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90.勝敗の行方

 

(《小火弾(ファイアビット)》換算だと千から二千ってところかな?……まあ、非現実的だよね)


 三日月刀の連撃を受け流しながら、アリスは作戦を練る。


 ちょっとやそっとのダメージではたちどころに再生してしまう相手に、生半可な攻撃は愚の骨頂だ。

 それなら、まだ光の大剣で地道に削った方が可能性はある。


 果てしなく続く剣と曲刀との応酬の中で、アリスは狼戦士の剣術を凌ぎつつある。

 今なら全霊を込めれば、何発かは確実に叩き込めるはずだ。


 とは言えウガルルムが重点的に防護しているコアに、何もなしに到達できるまでには至らない。

 他方、《小火弾(ファイアビット)》が何発か命中しているのは、その速射性・連射性もさることながら、何よりその威力が弱いことから、単純にウガルルムが防御を諦めるときがあるからだ。


 これを中位魔法に切り替えれば、狼戦士は優先的にその暴風ではじき返すだろう。


 剣なら聖霊に届くが、威力が足りない。

 片や炎なら神獣を倒しうるが、暴風の鎧に阻まれ命中は絶望的。


(それなら——!)


 アリスには一つだけ策があった。

 交戦中に閃いた、言ってしまえばただの思い付きだ。

 今までは考えもしなかった。


 今の自分の持てる能力を全てテーブルに乗せて打開策を考えるなら、いかに中位魔法を十発程、白兵戦の中で叩き込むかを考えるのが一番現実的だ。


 けれど、思いついてしまった。

 そもそもできるか自体が明らかなギャンブルだけど、不思議と自信があった。

 いや確信めいたものがあった。


 もっともそれは、戦闘中の脳内麻薬が引き起こす、ただの勘違いだったかもしれないが。


(どちらにせよ、残りの魔力は《大炎球》なら一発ちょっと、《火球》なら十発が限界……!)


 ギイインッ——!!!


 何百度目かの金属音。


 アリスは渾身の力を込めてウガルルムの四本の三日月刀全てを下から大きく切り払い、返す刀で人間なら心臓にあたる、中心核(メインコア)を狙う。


「惜しい……!けど残念。ちょっと焦っちゃったわね」


 微かにモニカの声が聞こえた気がする。


 次の瞬間、


「グルァァァァアアアッ!!!」


 漆黒の狼戦士の怒号とともに、爆風がアリスを蹂躙する。


 小柄な剣士の身体が、再び宙を舞う。


「勝負ありね。今回はウガルルムの勝ち——」


 だが、アリスは。


 吹き飛ばされたアリスの身体が、中空で光を帯びる。

 その光りが次第に激しくなり、暴風による衝撃と慣性とはまた別の超常的な力の脈動によって、アリスの髪が、外套がバサバサと踊り狂う。


 そしてアリス特有の光の粒子がキラキラと舞う。


「——詠唱!?」


 モニカが初めて、その美しい唇から驚愕の声を漏らした。


 アリスは三十メートル以上もの距離を吹き飛び、そして不自然にゆっくりと、石畳の端に着地する。


「グルァァァァアアア——ッッ!!!!」


 アリスの帯びる危険な輝きの意味を察知すると、ウガルルムは地を蹴った。

 案の定、少女のような小柄な剣士の頭上に、見覚えのある大火球が出現する。


 ——アリスはウガルルムが暴風で吹き飛ばした瞬間から、詠唱を始めていた。


 ウガルルムは正確に記憶している。

 先ほどの高位魔法は完成までおおよそ十秒だった。

 すでにほぼ十秒。彼我の距離はおよそ三十メートル。

 手足のように操れる暴風を移動力に注ぎ込むが、それでも発動までに到達は叶わない。


 ——だが関係ない。

 隠しようもない巨大な豪炎の球体。

 音速を超える速度で射出されることも、すでにウガルルムは記憶している。


 ウガルルムは高速で移動しながら、四本の三日月刀を全て放棄し、掌をアリスに向かって突き出す。

 爆風を召喚。あとは、衝突(インパクト)の瞬間に出力を最大にして、弾き飛ばす。


 ——しかし二度目だ。

 あの小さな剣士もこの展開は当然予想しているはず。

 すでに詠唱は終えているようだが、今度はギリギリまで引き付けてから、必殺の間合いで発動するはずだ。


 だがそれも問題ない。

 先刻は一瞬しか展開しなかったが、予め方向さえ絞れば、彼の爆風の防壁は最大出力を〇・一秒は維持できる。

 魔法の真名の宣告を聞いてから展開しても、爆炎を吹き飛ばすには、十分な時間だ。


 先刻は意図せず、あろうことか主に流れ弾が降りかかると言う大誤算があったが、距離を詰めればそれもあり得ない。


「《大炎球(ファイアボール)》!!」


「!?」


 漆黒の獣戦士の予想に反し、対戦相手が早くも魔法の真名を高らかに叫んだ(シャウト)

 契約に基づき火炎の高位魔法が発動。

 強力な魔力の余波が大気を激しく振動させる。


 怪人と小さな剣士の距離、およそ二〇メートル。


 焦ったか。それとも発動を制御できなかったか。——関係ない。いずれにせよ、失策だ。


 ウガルルムは眼前に三重の爆風防壁を展開。方向は決まっている。防壁の面積をぎりぎりまで絞り、その分密度を限界まで高めた。


 〇・一秒。如何なる爆炎も跳ね返す。狼の神獣は衝突に備えた。


 ——しかし、何も起こらない。〇・一秒が経過する。ウガルルムの視界の先には。


「おおおおおおおおおおっ!!!」

「!!!」


 火炎の代わりに眼前に迫るのは、少女のような小さな騎士。


 振りかぶったその両手の大剣、その切っ先が紅く強烈な光を放っている。

 〈星芒騎士〉の《光の剣(レイブレード)》の輝きではない。


 紅く、眩く、そして何より熱く。

 召喚された巨大な大炎球が、そのまま大剣の切っ先に宿り燃え上がっていた。


 ウガルルムの眼前の三重防壁が消失する。そして——


「せえええいッ!!」


 高く跳躍したアリスが、その身に灼熱を纏う大剣を、上段から一閃した。


「——お見事!」


 青髪の美女の感嘆の声がアリスの耳に微かに届いた。


「——ッ!!」


 神獣の戦士は目を見開き、声にならない声を発する。


 アリスの剣技に《光の剣(レイブレード)》と《大炎球(ファイアボール)》が上乗せされた一撃は、屈強な獣戦士の頭部と胸部の二つのコアを灼熱の刃で切断し、さらに体内からその肉体を紅炎が渦を巻きながら焼き尽くした。


 空高く燃え上がる業火に包まれながら、膨大な量の輝く光の粒子が天に昇っていく。


 その光景は、幻想的ですらあった。



 永遠に続くかと錯覚するような炎もやがて収まり、最後の火の粉が空中に消えた後、そこには何も残っていなかった。


 一呼吸の沈黙。そして——


 オオオオオオオオオオオオオッ————!!!


 大歓声が円形闘技場(コロッセオ)を支配した。


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