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84.聖霊の攻略方法

 ——ガンッ!


 迫りくる四本の三日月刀を躱し、受け流し、受け止め、はじき返してから、アリスは渾身の力を込めて、クレイモアの刀身の腹の部分で漆黒の狼戦士の顔を強打する。


 側頭部から光の粒子がパラパラと立ち上るが、ウガルルムは気に留めた様子もなく、三日月刀(シミター)を繰り出す。


「!」


 咄嗟に《光弾(エナジーボルト)》を放つと同時に跳び退り、三日月刀の切っ先を辛うじて躱す。


 魔力で生成された光の弾丸は漆黒の怪人の腹部に命中するが、これもごくわずかな光の粒子を生み出すだけで、やはりウガルルムの動きを止めるには至らない。


(やっぱダメか)


 加えた斬撃があっという間に回復してしまうのを目の当たりにし、アリスは面での攻撃に切り替えてみたものの、そもそもの破壊力に差があり過ぎて、どうにも効果を期待できないことを身をもって知る。


(ただ、予想通り、回復はちょっと遅い)


 大剣で与えた深く大きな裂傷も五秒と待たずに完治したにもかかわらず、今のお粗末な打撃と《光弾(エナジーボルト)》により発生した光の煙——人間や動物で言うところの出血だろう——は十秒近く経った今でも空に向かってゆらゆらと立ち上っている。


 煙草の煙のように、ごくごく細い光条でしかないが。

 それもだんだんと消えて行く。


 斬撃より打撃のほうが再生に時間がかかる——という帰結は間違いなさそうだが、さりとて、アリスには、この強靭かつ頑強な神獣の肉体を粉砕するほどの打撃手段がない。


 異能を持たない彼の《光の剣》は、その破壊的な殺傷力は斬撃でしか発揮できない。


 ギィィンッ!!


 ゆっくりと観察する暇など与えられるわけもなく、アリスの矮躯に四本の三日月刀が迫る。

 その二つを大剣で弾き、残る二つを身を捻って躱しながら地を蹴って間合いを取る。

 追い縋る怪人に振り向きざま火炎魔法を放つ。

 アリスの掌から、拳大の火球が発射された。


 ビュワッ!!


 ウガルルムは火球に向かって二本の腕を突き出す。

 その両の手から突風が巻き起こり、アリスが生み出した火球を弾き飛ばした。


(またコレ!)


 アリスの放つ火炎魔法が神獣の生み出す風に弾かれたりかき消されたりするのは、試合開始直後から、もう何度も経験していることだ。


(魔法は全部防がれるし、光剣化した大剣でもあの程度か……効いてないことはなさそうだけど、このままだとこっちの限界のほうが早い)


 圧倒的な怪力と手数で攻め立てる聖霊の戦士に対し、細剣(レイピア)よりはまだ大剣(クレイモア)のほうが相性がいいのは変わらない。

 高速再生するとは言え、相手に与えるダメージも、大剣のほうがいくらかはマシなはずだ。


 と言っても、大剣の光剣化は魔力の消費が激しい。

 長時間は持たない。


「あなたにこの子はちょっと早すぎたかしら?」


「いえ、これがもし本物の戦場なら……敵はそんなこと、言ってくれませんし……!」


 迫りくる連撃を大剣でいなしながら、アリスは涼しい顔のモニカに答える。


「こんな強敵と手合わせできるなんて、こんな貴重な機会は滅多にない、というか……!」


 答えながら光る大剣を振るい、そして火球を放って距離をとる。


 神獣の戦士はもはや斬撃を躱すそぶりも見せず、上側の右腕に刻まれる裂傷を無視し、同時にまた突風を放って火球の軌道を逸らした。


「ふふ素敵。若いあなたには、全ての経験が糧になるってわけね。じゃあ、簡単に負けちゃわないように、頑張って」


「が、頑張ります……」


 ——まず、彼我の戦力差を正確に把握しなきゃ。

 アリスはもう一度相手を観察する。


 身長二メートルを超える漆黒の怪人。

 狼の顔に獅子のたてがみ、鷹の脚、そしてそれぞれに三日月刀を装備した四本の腕。

 胴はほぼ筋肉質な人間のそれ。


 基礎能力は?

