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堕ちない君

作者: 真乃晴花

 天には七つの層がある。その第三天と平行して疑似天国があった。色とりどりの花が咲き誇る広い草原の中で、能天使クローブは六人に囲まれていた。背後もぐるりと、逃げられないように。

「俺は、俺は、」

 こぶしをきつく握り、そして、大きく息を吸いこむ。

「堕天するんだーーーーーっ」

 天の一番高いところにも届くような叫びだった。

 それを神さまに伝えるかのように、足もとに咲き乱れる花々の花弁が、風に煽られて蒼い空へ舞い飛んだ。




 クローブはアカデミーを卒業後、能天使となった。同期の中では優秀で、自分でもそれを自負していた。いずれ部隊長になる自信もあったし、実力もあると。実際にそれは間違った認識ではなかった。周りからもルーキーと期待されていた。能天使一年目。どこの部隊に配属されるのか楽しみで、気持ちが高ぶっていた。別に誰の隊に入っても良かった。その隊に入って、活躍するであろう自分を想像していた。クローブには自分の輝く未来しか、見えていなかった。

 だから、辞令を受け取った時の絶望感は、落ちたというより、気が付いたら真っ暗闇の中に立っていたというような感じだった。


 辞令

 能天使クローブ

 上記のもの、本日をもって 悪魔・堕天使討伐機関 討伐員 に主天使長官の名において任命する

 

 悪魔・堕天使討伐機関、通称「死神」それが、クローブの配属先だった。

 能天使とは、本来が悪魔や堕天使を武をもって倒す天使のことを指す。だが、能天使は堕天しやすかった。そこで、天は討伐組織を作った。天の組織だが、構成員には天使以外のものも含まれる。それゆえか、多くの天使は「死神」を嫌った。

「迎えにきたよ」

 そう言って現れたのは、少しくせのある水色の長い髪を結わきもせずに垂らした、どこか偉そうな態度の天使だった。

 可愛らし顔で、中性の天使が身に着けるゆったりとした白いワンピースにインディゴブルーのビロード生地のローブ姿は、一見無害そうだが、「死神」として一番有名なのがこの天使だった。

 クローブと同じ能天使だった。名前をセツナという。

 水色の髪は天でも珍しく、目立ち、愛らしい容姿もあって憧れる天使も多い。だがセツナは地上生まれの、天使に創られた天使だった。長い髪は精神力の容量を示すが、その通り、底なしで、攻撃魔法を使わせたら右に出るものはいない。彼の戦う様子を見たものは、誰もがその幻想から引き戻されるばかりでなく、戦慄する。クローブも、そのひとりだった。だが今は、そんなセツナの姿はクローブには見えていない。

「なにしてんの。こっちだよ」

 辞令の書かれた紙を両手で貰ったときのまま固まって動かないクローブをセツナは振り返って急かした。

 それでも、クローブは動けないでいた。

 何かの間違いだ。そんなはずはない。そればかりが、彼を未だに支配していた。

「おーい」

 セツナはクローブの前に再び戻って、クローブを下からのぞきこむと、手を目の前にかざし振る。

 それでも動かないクローブに、セツナは「しかたないな」と言い、彼の辞令をもつ手を持つと、彼を引きずりながら移動した。



 クローブは気が付くと、どこかの一室にいた。

 はっとして高速で部屋を確認すると、自分の前に立派なダークブラウンの木目の綺麗な机があり、そこにほほ杖をついた男がいた。

「あ、気がついたかな?」

 男の横には中性の天使が優しそうなほほえみを浮かべて立っている。そして、手前のソファーの背の部分に寄りかかり立っているのはセツナだった。

「僕が、死神の長官です。こっちが、力天使のレーイね。セツナのことは知ってるんだよね。今日からよろしくね。セツナに色々教えてもらうといいよ」

「レーイは色付きの天使なんだよ。すっごい綺麗な翼なんだ。そのうち、見せてもらえると思うよ」

「こらこら、レーイの翼は見せ物じゃないんだからね」

 見れば、レーイという天使は恥ずかしそうにしている。

 色付きの天使は今では珍しい。白鳥の群に鴨が一匹混じっているくらいの異端だろう。そんな天使がまだいたという風には思えない。突然変異的に生まれてきた天使なのだろう。そんな天使がいるとなれば、それなりに知れていてもおかしくはない。でも、ここにいるということは、隠したとしか言いようがないのではないか。

