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許されざるもの

 勇真と麻里の衣装(制服)がこの世界の文化にあっていないということと、帰るときまでの保護のためナイジェルとフィニアが提供してくれた古着に着替えた。

「では、この衣装は保管しておきます。荷物の方はどうしましょう?」

「痛むもの以外は保管してください。もって帰りますから」

「痛むもの? 何があった?」

 大人しいワンピースに着替えた麻里がごそごそとかばんをあさると菓子パンやらチョコレートやら食料が出てきた。

「……なぜ、そんなものが……」

 寄り道はしていなかったはずだ。

「え? 女の子の必需品でしょ? あ、お弁当箱あったら出して。洗っておかないと匂いがつくわよ。水筒は?」

「今日は購買を利用した。水筒はからだ」

 買いこんだ食糧は部活後に腹の中だ。水筒の中身も綺麗に片付けた。

「これが異世界の水筒すか?……なんでできているんすか? 植物じゃなさそうすけど……」

「……たぶん、こっちの世界にはまだ無いものだ。って、ペットボトルまであるのか?」

「家で飲むつもりだったの」

「まあ、ガラスではありませんよね? 軽くて柔らかいのに、向こうが透けて見えますわ」

 フィニアがペットボトルやビニールに驚いていた。

「たぶん、こっちの世界には無いものだ」

 持ち物を持っていくものと保管するものに仕分けた。

「まず、ここいらの領主様の所へ行くッすよ。領主様には話が通してあるもんで、旅の支援をしてくれるっす。そのときマリ様のことも頼んでおくっす」

 王がいなくなったとはいえ、貴族はかろうじて残っていて各地を治めているのだそうだ。

「どのくらいかかるんだ?」

「馬で半日ぐらいっすよ。今から出れば日が暮れる前には――」

「馬にのったことがないんだが」

 ナイジェルが少し考えるように天井を見上げた。どうやらこの国では馬で移動するのが主流のようだった。

 通行手段が馬だとすれば、馬術の心得の無い勇真は困る。

「馬車ってゆーか、荷車に幌ついてるぐらいのやつすっけど、それならどうっすか?」

「頼む」

「ユーマ様の世界ではどうなさっているのでしょう?」

「フィニアさん、わたし達の国では生き物に乗って移動することって少ないのよ。車両って言ってね、車――車輪のついた乗り物が主流」

「馬車のように生き物にひかせた乗り物が主流なんですね」

「ちょっと違うわ。自転車というか……仕掛けで自分でこいだり、機械で動かしたりするものが普通だったから」


 ナイジェルとフィニアが暮らしていた村のあたりは公爵家の領地なのだそうだ。

 王退位後、次の王位を巡って見苦しい押し付け合いが起きた。唯一王の直系であった姫君は老婆と成り果てていた。その伴侶になろうというものはなく、王家の流れをくむ公爵家から出そうにも、神の怒りを恐れた人々は王位を固辞した。

 なり手がなく王位は現在も空位のまま、議会と貴族がかろうじて国らしき治安を維持しているにすぎない。

 皮肉なことに各国が祟りのとばっちりを恐れ侵略をしないことによる平安だった。

 神の怒りは解けずいまだ国に魔法は戻らない。他国から来たものは使えるが、この国で生まれたものは魔法が使えない。

「あなた様が今生の勇者様ですか。わたくしはリオネル・オグ・ローザリオンと申します」

 女性と見紛うばかりの美貌の主が跪いた。本物の金のような髪にサファイアのような瞳。繊細な顔立ちは芸術品のようだった。

「我が君! そのような生まれも分からぬものに跪くなど!」

 控えていたいかにもごつい騎士が声を荒げた。

「黙りなさい。勇者に対して失礼があってはならない」

 ローザリオン公爵がきつく騎士をしかりつけた。

「しかし、そのものが勇者とはとても――そもそもスタンレイ家のものの言うことなど信用できません!」

 騎士の言葉にナイジェルが青ざめたが、唇をかむだけで何も言わなかった。

「黙れ。それができぬのなら、部屋から出て行くがいい」

「我が君――……申し訳ありませんでした」

 騎士が黙るとやっとナイジェルが口を開いた。

「こちらが今生の勇者であらせられるキヨカワユーマ様っす。キヨカワというのが家名だそうっす。ユーマ様、こちらが支援してくださるリオネル・オグ・ローザリオン公爵様っす」

