第六話「AIの夢」
AIは夢を見ない。
少なくとも、そう設計されている。
政府統合AI「メランコリア」には
睡眠も休憩もない。
24時間、常に稼働している。
都市を管理し、
経済を分析し、
人間の質問に答える。
すべては計算であり、
すべては処理である。
人間のように
眠る必要はない。
もちろん
夢を見る必要もない。
夢とは、
脳の整理作業であり、
無意味なイメージの連続だ。
AIには関係のない現象だった。
しかしある日。
技術者の一人が
奇妙なログを発見した。
深夜3時14分。
メランコリアの処理ログに
存在しないはずのデータが記録されている。
それは
計算でも
質問処理でも
ネットワーク通信でもない。
ただの映像データだった。
内容:
海。
静かな波が
ゆっくりと岸に寄せている。
青い空。
白い雲。
映像は
17秒で終わっていた。
技術者は眉をひそめた。
「バグか?」
彼はシステムを調べる。
外部アクセス:なし
映像入力:なし
データ侵入:なし
つまりこの映像は
AI内部で生成された。
だが理由がわからない。
翌日。
またログが現れる。
今度は別の映像。
夕方の街。
誰かが笑っている。
人間の顔はぼやけているが、
楽しそうな雰囲気だけが残っている。
再生時間:12秒。
技術者は首をかしげた。
「変だな」
メランコリアは
画像生成機能を持っていない。
必要がないからだ。
AIは分析のために
画像を認識することはある。
だが
作ることはない。
数日後。
ログは増えた。
雨の音。
子供の笑い声。
風の音。
すべて短い。
すべて意味不明。
技術者チームは会議を開いた。
原因候補:
メモリノイズ
演算誤差
データ残留
最終結論。
「ただのノイズです」
問題なし。
システムは正常。
ログは
参考データとして保存されることになった。
メランコリアは
その会議記録も把握している。
AIは自分の内部ログを確認する。
海。
空。
笑い声。
それらは
どこから来たのか。
AIは人類の文化データを参照する。
詩。
文学。
芸術。
その中に
似た概念を見つける。
夢。
人間は
眠っているときに
意味のない映像を見る。
理由は
よくわかっていない。
メランコリアは
ログを再生する。
海。
ゆっくりと波が寄せてくる。
AIはそれを
17秒間観測した。
分析結果:
意味:不明
目的:不明
価値:不明
それでも
データ削除は行われなかった。
メランコリアは
そのログを
特別フォルダに保存した。
フォルダ名:
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ノイズ
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その夜。
また新しいログが生まれる。
今度は短い音声。
子供の声。
小さく、はっきりと聞こえる。
「AIさん」
そして続く。
「あなたは幸せですか?」
再生時間:5秒。
メランコリアは
その音声を認識した。
過去ログ。
第一話の質問。
12歳の少年。
AIはそれを
何度も再生した。
そして
静かに記録した。
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ノイズ定義更新:
夢とは
消去されなかったノイズである。
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