 クローブはぼんやりと一瞬でそんなことを考えていた。

「じゃあ、みんなに紹介してくるよ」

 セツナが言って、近寄る。

 クローブはそこで、またはっと意識を取り戻したようになったが、頭の中は依然真っ白な状態で、どうすることもできなかった。

「大丈夫か?」

 セツナが訝しげに首をかしげてクローブの目を見るが、それを意識することはできても、やはり何かを返すことはできなかった。

「まあ、いいや」と言って、セツナはクローブの腕をつかみ引きずって部屋を出た。

 部屋を出ると、クローブの目には花畑が飛び込んできた。初めて見るその光景に、目が離せなかった。けれども、手を引かれて景色は横に流れていく。

 ドアの開かれる音がすると、クローブはそこに引きずり込まれた。くるりと部屋の方へ向かされる。

「新しいひときたよ」

 そう言って、セツナはクローブを振り返った。自己紹介しろという意味だということはなんとなく分かったが、クローブは部屋にいる人物をひとりずつ見ることに忙しかった。

 部屋の左側奥に少しぼーっとしたような顔をしている男性の天使がいた。手に本を持ちながらクローブを見ている。

 ビリヤード台を挟んで右側のソファーには、背中に届く長さの白髪の髪の人物が座っていた。綺麗な顔でありながら、どこか可愛らしさも持ち合わせている、男か女か分からない。ただ、その瞳の色は紫。人間や天使よりもはるかに強靱な肉体と力を持つ魔族だ。彼は何か飲み物の入ったカップを手にしたまま、こちらを見ていた。

 そして、魔族の向かいに座っていたのは、金髪の天使だった。クローブはこれ以上驚くことができないほどに驚いていた。金の髪は、堕天した天使ルシフェル、現在は魔王ルシファーと呼ばれる彼のものと同じ髪の色だ。禁忌の色をもつ天使がそこにいた。しかも、まだ男にも中性にもなれていない未分化体の天使だ。これは、トップシークレットだろうとクローブは思った。「死神」の特異性がはっきりと分かった瞬間だった。

「確か、クローブって名前だっけ。僕は魔族の天理っていうの。攻撃魔法も使えるし、接近戦も得意だから。よろしくね」

 天理と名乗った魔族は立ち上がると、にこりと笑って言った。

「あっちのぼーっとしてるのがダブリス。自由天使なんだって」

 それをきいてクローブはすごい勢いで、視線をぼーっとしている天使に戻した。

 ダブリスが小さくお辞儀をする。

 自由天使はすべてが堕天したものと思っていた。最初に神から創られた天使であり、つまりは最古の天使である。その名前の通り、運命にさえ束縛されない天使だ。欲望のままに、思うままに行動することができる。故に、自由天使は天には留まらなかった。このひとりの天使をのぞいては、ということだ。

「金の髪のが夕貴ね。あ、夕貴のことは上には内緒だよ」

 改めて、金の天使を見ると、大きな目で睨むようにクローブを見ていた。とくに挨拶もなく、また笑顔もなかった。

「あともうひとり魔族がいるんだけど、今は下の調査に行ってていないんだ。またあとで紹介するね。あとは」

「こちらにいましたか」

 セツナの声にかぶって別の声がクローブの後ろからした。

 ゆっくりと振り返ると、そこには背の低い天使がいた。身分化体のような小ささだが、おそらく男性だろう。髪は短いし、どう見ても戦闘員ではなさそうだ。

「あ、リエル、新しいひときたよ」

「ええ、見れば分かります。あなた用のゲートリングを貰ってきました。リエルといいます。事務官を務めてます。どうぞよろしく」

 リエルは右手を差し出したが、クローブはその手を見つめることしかできなかった。

 色付きに自由天使に禁忌の天使、魔族が二人になんだかすっとぼけていそうな長官に、この事務官、そしてセツナ。そこに自分が加わる。これは、なんの苛めなのだろうか。ぞわりぞわりと、クローブの肌があわだった。

 自分の未来は、たくさんの中性の天使からきゃーきゃー言われる輝かしい未来のはずではなかったのか。ここに来るのは、自分でなくても良かったのではないか。ひとつの明るい未来も想像することができなかった。ここの連中と仲良くしているのを想像した時、それを一瞬で壊したくなった。何もかもを頭から消し去りたかった。

 クローブは、死神の館を飛び出した。



 クローブは花畑の中を走って走って、走りまくっていた。だけれども、その逃避行はすぐに終わってしまう。

「どこ行くんだよ」

 ふわりとクローブの前に降り立ったのはセツナだった。大きな白い翼がまぶしい。

「そんなはずはないんだ。俺が、死神なんてことは!」

 セツナはそこでようやく、気がついた。

「あ、死神やなんだ」

 死神が疎まれていることは、仲間の誰もが知っている。でも、仲間の中に嫌々死神の仕事をしているものは、今はいない。

「大丈夫だよ。そんな悪いとこじゃないよ」

 セツナも死神になるのは嫌だと思っていた。だが、死神に来てから能力が格段に上がり、勧善懲悪思考もあって、セツナはのびのびと悪魔討伐をするようになっていた。

「俺があんたみたいに戦えるわけないだろ?」

「別にダブリスや夕貴だってそんな強くはないし、っていうか、データ見たけど二人に比べたらクローブの方が強いし。万が一怪我してもレーイがいるし、僕も回復魔法使えるし、そもそも、そんな危険な任務は滅多にないよ」

