断罪者
「我が君、よろしいのですか?」
「なにがですか?」
「あのようなことを……」
「我が公爵家のことですか? ……サムソン、わたしはいつかこのことを口外できる日を待っていた。勇者様ご本人に許しを請えるなどこれほど嬉しいことはない」
今生の勇者ユーマはしばらく館に滞在することになり、その間に剣を学ぶのだそうだ。ユーマの世界の剣術とこの国の剣術は違い、慣れるまでに時間がかかりそうだと言うことだが、ユーマの使える剣――カタナというそうだが――が入手不可能ならば仕方がない。こちらの剣に慣れてもらうしかないのだ。
ユーマの世界は平和でユーマは命を奪うことに抵抗があるそうだが、それもおいおいなんとかしてもらうとナイジェルが言っていた。見かけによらずナイジェル少年は使える。
「サムソン、護衛の人選を頼む。せめて国境近くまでは安全にたどり着けるよう手配してくれ」
「かしこまりました」
「準備が整い次第国境まで送っていけるように。予算はどれだけかかってもいい。キヨカワ殿に不自由をさせてはならない。かの方は勇者であらせられる」
本来なら隊のひとつもつけたいところだが――ユーマに言ったとおり神気、魔法を使えない軍隊など対魔物に関しては足手まといもいいところだ。
「――我らの希望だ」
「我が君。かの者は真実勇者でありましょうか? 我が国は許されるのでしょうか?」
「それは神のみぞ知る――ことだな、サムソン」
「出すぎたことは分かっておりますが――我が国許されたそのときには――王位に就かれますか?」
「いや――」
リオネルは苦笑して首を振った。
「わたしは王位にはつけない。もしついたとしても――子はできないから次代に困る。ローザリオンもわたしの代で断絶だ」
「…………」
サムソンは思わず視線をそらした。
「妻を娶れとは言わないな? 子を作るためだけに愛情の欠片も抱けない相手と同衾するつもりはない」
「…………護衛を選んでまいります」
サムソンはその場を逃げ出した。
ローザリオン公爵家はわたしの代で終わらせる――リオネルはそう決めている。どちらにしろリオネルは孕めないのでそうなる――男は子供を産めない。
「テオ……ガーランド……償いにもならないが……公爵家は滅びるよ……君達を貶めたものが……」
リオネル・オグ・ローザリオンは生まれたそのときから別人の記憶を抱えていた。おそらくは前世――リオネル・オグ・ローザリオンとして生まれてきた魂が覚えている記憶だ。
彼は――名前すら忘れられた魔法使いだ。先代勇者に仕えた魔法使い。ともに戦火をくぐり抜け固く信頼で結ばれた――取り残された魔法使い。
あの運命の日――彼は魔法使いの長より勇者の謁見の場は遠慮するように言い渡されていた。用事があるといわれ鵜呑みにした。勇者様が王に報告するだけだ。問題が起きるなどとは考えもしなかった。
そして――生涯――死んだ後もそのことを後悔し続けることになるとは――
魔法が消えた――それは神官や魔法使いにとっては一目瞭然で――なぜそんなことになったのか混乱した。
そして伝えられた凶事――王によって勇者が討ち取られ、神の怒りを買った――
ガーランドがテオを裏切るなど信じられず――まして事前にわたしや神官などの仲間が遠ざけられていた事実にわたしは長を問い詰めた。
そして長が王の謀殺を吐露したのだ。最初から仕組まれていた勇者殺し。そしてガーランドの家族も探し当て、ガーランドの弟から全てを聞いた。
呪われろ――神の愛し子を謀殺した全てのもの。わたしは真実を声高に訴えたが、魔法を失った魔法使いがどれほどのものか――黙殺された。
わたしは失意のうちに生涯を終え――ローザリオン公爵家の嫡子として新たな生を与えられた。
これはいかなる神の采配か?
当時の当主の記録を調べ、確たる証拠すらつかんだ――けれど、それに何の意味があるだろう。すでに世代は移り変わり――多くの家系は自分達の先祖の罪を知らない。いま真実を暴露しても辛うじて保っている体制を乱すだけだ。
公表する意味すら見失った。
そんな時スタンレイ家の末裔の一人だと名乗る少年が現れた。
神より啓示を受けたというのだ。
『勇者を召喚し最後まで仕えよ』と――
騙りだとサムソンを初め皆はそれを信用しなかった。『神に見放された国』の住人であり『裏切り騎士』の家系であるスタンレイ家のものに神が神託を与えるなどありえないと。
だがわたしはこれこそがローザリオンの家に生まれた意味なのだと知った。
神はわたしに勇者を支えよと仰せなのだ。
ガーランドに縁あるものに啓示を与えたのも贖罪の機会を与えてくださったのだと感謝した。
今世代の勇者であるユーマに尽くすことが償いになるのだろう。
「神よ、感謝します」
名もなき魔法を失った魔法使いは二人の友の面影に涙した。
第一転生者発見(笑)
というわけでリオネル氏は勇者崇拝しております。
転生ってこういう使い方もありだよね。