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ドンッドンッ
ドンドンドンッ
「煩いッ!!」
叫んで私は布団を頭からすっぽりと被った。叫んだ所で上に聞こえるとは思っていなかったが、そうでもしないと何かが爆発してしまいそうだった。
帰宅して直ぐに上からの音が騒がしくなった。初めは我慢していた。耳を塞いだり、テレビのボリュームを上げたり、自分なりに気を紛らわそうと努めた。
たが、駄目だった。
もう、青年の部屋まで行って抗議する気にはなれなかった。覗き穴からあのじっとりとした目で見られるかと思うと、それだけで背筋が凍る。
昨日の様に掃除用具で反撃する気も起きなかった。意味を成さないと解ってしまったからだ。
ドンドンッ
「煩い!煩い煩い!!」
泣きたくなってくる。頭の中をぎゅっと掴まれて居る様な、痛みを伴わない不快感。眉間に皺を寄せながら、両耳を布団で強く押さえる。
それでも否応なしに脳髄に響く様な、音。騒音。雑音。
ドンドンドンドンドンッ
このままだと、私はどうかなってしまう。狂ってしまう。狂ってしまう!狂ってしまう!!
段々と呼吸が荒くなる。息苦しい。鼓動も激しくなり、体内からも私の頭の中を打ち付ける。
ドクンドクン
ドンドンッ
最早私の心臓の音なのか、上から響いてくる音なのか、判別がつかない。
ドクンドンドクンドン──
私は掃除用具の棒を持って立っていた。目の前には見慣れた扉がある。アパートの扉は全て同じ色で同じ造りになっているから当然だ。
思い切り腕を振り上げる。そして、勢い良く振り下ろした。
ガンッ
一回。
ガンッ
二回。
ガンッ
三回。
中からは何の反応も無い。それが更に私を苛立たせた。
何故、なぜ。
私ばかりがこんなにストレスを感じなければならないの。
ガンッ
私は何もしていない。それなのに、何でそんな目で見るの!
ガンッ
元来、物を殴り付ける為に作られた物ではないそれは、五度目の衝撃に耐えられず、バキッと音を立てて折れた。
それでも私は叩くのを辞めない。道具を使えないのであれば、素手だって良い。扉を壊すつもりはない。
相手に騒音を、私の苦しみを与える事が出来れば、それで、良い。
ドンドンドンドンドンドンッ
連続して叩く。殴り付ける様に。
手が痛くなろうが、関係無い。赤く腫れようが関係無い。手首が折れようが関係無い。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
私は、叩き続けた。