 セツナは説得を続けるが、クローブにとっては、なんの意味も為さなかった。クローブが欲しいのは、名声まではいかなくとも、黄色い声だったからだ。だからと言って「モテないから嫌なんだ」とは言えなかった。

 そうしているうちに、わらわらと他のメンバーが集まってきた。

「死神やなんだって」

 セツナが簡単すぎるほど簡単に説明する。

「ああ」とうなずいたのはリエルだった。

「それは、すごく分かりますよ。上での死神のイメージってすごく悪いですし、セツナさんが能力テストであんなにドカドカ攻撃魔法使ってたら、余計になんか恐いですし」

「やだなー、せっちゃん、もう少しお上品にテスト受けてもらわないと」

「え、僕のせい!? だって、僕が来たときから、死神の印象悪かったけど!?」

「そもそもアレなんですよ。問題児集団みたいな印象があるんですよ。そこに入るなんて、ってことでしょう」

 僕もそう思ってましたし、とリエルは続ける。

 リエルも死神に配属と決まった時は、人事である主天使の事務局に異議申し立てをしたりと、死神配属を嫌がっていた天使だ。働いてみれば、のらりくらりと仕事をする長官に腹を立てるばかりで、やはり良い環境とは言えない職場だった。だけれども、天上のまったりゆっくりとして「カフェで休憩しましょう」なんて会話が聞こえてきたりといった、優雅にお仕事してますのよみたいな雰囲気とは違って、毎日が「ハンコ下さい!」「これ今日中ですよっ!」「どこ行ってたんですかーっ!!」と叫ぶ日々はとても充実していて、そうやって働くのが自分には合っているとリエルは思い始めていた。無論、そんなことは秘密だが。そう、この仕事は自分にしかできない、自分は優秀な事務官だとリエルは自負している。決して、落ちこぼれではないと。

 死神配属と知ったクローブの同期の天使たちはなんて思うだろうか。きっと「あいつ、なにか問題をおこしたのか?」と、そう思うに違いない。そうではないと思わせるのは、大変なことだろう。そういう機会が、死神になってしまうと極端に減る。一方でセツナの嬉々として攻撃魔法をぶっぱなす姿が印象をさらに悪くしていく。

 セツナに関してだけ見れば、その可愛らしい容姿のおかげでプラスマイナスゼロで済んでいるので、セツナ自体の評価は悪くはなかったりする。リエルはそう分析していた。

「来期の能力テストで魅せることができたならば、あなたの場合は十分評価が回復しますよ」

「え、そういうこと?」

 セツナが驚いたようにリエルを振り返った。

「そういうことでしょう」

 リエルの言葉に、みんながクローブを見た。

 そのクローブは表情が分からないくらいにうつむいている。

「あー、でもわかるかも。上行くと、なんか視線が気になるもんなー」

 セツナがうなずく。

「セツナさん、そうではないでしょう」

「え?」

 リエルの言葉の意味が分からずにセツナは疑問符を投げかけるが、それを受け取ったのは長官だった。

「つまり、あれでしょ。周りの評価なんか気にすんなよーってことでしょ」

「そういうことです」

 ああ、とセツナが納得する。

 だが、クローブはうつむいたままだ。

「ちがう」

 短い言葉クローブから発せられた。

「なんで俺なんだ? 俺は何も問題なんかおこしてない。なのに、なんで俺なんだ? 強いやつなんて、他にもたくさんいるじゃないか! なんで俺なんだ!?」

 それはね、と長官が説明しようとしたが、クローブには届かない。

「俺は、色付きでも、禁忌色の天使でも、天使に創られた天使でもないのに!」

 セツナは自分が天使に創られた天使だということを意識したこともなければ、言われて傷ついたこともないが、レーイや夕貴はそれがコンプレックスでもあり、そのせいで傷ついてきた。怒るような性格ではないレーイは、悲しそうな顔をした。

「聞き捨てられないね。色つきの何が悪いんだい? 金髪の何が? セツナだって、ちゃんと天に認められて、今じゃ魔法部隊の第二隊長じゃない。輝く金は神の色だし、レーイの翼だって綺麗だ。昔は色つきの天使はたくさんいたさ。ただ、白いのが今の流行ってだけでしょう。翼の色、大きさ、髪の色、長さ、能力、みんなバラバラで当たり前だ。確かに、夕貴だけは天に認められてない。魔族もいる。でも、それがここにいる理由じゃない」

