勇者殺しの国
昔々この世に魔王が現れました。神は勇者をつかわし、勇者は魔王を倒しました。
けれども勇者は恋人のいる故郷に帰ることができませんでした。
勇者の幼馴染みで恋人だった村娘は泣き崩れ――村娘の前に神が現れました。
村娘は神に頼みました。どうかあの人のところに連れていって下さいと――そして娘の姿はまばゆい光に包まれ――光が消えたあとには娘も神も消えていました。
神から勇者と選ばれた青年は満身創痍だった。大きく切り裂かれた腹からは大量に血が流れている。もはや立つこともできず床に倒れていた。
これは死ぬな、と勇者は考えた。目の前には青ざめた剣を構えた騎士。ともに魔王と戦い一時は『友』とも呼んだ――だが殺害の意思は変わりそうもない。
目を転じれば涙で顔をぐしゃぐしゃにした可憐な姫君。
「あなたが悪いのですわ! なぜ、わたくしではだめですの!」
決まっている――愛しい人が別にいるからだ――それは言葉になったかどうか――
「勇者よ、残念だ。娘をめとるならば、そなたは国にとって有益な存在になっただろう。だが、そうでなければ争乱の元になるだろう。王よりも尊敬を集めるものが国内にいてはいつか国を二つに割る」
――王よ、わたしはただ愛しい人とともに平穏に暮らしたかっただけだ――ああ、マリエッタ――すまない。約束は果たせそうもない。
「マリ……エ……」
勇者は苦しい息のした恋人の名を口にした。
「すまない、テオ……王の命なのだ……」
騎士は勇者に止めをさすべく剣を振り上げ――雷にうたれた。
室内にいながら雷にうたれる不思議にその場にいたものが驚愕している間に、いつの間にか白い衣装を纏った美しい男が勇者の骸を見おろしていた。
「人の子よ、これが世界を救った勇者に対する仕打ちか?」
男がそう言ったとたん、姫君の姿が変わり始めた。
美しい金髪は色が抜け白髪に。なめらかな肌はみるみるシワだらけにやせ衰え――腰が曲がった。
「いやあぁぁあああ!」
うら若い姫君はみる間に醜い老婆に成り果てた。
神官が跪いた。
「か、神よ! 我が神よ! お許しください! 我々は愚かなことを」
神官達は男が纏う神気に真実に気がついた。目の前にいるのは勇者をつかわした神なのだと。
これは神に愛された勇者を亡きものにした天罰なのだと。
愚かな権力者達はひれ伏した。
「神よ! 我々が愚かでした! どうか、どうかお許しください! 娘を元に戻してください! 娘はまだ16、これはあまりにも酷すぎます。罰ならばわしが代わりに――」
「これはそなたに対する罰でもある。もはや取り返しがつかぬ。汝らにかける慈悲はない」
神がまばゆい光を放った。目が眩んだ人々が気がついた時には勇者の骸も神も消えていた。
勇者は魔王を倒しました。そしてお城帰ってきました。
王様は喜んでお姫様を勇者のお嫁さんにすると言いました。
けれども勇者には恋人がいましたので、断りました。
王様は怒って勇者を殺してしまいました。
すると神様が怒って、お姫様を老婆にしてしまいました。
王様は神様に謝りましたが、許してもらえませんでした。
王様はお姫様を元に戻そうとしましたが、神様を怒らせた天罰はそれだけではありませんでした。
国中の人達が魔法を使えなくなっていたのです。
お姫様は元に戻れませんでした。
神様のつかわした勇者を殺してしまった国は『勇者殺しの国』『神に見放された国』と外の国々に蔑まれ、滅びてしまいました。
家族になんの予備知識も無しに読んでもらったら先をズバズバ言い当てられました(ノ>д<)ノ
もしかしてみえみえの展開なのでしょうか(ρ_―)o凹む