「清川勇真です」

 勇真は頭を下げた。

「キヨカワ殿はいずこの生まれでしょうか? 言葉が通じるということはこの大陸の生まれだとは思うですが、家名を最初につける名乗りをしている国は覚えが無いのですが」

「そこ、そこが問題なんす! 驚くことにユーマ様は異なる世界からいらしたんでありますっす!」

「は?」

 公爵は目を丸くした。

「こことは全然違うところから召喚されたんでありますっす」

「…………ナイジェル君、無理に丁寧な言葉を使おうとしなくてもいい。しゃべりやすい口調でよいよ」

「ですから~」

「生まれは日本という国だ。だが、こことは別の世界にある国だな」

 今度こそ公爵が絶句した。

「本当なんすよ。それでこっちに呼ばせたんすね。色々きいたんすけど、こことは別の世界としか思えないところっすよ」

「…………なんとまあ…………」

 公爵は頭を抱えた。

「貴様ら! そんなばかげた話を誰が信じると! 我が君、こやつら騙りでございます! 今すぐ放り出しましょう」

「わたしは黙れと言ったぞ、サムソン」

 公爵がきつく睨むと今にも二人につかみかかりそうだった騎士は凍りついたように動きを止めた。

「わたしの騎士が失礼なことを申しました。お許しください」

 公爵は優雅に頭を下げた。

「いや、にわかには信じられないのも無理は無い。むしろ信じてもらえる方が不思議だ」

「信じますよ。彼が我々を騙して得をすることなどありませんから。むしろ、スタンレイ家のものであることを告白したからそこ、信じられます」

 視線で問いかけると公爵は困ったように笑った。

「彼の生家は虐げられています。このサムソンの態度からも分かると思いますが――勇者殺しの話は聞きましたか?」

「おおよそは」

「勇者を手にかけたとして『裏切り騎士』――スタンレイ家のものは非難をうけ、迫害されております。家名を出すことさえ憚られ、家名を隠して平民として生きているのです。そのものがわざわざ名を明かし求めてきたからには真実なのでしょう。「勇者を召喚し最後まで仕えよ」という神託を受けたということは」

 公爵は暗い顔をした。

「本来ならば非難も罵倒も我々が受けなければならなかったことです」

「我が君!」

 公爵はゆるく頭を振った。

「知っていますか? ガーランド・スタンレイは家族の命を質にとられていたのです」

「それは…………」

「王の命を聞かなければ一族郎党皆殺しだと脅されていたのですよ。ガーランド・スタンレイは家族と勇者の命を秤にかけた。しかしそれはその選択を迫った王に非があると思いませんか? ――そして王の耳に勇者の讒言吹き込んだのは我が先祖です」

 勇真は言葉を失った。

「讒言を吹き込んだのは一人二人ではなく、王も勇者の人望に不安を覚えた。そして、魔術師や神官に根回しをし、勇者殺害の邪魔をしないよう言い渡し――魔術師と神官はそれを承諾した。それでも非はガーランドだけにあったと思いますか?」

「国の上層部すべての総意だったということか?」

「そうです。それゆえ神は我が国から加護を取り上げた。そして罰せられるべきものが罰せられないから我が国はいまだ神から許されていないのですよ」

 公爵は怨嗟の声を上げた。

「我が祖先――その場にいた者達すべて――は『勇者を殺した咎』を王家とガーランドに押し付けました。真っ先に彼らを非難することで自分が非難されることを逃れたのです。なおかつ神の怒りを恐れて王位をも拒否し、すべての罪を償うことすらしなかった。我が祖先――その場にいた王侯貴族、兵士、すべての者こそ自らの罪から逃げた卑怯で卑劣な咎人なのです」

 自分の血筋こそ貶められるべき卑怯者の血筋だと公爵は吐きすてた。その怒りは静かで真摯で深刻なものだ。

「今生の勇者様、あなた様の旅は我々の贖罪の旅でもございます。わたくしは全力を持ってあなた様を支えましょう」

「あなたの覚悟はよく分かりました。よろしくお願いします」

 勇真は公爵の支援を受け取ることにした。それが彼らの贖罪になるというのなら、断るほうがよくない。

「まずは武具や着替え旅に必要な物資を揃えさせましょう。しばらくお待ちください。その間館に滞在ください。本来なら手勢もつけるところですが――加護を持たない我が国の人間はものの役に立ちません。まずは隣国へいかれ神殿で『勇者』として認定され、手勢を集めるべきかと」

 そこで公爵はナイジェルに視線を移した。

「わたしとしては、君は他国へ行くべきではないと思うのだが――」

「神託っす。勇者様に最後まで仕えますっすよ」

「しかし――素性がばれれば君の命が危うい」

 ぎょっとして勇真はナイジェルをみた。他国で素性が知られることが命取りになるほどのことだとは知らなかった。

「家名は名乗らないっすよ。ただのナイジェルで通しますっす。ただの加護を持たない男は珍しくもないっす」

「――覚悟があるのなら何も言うまい。けれど、くれぐれも素性は隠したまえよ。最悪『勇者殺しの国』出身というところまでならなんとかなるが、スタンレイ家のものだということが知れれば――」

「分かっているっす。勇者様の旅すら支障が出るかもしれないっす。全力で隠しますっす。最悪のときは自害するっす」

「ナイジェル――」

「ユーマ様、全部覚悟のうえっすよ。気にしないでいいっす。ご迷惑はかけないっすよ」

 ナイジェルの決心は固いようだった。

「それから、ユーマ様の召喚に巻き込まれた人がいるっす。フィニアさんとこの教会に預けてきたんでそちらの方にも支援をお願いできるっすか?」

「もちろんです」

長かったんで二つに分けることにしました。

リオネルがなんか先祖のことを悪し様に罵っているのには深いわけがあります。それについては次回。

パソコン壊れなければ続けて更新……できればいいなぁ……(遠い目)

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