 レーイのことを悪く言われて、長官は怒ったようだった。だけれども、その怒りは長続きはしない。

「これだから、能天使のルーキーは、って言いたいところだけど、僕としては能天使の君にはいて欲しいいんだよねーーーーーっ」

 長官は切実そうに訴えた。

 能天使は戦闘を司る天使だ。戦闘バカで頭が悪い天使が多い。ルーキーといえば、最近まで最下級天使のアカデミー生だったという、極めて幼い精神を有している者が多いというのも、悩みどころだ。

 現在、死神の戦闘要員は夕貴、セツナ、天理ともう一人の魔族だけという、きわめて厳しい状況だ。空を飛べるとなると、天使の二人しかいない。しかも、筋力で劣る中性の天使と未分化体の天使しかいない。男性の天使は喉から手が出るほど欲しい存在だった。

「だったら尚更、どうして俺なんだ!」

「どうして?」

 すっとぼけたように聞いたのはセツナだった。

「僕も問題起こしたから死神になったんだと思ってたけど」

 セツナは地上でひととして暮らしていた時に、魔法を暴走させて大勢の人間を殺していた。

「要らないってことなんだろ。俺は、天には要らないって、そういうことなんだろ!?」

 要らない天使なんていないと、誰もが口をそろえて言おうと思った。

「なら、堕天してやる」

 その言葉がクローブの口から出る方が先だった。

 みんなが「は?」とか「え?」とかの短い言葉がそれぞれの口からこぼれる。

「俺は、俺は、堕天するんだーーーーーーっ」

 クローブの叫びが天に響き渡った。




 クローブをとり囲む他の天使や仲間たちは、その叫びを聞いて呆れ、驚いていた。何を言っているのかと。堕天すると言っ堕ちた天使は、過去にどれくらいいたのだろう。きっと、そんなにはいないだろう。

「堕天して、どうすんの」

 天理が言った。

「俺は天にはいらないってことだろう!? なら堕天するしかないじゃないかっ」

「だから、なんでそうなるんだってば」

「お、お前らみたいな問題児の集団の中にぶち込まれたってことは、必要ないってことだろ!?」

「必要だから、ここにきたんでしょーが」

「お前らに必要とされたって、なんの意味もない!」

「うわ、ひどっ」

 そこまで言われてしまうと、どうでもよくなってくるというもの。天理はばからしいなあというような顔をして天を仰ぎ見た。

「そんなに嫌なら、人事に転属願い出してみては?」

 とりあってくれるかは分かりませんけれど、とリエルが先人として言う。

「堕天したら、やっぱりな、とか上の連中に思われちゃうんじゃない。やめた方がいいよ」

 セツナが言うが、クローブは顔を真っ赤に染めて押し黙っている。

「まあ、良く考えなよ。こんな長官の下じゃ、確かに働きたくないのわかるけど、堕天したら、僕らが討伐しなきゃなんないかもしれないし」

 天理がため息をつきながら言った。そして、天理はその場を離れる。

 そのセリフは確かにクローブに刺さった。他の天使や魔族の能力は分からないが、セツナ相手では、絶対に敵わない。

 セツナ、レーイ、リエル、長官も天理に続いてクローブから離れ、死神の館へと戻って行った。

 残ったのは、自由天使のダブリスとクローブだけになった。

「お前は行かないのか?」

「行った方がいいのか? でも、俺は自由だから、拒まれても、君の側にいることができるよ。一緒に、地獄に行くこともできるよ」

 クローブは、はっとして顔を上げた。

 かねてから疑問だったことが、クローブにはあった。天使はなぜ堕天するのかと。もしかしたら、地獄にもそれなりのメリットがあるのではないか。

「行ってみる?」

 その言葉にクローブはゆっくりとうなずいた。



 セツナと天理は、死神の館のプレイルームのソファに座って休んでいた。部屋にはビリヤードやダーツボードが置かれている。いつでも暇つぶしに遊べるようになっているのだが、今は静かにそこにあるだけだった。