 ——腕力は向こうが上。

 疾さはアリスが上、ただし攻撃の手数は四本の腕を持つ聖霊にやはり軍配が上がる。

 耐久力も、断然向こうが上だ。


 オーガーにも腕力で競り負けないアリスが、渾身の力を込めて叩きつけた鉄の塊——厳密には魔導銀の塊だが——でも、ほぼダメージを与えられていない。


 一方のアリスは聖霊の繰り出す三日月刀の直撃を一度でも受ければ致命傷で護符の加護発動(ゲームオーバー)にもなりかねない。


 そして生命力は——もはや比べるべくもない。


 アリスだって、騎士団の中では稀少な回復魔法の使い手だ。

 負傷しても自力で治療することができる。

 でもそれは時間があればの話だ。


 先ほどから放っている火炎魔法と違って、アリスの治癒魔法は詠唱に時間がかかる。

 発動後も集中の継続が不可欠で、しばらくは激しく動くことはできない。

 眼前の漆黒の戦士が、そんな余裕を与えてくれるとは思わないほうが良いだろう。


 そう考えると尚のこと、ウガルルムの超高速再生は、もはや反則と言ってもいいくらいだ。



「再生する相手と戦うのは初めてではないでしょう?」


「……トロールなら、あります!」


 とは言え、ウガルルムの再生速度はトロールをも凌駕している。


(——でも、『再生できる』という点では同じ?……そういえば、トロールってどう斃すんだっけ?)


 最強の妖魔とされるトロールでさえ、アリスはさして苦労せず力押しで叩き伏せることができる。

 策などなくても関係ない。

 が、ひとりで難なくトロールを討伐できる人間は一握りだ。


 もし、自分ではない誰かにトロール討伐を託さなければいけないとしたら?

 そう、例えば同時に複数のトロールが出現して、一方を自分、他方を他の兵たちに任せなくてはならないときは?


 トロール退治のセオリーは、まずは昼。

 太陽の下に引きずり出すのが最も簡単だ。

 妖魔の中でも特に陽光に弱いトロールは、快晴の日の日差しの下では一分と持たずに肌が焼けて岩のように硬質化し始め、三分で動けなくなり、五分もすれば絶命する。


 どうしても夜、妖魔の土俵で戦わなくてはならないときは、弱点を狙う。

 妖魔も人間とほぼ同じ位置に内臓があるが、トロールの場合、心臓と脳以外は臓器であっても再生する。

 しかもトロールの胴部の皮膚と分厚い脂肪は防御力・再生力共に最も高く、肉の壁を突破して心臓を穿つのは至難だ。


 よって、狙うべくは頭。

 その内部にある『脳』を破壊せよ、と訓練学校で教えられる。


 ——眼前の敵はどうだろう?


 まず、陽光は意味なし。

 すでに今も砂漠の都に建造された闘技場(アリーナ)には、初夏の容赦ない日光が降り注いでいる。

 当たり前だが、ウガルルムが日光を避ける素振りはない。

 そもそも相手は妖魔ではなく聖霊。


 むしろ『光に祝福されし子ら』であるはずのアリスのほうが、この炎天下での戦闘行動で身を焼かれ徐々に体力を奪われている始末だ。


 では弱点はどうだろう。


 そう、これが現実的かもしれない。

 と言っても相手は聖霊。たぶん人間や動物のような臓器はない。


 つい先ほど掻っ捌いた腹部は、人間で言うなら肝臓がある場所。

 だがやはりそこにあるべき臓器はなかった。

 これも当たり前と言えば当たり前だが。


(とすると、やっぱり(コア)を探すしかないか)


 『光に祝福されし子ら』や動物などの通常の生物と違って、疑似生命体やアンデッド、精神生命体などは多くの場合、『(コア)』を持つ。


 人で言うところの『心臓』、または『心臓』と『脳』の両方の役割を果たすものだ。

 もっとも、物理的な『心臓』や『脳』より概念的な意味合いが強いが。


 アリスの知識では、確か、精霊にも『(コア)』があるはず。



 そして『(コア)』の位置は大抵——


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