前代未聞の召喚
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眩い光が消え去った。勇真は硬く目を閉じ麻里をかばうように抱きしめていた。
「うわっ! マジっすか! マジに召喚しちまったんすか?」
間抜けな声に勇真が目を開けると床にへたり込んだ――床?――赤毛の少年がいた。大きな目はみどりで薄くそばかすがちっている。
服装が――長袖の布のシャツとズボンにチョッキ。現代日本の服装というよりRPGなどで出てくる中世のような格好だ。
「え?」
自分達はアスファルト舗装された道を歩いていたはずなのに、室内にいるとはどういうことなのだろうか?――それに――いま少年が口走った言葉は日本語ではなかったのに、勇真にはしっかり意味が分かった。
回りは時代かかった建物で大きなホールのような場所だった。祭壇――のように勇真には思われた。腰を抜かした少年の後ろに頭からすっぽりと大きな布(?)のようなものをかぶった小柄な人影がある。
答えは意外なところから与えられた。
「これ――まさか異世界召喚?」
ふるふると麻里が感動に打ち震えていた。
「麻里? なにか心当たりがあるのか?」
「異世界召喚、勇者召喚よ! 勇真知らないの? ネット小説での定番よ!」
興奮した様子の麻里が畳み掛ける。
「……すまん、知らん。というか、麻里、常日頃なにを読んでいるんだ?」
麻里はふいっと視線を外し、沈鬱な声で呟いた。
「……………勇真…………女の子にはね、いろいろと秘密があるのよ……」
その間はなんだ?
なにを読んでいるんだ?
勇真の頭の中は疑問で一杯だった。
「すみません、勇者様」
「というか、異世界召喚とか、勇者召喚ってなんだ?」
「そこからなの? つまりね、世界はひとつではなく、私達の世界とはまったく違う世界があるのよ」
「平行世界というやつか?」
「勇者様~」
「まあ、似たようなものね。それで魔法や神様の力というものがある世界があって、様々な理由で『勇者』として現代の人間を召喚しちゃうの! 呼ばれた人間は超人的な力を手に入れたチートになるの。召喚するものがいない場合は異世界トリップっていうのよ」
「口を挟んでもよろしいでしょうか? 勇者様~」
勇真は首をひねった。
「様々な理由とは?」
「一番オーソドックスなのは魔王が現れたとか」
「勇者様ぁぁああああ!」
つい聞き落としていたが、赤毛の少年が必死に話を聞いてもらおうとしていた。
「……すまないが、勇者とは誰だ?」
そこで勇真は驚いた。自分が日本語ではない言葉をしゃべったからだ。
「えっと……あなたのことかと」
「そうね、あの光は勇真にたかっていたんだから、勇真が本命でしょうね」
麻里も少年が話す言葉をしゃべっていた。
「日本語じゃない言葉を使っているぞ」
「これが異世界補正なのね~」
「……なんだそれは?」
「だから、いつの間にか異世界の言葉を理解できたりしゃべれたりする能力よ」
「……それも小説か?」
「そうよ、定番よ!」
「…………」
瞳をきらきらさせている麻里に「定番もなにも、それは小説だろう。現実を見ろ」と言ってやりたい勇真だったが――現実にこうなっているので何も言えなかった。
「あの~」
再びうっかり置いてけぼりにした少年が声をかけてきたので、その存在をいまさらながら思い出した勇真は話を聞くことにした。
「すまない。なんだ?」
少年は改めて平伏した。
「突然のことで驚いたと思いますが、あなたは神により当代の勇者と定められましたっす。不肖わたくしナイジェル…………スタンレイが……神託による指示により召喚した次第であります。わたくしはこれよりあなた様の従者となり働かせていただきます」
勇者確定らしい。
「ほらほらほらほら、言ったじゃない。勇者よ、勇者」
嬉しそうに麻里がいう。
「……勇者というのは毎回召喚されるものなのか?」
ナイジェルが首を振った。
「いえ、知っての通り普通は神託があって、神託が下された神官が指定された場所まで赴き認定するものなのですが、今回はなぜかこのような仕儀とあいなりましたっす。えっと――言葉が通じるんで大陸の生まれだと思うんすが、勇者様はどこの生まれなんすか?」
勇真は麻里と顔を見合わせた。
「普通じゃないらしいぞ」
「というか、異世界召喚したって自覚すらないみたい」
少なくとも元いた世界では勇者認定というのはない。それが普通に行われていて常識ならば――そんなものは知らない。
「……えっと、ナイジェルさん? わたし達大陸の生まれじゃないわ。日本という島国を知っている?」
「いえ、知りません」
「じゃあ、アメリカ――USAは?」
「いえ、知りません」
二人は確信した。
「ナイジェルさん、わたし達大陸の生まれじゃないわ。それどころか、この世界の人間じゃないのよ」
「はぇ?」
ナイジェルが唖然とし――後ろにいた人物を振り返る。
「どういうことっすか?」
「わ、わたくしにも、なにがなにやら……」
どうやらもう一人は若い女性のようだった。
「わたし達はこことは別の世界で生まれ育ったのよ。わたし達の世界はこことは別の文明があって――わたし達の世界では日本、ましてアメリカ――USAを知らないなんてありえないもの」
「ニホンとかユウエスエイっなんか知らないっすよ。なんすか、それは」
「国の名前よ。とくにUSAことアメリカは国際的にリーダーシップを持っている国じゃない」
「…………フロシテアって知ってますか?」
しばらく呆然としていたナイジェルが聞いた。
「知らん」
勇真が答える。
「シーセリア神聖国は?」
「聞いたこともないな」
「うわああぁぁあ、それで召喚させたんすか! 異世界から来た勇者様なんて前代未聞っすよ!」
ナイジェルが頭を抱えてうなった。
「ど、どうしましょう?」
「どうもこうも、神託なんすよ。逆らえないっすよ。お願いしてお仕えするしかっっ!」
こちらの世界でも“異世界召喚”は前代未聞だったらしい。麻里はいちおう聞いてみた。
「ナイジェルさん、知らなかったんですか?」
「知らなかったすよ、魔法陣の書式を頭ン中に送られてこれで勇者を呼べって言われたんす。まさか異世界から呼ぶものだなんて……呼べるかどうかもあやふやだったんすよ」
「俺達は帰れるのか?」
勇真が一番気になっていたことを聞いた。
「……すんません。分からないっす。神様が呼べって言ったんで、たぶん、ことがすんだら送還の陣を作るように言われるんじゃないかとは思うんすけど」
「…………神のみぞ知る……か……俺になにをやらせたいんだ?」
「そこからっすか~」
ナイジェルが煩悶していた。
「あの、長い話になると思いますので、場所を変えませんか?」
フードを深くかぶったままの女性が言った。
勇真と麻里は祭壇に、ナイジェルは床に座ったままだったのだ。
「とりあえず椅子とお茶を用意いたしますので」
定番のようで定番じゃない、邪道のようで邪道じゃない、そんなものを書けたらいいなあ……