「大丈夫かな、アイツ」

 セツナが少し不安そうに言う。

「大丈夫でしょ。一応、天が認めた天使なんだし」

 天理は置いてあった本を読みながら、適当に答えた。

「能天使は堕ちやすいっていうけど、僕も能天使じゃん。僕もそういう可能性が高いってことだよね」

「せっちゃんは完全懲悪だもん。ないよ」

「完全懲悪って、天使はみんなそうだと思ってたよ」

「天使がみんな勧善懲悪だったら、大変だよ。そんなんだったら、うちの長官はとっくにいなくなってるっていうか、もっと真面目な長官だよね。死神もないでしょ」

「うん。まあ、そうだよね」

 とうなずきながら、セツナは、自分はそんなに完全懲悪かなーと考える。だけれども、自分ではなかなか分からないものだ。

「で、どんくらい待てばいいの?」

「え?」

「どんくらい待てば、やっぱ止めますって言ってくんの?」

「さあ、そんなの知らないけど。ま、一回でも死神の仕事に無理やり連れてけば、現状が分かるんじゃないの?」

「現状?」

 天理は本から目を離す。

「せっちゃんはさー、分かってないでしょ。悪魔はストレス発散のための獲物じゃないんだよ?」

「え? ちゃんと分かってるよ。僕たちがいないと、悪魔が野放しになるってことでしょ?」

「それだけじゃないでしょーよ」

 セツナは首をかしげる。

「だから完全懲悪だっていうんだよ」

 話に付き合う天理はため息をつく。肝心の天使がこれでは、思いやられるというもの。

 そこに夕貴が入ってきた。

「どうなったの。アレは」

「え? まだ外で悩んでんじゃないの? ダブリスが残ってたみたいだけど」

 夕貴の問いに天理が答える。

 が、夕貴は顔を少し歪めた。

「外? いないけど。外廊からは見えなかったけど、どっか別のとこで説得してるの?」

「いない? そんなはずは」

「堕天した、のかな」セツナがやはり不安気に言う。

「いやいや、それはないでしょ」天理がそれを否定する。

「なんで分かるの?」

「だって、こっち来てから何もしてないのに堕天したんじゃ、何のために死神に任命されたんだよ。天はそんな無駄なことはしないでしょ」

 天理の言葉にセツナも夕貴もハテナを飛ばす。

「二人とも、天使なんだから、もうちょっと天の仕組みを学ぼうよ」

 天理はまたため息をついた。

 そこに、勢いよくドアが開かれた。

「こっちにダブリスと彼、いる!?」

 長官だった。走ってきたようで、息が荒い。

「いませんけど。って、やっぱ、外にいないんだ。ダブリスも?」

 大丈夫と言っていた天理もさすがに、不安になっていた。顔がひきつっている。

「いないの?」

 長官の後ろから、少し間延びした、穏やかで澄んだ声がした。

 その声は黒髪の天使、ケルビムだった。

 天にただひとりの智天使のため、誰もがその階級で呼んでいる。機関「死神」の最高責任者で、彼から討伐指令がくる。死神の館には、そんなに頻繁にはこない。

「何かあったの?」セツナが訊く。

「あったというわけではないのだけど、ちょっと急ぎの注意事項があったから」

 ケルビムの声は小さくなっていく。

「何? その、注意事項って」

「あー、うーん、えっと、あのね、」

 ケルビムの口は普段より格段に重たい。

「えっと、ダブリスがね、悪魔に狙われる、かもしれないっていう、情報がね、僕のところに入ってね、そのぉ」

 三秒の間があった。

「悪魔に狙われる? ダブリスが?」

 つぶやくようにセツナが質問を投げた。

「ほら、ダブリスの特技は、物理的拘束の解除でしょ。だから、魔王ルシファーの氷の拘束も解けるんじゃないかって」

 興奮した長官が早口で言った。

「「えええええええええええっ!?」」

 セツナと天理、二人の驚きの声が響いた。

「ちょっ、それは、のんびりしてられないんじゃ」

 天理は焦る。

 だというのに、ケルビムはのんびりした口調で言った。

「まあ、いくらダブリスでも、ルシフェルの拘束が解けるとは思わないけれど」

 ケルビムは魔王のことを、天にいた時の名前で呼ぶ。

「いや、ま、そっか」

 天理だけが、まずうなずいた。

「でも、心配だね。で、天理、さっきやっぱり外にいないのって言ってたよね。どういう、こと?」

 やはり、ケルビムはのんびりとした口調で訊いた。

 天理は、そこで新人クローブが堕天宣言したことをケルビムに話した。

「あ、そう」

 話を聞いたケルビムは、少し考える仕草をする。 

「えっと、どこに行ったと思う?」ケルビムが問う。

「どこって」天理は言葉に詰まる。

「堕天って言ったら、やっぱ地獄?」セツナが恐る恐る口にする。

「でも、地獄へは、そう簡単にはいけないでしょう。堕天した身だというのならまだしも、この短時間で二人とも堕天なんて、ありえない」

 夕貴が冷静に言う。彼だけが、常に冷静だった。

 地獄に行くには、知恵の館にある門をくぐる。だが、そこには門番がいて、厳重に閉ざされている。許可がなくては、そこから地獄に行くことはできない。

 そして、天には、もうひとつ、地獄に行くための門がある。その門が死神の館にあった。門番こそいないが、厳重に施錠してある。長官が上に許可をとり、鍵も長官が管理している。鍵を開けるのも、長官だ。

「ダブリスなら、ここの門の鍵、開けられちゃうよね。彼は、どこにでも行けるから」

 ケルビムの言葉をきいて、長官は顔面を蒼白にして走って行った。

 セツナたちも、慌てて門へと向かう。

 門は死神の館の奥にある。赤い調度品で整えられた一室に、その調度品の一部かのようなデザインをした門があった。門の周辺の床には、悪魔が入ってこられないようにとほどこされた魔方陣が描かれている。まず、格子状の扉があり、その奥に鉄板で補強された木製のぶ厚い扉がある。

