたらそう見えるが画面越しにしか見たことがないし、周りが殆ど見えない小さな通りにいるものだから気のせいといわれれば気のせいだと片づけてしまうだろう確度だ。
「どうだろう、ちょっとわからない
どうやって現在地確認すればいいんだ?」
「お前まだメニューの開き方もわかってなかったのか。
メニューって念じてみろよ」
念じるってなんだ。
念じるってそれはどういう感覚なんだよ。
思うだけでいいのか、それとも何かしら特別な念じ方が必要なのか。
とりあえずメニューと思うだけ思ってみる。
すると視界にエルダーテイルでも使用していたメニューが広がった。
「ああ、なんかでてきたぞ」
「じゃあ同じ要領でここはどこだって念じてみな」
「了解」
先ほどと同じように念じてみる。
するとフィールド名称とゾーン購入するかを問うウィンドウがポップアップする。
「ああ、アキバであってるみたいだ」
「じゃあ大樹前で落ち合おう。
大丈夫だとは思うが迷ったらかけなおしてくれ」
アキバの南西にある<銀葉の大樹>で落ち合う約束をし、コタ2との〈念話〉を打ち切った俺は待ち合わせ場所へと異常な身体の感覚に戸惑いながらよたよたと歩き出した。
「ううっ、なんかやっぱりすーすーする!」
前作の設定ミスによる全面改稿が全く進まない中、読んだあるライトノベルの自分の好きなことを書けばいいじゃないかという話にとても感銘を受けとりあえず主人公をTSさせてみました。
遅筆ですがなるべく頑張ります
2/11
11月に書いた話ですが時限投稿で手直ししようと先延ばしにしてたらいつのまにか3か月たっていたというお話
アキバの怪盗さんは別に設定ミスしてないので普通に投稿します!