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1.厄災の子

「その子は忌み子。呪われた子だ」


 年老いた女の表情は固い。

 そのしわがれた声も暗く、重い。


 だがそこに含まれているのは憤りでもなければ侮蔑でも嫌悪でもない。


 ——悲哀と憐憫の響き。


「あんたには分かってるね?……アタシらの一族が、男の赤子を産むことの意味を」


「分かってるわ」


 老婆の向かいの椅子に腰かけた若い女はそう答えた。


 華奢な女だ。


 だが、身体のラインを隠すようなゆったりとしたローブの上からでもなお、腹部が大きく盛り上がっているのが分かる。


 妊娠しているのだ。それも、臨月だろう。


「でも私なら抑えられる。大丈夫よ」


 女はその腹を優しく撫でる。

 だが、老婆は複雑な表情で首を振った。


「他の一族なら、そうだろうさ。でもアタシらは『赫眼』だよ。同じ『忌み子』でも——」


「大丈夫」


 老婆の声を遮って、若い女が言った。

 静かで穏やかな声だが、老婆にその先を言わせぬだけの力強さがあった。


「大丈夫よ、お(ばば)さま」


 女はもう一度言った。一点の曇りもない瞳で、老婆を見つめながら。


「……いいだろう。もう、殺せとは言わないさ」


 しばらく女の眼差しを正面から受け止めていた老婆は、やがて観念したように目を逸らし、小さくため息をついた。


「どのみち、あんたのその腹の中にはすでに命が宿っている。こうなっちまった以上、ただ殺すことが正解なのかは、もう誰にもわからない。このアタシにもね」


 そう言ってから、老婆は立ち上がった。

 若い女に背を向けてテーブルのすぐ横にある暖炉の前まで歩み、赫々と燃える炎を見つめる。


「産まれるまでは、ここにいるといいさ。でも、その後はこの里から出て行ってもらうよ。二度と戻ってくることは許されない。……それが掟だからね」


「ええ、分かってるわ。ありがとう、お(ばば)さま」


 女は静かに答えた。


 老婆は振り返る。

 その瞳が哀し気に揺れているように見えたのは、爆ぜる炎の揺らめきのせいだろうか。


「忘れるんじゃないよ。たとえあんたの力で抑えられたとしても、この事実は変わらない。その子は……」


 そしてもう一度女の目を見つめ、呟くように続けた。



「——その子は、『厄災の子』だよ」


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