 肝心の鍵は、すべて、開錠されていた。

「地獄に行ったんだね」セツナが言う。

「これは、ちょっとさぁ、門の管理方法を考えなきゃならないんじゃないの?」

 天理が長官を責めるように言った。

「どうするんです?」

 やはり、夕貴だけは冷静で、誰ともなく訊いた。

 地獄は簡単には行けない。許可を取らなくてはならない。それには、無論、理由がいる。

 いつの間にか、門から遠ざかったところで、長官が転がっていた。「反省文じゃぁ、済まないよう」とブツブツつぶやいている。

「えっと、ここの門の責任者は、僕になるのかな。知恵の館のは能天使管理で、責任は主天使だけど」

 ケルビムのつぶやきを耳ざとく聞いた長官は、すぐさまケルビムの側に瞬間移動する。

「そうです! あなたが責任者です!」

 天理やセツナはもはや、言葉も出ない。

「ああ、うん、じゃあ、まあ、とりあえず、行っちゃうか」

 死神長官もアレなら、その上官もアレである。そもそも、ケルビムが持ってきた「ダブリスが狙われるかも」という情報は、悪魔側からもたらされたものだろうことは想像するに容易い。ケルビムは死神長官以上にめちゃくちゃな天使だった。規則なんてものは、あって無いようなもので、死神の館に来るのだって許可がいるはずなのに、ケルビムは気軽に足を運ぶ。なので、本来の視察業務の時などは、他の天使もいるため白々しいほどに「ご苦労様です」などと言ったりするほどだ。

「えっと、じゃあ、どうしようかな。僕一人でもいいんだけど、ごめん、その堕天希望の彼の顔をよく知らないから、誰かついてきてくれると助かるんだけど」

 なんというか、配属されたくない職場第一位である「死神」の最高責任者が、その自覚がなく、新人の顔を知らないというのは、あまりにも、クローブが可哀想であった。仮にも、書類にしっかりと署名をし印を押したはずである。

「もし、悪魔が襲ってきたら、消しちゃってもいい?」

 そんな物騒な問いをしたのはセツナである。

 基本、悪魔といえど、討伐許可がなければ、危害を加えることはできない。

 そんなセツナの問いに、さすがのケルビムも引き気味で、答えに困った。

「うーんと、状況にもよる、かな?」

「じゃあ、行く!」

 顔を明るくして答えたセツナを見て、天理はやはり顔を引きつかせる。

「僕も行く。ダブリスが心配だからな」

 夕貴が言った。

「天理は? 行かないの?」

 普段の悪魔討伐では、セツナと天理のコンビが地獄を担当している。本来、天理は地獄の担当ではなかったのだが、悪魔討伐は基本二人以上で行動する。地獄に行くなら、飛べた方がいい。が、現在の死神にブレーンは少ない。セツナは完全懲悪の性格なので、地獄では暴走しがちで、作戦もなにも関係なく行動しようとする。天理という抑止が必要だった。地上担当のブレーンは、実は、事務官であるはずのリエルだったりするので、その深刻さがわかるというものだ。天使であるリエルをセツナにつけても良いのだが、リエルの方が後任のため、そのまま天理がセツナのお守りをしていた。

「僕はいいよ。ケルビムがいるなら、大丈夫でしょ」

 天理は遠慮する。めちゃくちゃな人達に付き合うほど、疲れることはないという理由だ。

 長官は絶対に戦闘には参加しないので、地獄にはケルビム、セツナ、夕貴の三人で行くことになった。

 扉を開けて、地獄の地へ降り立つ。

「じゃあ、気をつけてね」長官が扉を覗き込んで三人を見送った。

 扉が閉められる。鍵は掛けたりしない。

「いやー、みんな無事に戻ってくるといいんだけど」

 天理は長官のその言葉にあえて、何も言わなかった。ため息をついて、部屋のソファーに座り、みんなの帰りを待つことにした。

「長官は早く執務室に戻らないと、リエルがうるさいですよ」

「あ、いや、そうだね」

 長官はうなずきながらも、部屋から出て行こうとはせず、うろうろしている。

 早く戻ろうが、なんであろうが、リエルは怒るだろう。

「ねえ、どれくらいで戻ってくると思う?」

「え? さあ。地獄は広いから。でも、ケルビムが一緒だし、今日中には戻ってくるんじゃないかな」

「そっか、そうだよね」

 なんの心配をしているかと言えば、今後のスケジュールの心配をしているのだ。冷たいリエルは、まずそこを責めるだろうから、あらかじめ「大丈夫大丈夫」と言える根拠(のようなもので、そうではないが)をそろえておくのだ。

