表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騒音  作者: 活動停止
2/5

 次にその青年が現れたのは、私がバイトを上がるのとほぼ同時だった。

青年が入ってくるのを目の端に止め、レジを次のバイトに任せてロッカールームへと入る。やはりあの青年だ。

灰色のスエットに黒ぶち眼鏡というお決まりのスタイル。

 前回は午前2時だった。今回は午前5時。彼もまた、昼夜逆転の生活がをしているのだろうか。


「お先に失礼します」


 店長とバイトに声を掛けて外へ出ると、あの青年がふらふらと前方を歩いているのが見えた。

その足取りはゆっくりとしたもので、私が向かう先と同じ方向だった。

 彼を追い越すのは簡単だったが、それは躊躇われた。彼の前に出て、あの視線を浴びるのが堪らなく嫌だったからだ。

 私は仕方なく歩調を弱め、追い越さない様に努めると、必然的に彼の後をつける格好となってしまった。


「え…」


 私は思わず小さく声を上げた。

 私のアパートはバイト先から徒歩10分程度。そのアパートに、青年は躊躇なく入って行ったのである。

 同じアパートの住人だったのか。

 私は今度は意図的に後をつける様に彼の背後を見守った。

 アパートは3階立てで、エレベーターはなく階段のみである。青年はカンカンと階段を上り、3階で止まり、右方向へと向かった。そして鍵を開ける音がし、パタンと扉が閉じられた。


「私の真上…」


 なんと、音の主はあの青年だったのか。

 私は腹立たしさを覚えた。

文句の一つでも言ってやろうか。

 私は3階まで上がると、青年の部屋の前に立った。インターフォンを押す。ピンポンという音が中で鳴るのが聞こえた。

 青年が出てきたら何と言ってやろうか。煩いといきなり言うのも失礼だろうか。やんわりと諭してやるのが良いだろうか。

 青年が顔を出した時のシュミレートを頭の中で行う。だがなかなか青年は出て来なかった。先程帰って来たのを見ているのだがら、確実に室内には居る筈である。にも係わらず、青年が出てくる気配は全くない。


「何よ…居留守…?」


 無性に腹が立った。もう一度インターフォンを押してみたが、結果は同じだった。


 私は諦めて自室へと戻る事にした。何度インターフォンを押しても結果は同じだと思ったからだ。

 騒音に居留守。あんな迷惑で失礼な奴が上に住んでいたなんて。腹立たしい。

 私は部屋に戻ると、肩から掛けていたバッグを勢い良くベッドへ叩き付けた。それでストレスが解消される訳ではなかったが、どうも苛々が治まらない。

 明日、もう一度苦情を言いに言ってやろう。

そう考えて溜め息を吐いた時だった。


 ドンッ


 ドンッドンッ


 バッと音がした方へ顔を向ける。私の真上だ。間違いない。 私は掃除用具入れから床掃除用の取っての付いた棒を持ち出した。


 ドンッ


 響いたのは内側からだ。私は掃除用の棒で思い切り天井を突き上げた。

 パラパラと天井の埃と塗装が微かに舞う。

 上手く上に響いただろうか。


 ドンッ


 私はもう一度天井を突き上げた。

 私が味わった苦しみを、彼も味わえば良いんだ。


 ドンッドンッ


 今度は二度続けて突き上げた。

 暫く上から音が聞こえて来ない事を確認すると、やっと私はその棒を離した。

 少し、すっきりした。

 私は久しぶりであろう笑みを口元に携えた。


 次の日、目が覚めると爽やかな気分だった。うんと両手を上げて身体を伸ばす。

 最初からこうしてれば良かったんだわ。

 私は昨日の小さな『報復』を手伝ってくれた掃除用具を誇らしげに見つめた。普段は埃を取ってくれるだけの掃除用具。だけれど、時には魔法の道具となる。報復を手伝ってくれる道具へと。


 さて、今日もバイトだ。

 私はいつもの様にシャワーを浴びてバイトに向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