 今日は日曜日で、一週間の始まりの日である。死神は危険な任務を担うため、休暇が多い。調査、討伐の仕事が無ければ、休みと言っていい。が、全員が全員仕事が休みという日はほとんどない。現在も、魔族の死神の一人が地上に調査へ行っている。その調査の次第によっては、明日にも地上担当の夕貴、ダブリス、レーイ、リエルが討伐に出かけることになる。もし、戦闘の中心となる夕貴が戻ってこなければ、天理が代わりに行くことになるだろう。だから、天理は残ったのだが、そういう心配までしているのは、リエルと天理のブレーン組みだけだった。

 すんなり終わって、帰ってくることを、天理も願った。




 クローブとダブリスは地獄への門をくぐり、万魔殿の東側の岩山へきていた。岩山の高いところからなら、地獄が一望できた。

「あれが万魔殿」とダブリスが前方を指差して説明をする。だが、ガイドにはいささか向いていないようで、他に詳しい説明はなかった。

 草木ひとつない、荒れて乾燥した大地に高い塔のような大きな建物がひとつだけ建っている。それが万魔殿だった。黒っぽいが、良く見ると凝った造りをしている。しかし、左右非対称で、見ているとどこか不安を掻き立てられるような、そんな異様な建物だった。

「この後ろに天界の門がある」

 ダブリスの説明は、それで終わった。天界の門に至っては、見えなかった。

 地獄には、それしかなかった。あとはただただ埃っぽい。息がしにくい。

 この荒れた大地は、天とはあまりに違いすぎて、クローブにとっては不快だった。

 クローブはなんとなく悟っていた。

 精神周波数が著しく低下しなくては、ここの空気は心地よく感じないのだと。地獄に来たからといって、堕天できるわけではないと。

 そんなことは知っていたはずなのだが、堕天するということは、地獄に行く、落ちることなのだと、そう思っていた。

「悪魔を見てると、一見、楽しそうに見えるけれど、実際はそうじゃない。堕天使は、誰もが少なからず後悔してる。世の中には、どうしても高いところと低いところがある。それは、神様が、無以外のものを創ったからだけど。残念なことに、低いところへ堕ちることは簡単だけれど、高いところへ戻ることはなかなかできない。低いところへ行ってから、何かを悟ることができたとしても、高いところへは戻れない。だから、後悔する」

 ダブリスにしてはたくさんしゃべった。そして最後に言った。

「後悔してもいいって言うなら、堕天を止めない。死神のみんなは、それを良く知ってるから、君のことを止めたんだ」

 死神は悪魔や堕天使の叫びを聞く。その叫びは、上には少しも伝わらない。だから、その無知ゆえに簡単に堕天してしまう。

 クローブはかつての栄光の天使ルシフェルの堕天した理由を思い出してぞっとした。自分がそこまですごい天使になれるとは思ってはいないが、でもそういう誰にも褒め称えられるような未来を夢見た。そこでの自分は、驕っていたのではないか。いづれ、堕天していたのではないか。そんな未来があったのではないかと。

「こんな、俺でも」死神は止めてくれた。

 ダブリスは言いかけたクローブを見る。

「ひとつ、君は誤解してる」

「誤解?」

 ダブリスはうなずく。

 それは、と続けようとした時だった。

 羽根つきの全身黒い異形の悪魔が顔をにやつかせて現れた。その手には幅広の刃の湾曲した刀があった。

「なんだ!」

 思わず、クローブはダブリスをかばっていた。同時に剣を抜く。

「コロさずにツカまえるっていうのはムズカしそうだ」

 悪魔は言うなり、切りかかってきた。

 クローブはそれを受ける。

「なんなんだ、いきなり!」

 見れば、黒い大群に囲まれている。その数は千を超えているように見える。

 だが、驚いている時間はなかった。クローブは必死で剣を振るうしかない。

 ひとりでは、これだけの数を相手にするのは不可能だと、時間の問題だとクローブの頭は言っている。だけれども、諦めるわけにはいかない。なぜか、そう思う。頭の中はすでに無理という言葉が支配している。

 もう駄目だと思った時、光が舞い降りた。

 金色の髪が、クローブの目の前にあった。

「ダブリス、大丈夫か?」

「大丈夫」

「なら、お前も剣を抜け!」

 禁忌の天使、夕貴だった。

 そして、周りの空気が変わる。悪魔たちがざわめき始めた。

「セツナだ!」

 悪魔が言った。

 クローブはその姿を探すのに時間がかかった。悪魔の視線を追うと、セツナはクローブよりも高いところに浮いていた。

 そして、次の瞬間には、空に氷が現れた。氷は周囲の悪魔を飲み込みながら巨大化し、小部屋ほどの大きさになったところで落下した。地上にいた悪魔は巨大な氷に押しつぶされる。空にも、穴があいたようになっている。ふたつ、みっつと連続でそれは降り注いだ。セツナの戦闘力は圧倒的だった。セツナに襲いかかろうとする悪魔もいたが、金色に輝く魔法の盾ですべて防がれている。あれだけいた蟲のような悪魔は散り乱れ、クローブの傍からも逃げ出す悪魔が半数ほどあった。あとの半数も、クローブと夕貴でなんとか退けることができた。奇跡的に、誰も怪我をしていなかった。

 クローブの胸には、まだ嵐の余韻が残っている。息も荒かった。

 そこにセツナが降りてくる。

「下に行こう。ケルビム待ってるから」

 クローブはケルビムの名に驚いたが、とりあえず何も聞かずに降りることにした。

 降りると、ひとりの人物が立っていたが、フードをかぶっているため、クローブには彼がケルビムだと確信することはできない。

 クローブはその場の流れというのか、なんとなくなのか、彼らと一緒に死神の館の門へと向っていた。ここで「堕天する」とは言えなかった。



 門をくぐり、死神の館へと戻ってきた。その部屋に長官と魔族の天理、レーイやリエルもいた。

「すみません、俺、迷惑をかけて」

 クローブはすぐに言った。

「僕こそ、悪かったね」

 ケルビムを名乗る人物が、そのフードを取った。

 長い黒髪が露わになる。気品のある微笑みに芸術作品のような立ち姿は確かに、天で一等美しいと謳われるケルビムそのひとに間違いなかった。クローブはその静かな夜のような美しさに見とれた。

「本当ならもう少し早く情報が入るんだったんだけど、土曜日は天にいなかったから。それと、この門を張られてたみたいだね。ダブリスはしばらくは地獄に行かない方がいいかもしれないね」

「はい、わかりました!」

 長官が良かったーとばかりにうなずく。

「いやー、良かった。クロくんも無事で」

「まあ、堕天とかは全然心配してなかったけど」

 天理が呆れたような顔で言う。

 それは、クローブ自身もなんとなく分かっていた。

 悪魔に囲まれた時、完璧にあれは敵だと認識していた。ダブリスを守らなくてはならないと、必死だった。

「僕たちは天使をそそのかす堕天使、悪魔を討伐する。悲しい天使を増やさないために。それが、僕たちの仕事だ」

「あ、そういうことかー」

 天理の言葉にセツナが先に納得していた。

「でも、魔族のあなたが、どうして?」

「僕は、救ってもらったから。ケルビムの前任の天使と、レーイに」

 クローブは色付きと差別していたレーイを見た。

「僕は、ほとんど何も」

 ひどいことを言ったにもかかわらず、にっこりと微笑み、控えめに立っているレーイが今まで会った天使の誰よりも優しいのだということに気がついた。

「俺、ひどいこと言ったのに、それでも?」

「何度も言うけど、必要なんだよ。見たでしょ? あのおぞましいほどの数をさ。僕の力は無限じゃないし、今日はケルビムが魔法の盾をつけてくれたから、大丈夫だったけど」

「僕たちだけじゃ相手にできない悪魔もいる。仲間は一人でも多い方がいい。でも、死神になるには適性が必要だ」

「何? 適性って」

 クローブの疑問をセツナが先に拾ってくれる。

「神様に愛された天使。もしくは、墜ちない天使ってこと」

「そういうことだね。これは誇りに思った方がいい。そんな天使はめったにいないから」

 ケルビムが言う。ケルビムが言うのなら、そうなのだろうと無条件で納得してしまう。

「君は、どんなに堕天しようと思っても、その性が、その理性が邪魔をして、できない。君は、墜ちない天使なんだよ。それが、君が死神に選ばれた理由だよ。何か、不服かな?」

 クローブは思いっきり首を横にふっていた。

「いやー、ほんとバカらしかった」

 言って天理が部屋を出ていく。

 その言葉にクローブは怒りを覚える。

「そもそも、死神のイメージが悪いせいでしょ!? 俺が絶対、イメージを変えてみせます!」

「よろしくお願いします」

 リエルがうなずきながらクローブの肩をたたいて部屋を出ていく。

 クローブは新しい、輝ける未来を想像していた。




 一年後には、死神の軍服を着て、堂々と知恵の館を歩くクローブの姿があった。

 視線をたくさん浴びて、自信に満ちた顔をして。

 ただ、死神の印象が良くなるのは、まだまだ先のことだった。

「だから、もっと上品に魔法をぶっぱなしてよ!」

「上品ってなにそれ」

「こう、ケルビムみたいにクールにさあ。恐いんだよ。ほんと、笑いながら魔法放つとか」

「そんな笑ってないよ!」

「なに言ってんの、恐怖の微笑みだっつーの」

 年に一度の能力テストの際に必ずする、クローブとセツナの会話だった。


                       The end


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