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お嬢様とメイドが現れた!

 「竜氷ドラキエス!……よし、また倒した!……見たところこいつは電気系のスキルを持ってるみたいだな」



 手の先から放たれた一本のつららが、バチバチと不快な音を立てる黄色い蛇を貫抜く。

 旅立ちを決意し神木の元を離れてからしばらく経って、俺は自分の力を試すため、スティーリアと共に森の適当な魔物を倒して、ついでにその魔物が持つスキルを奪ったりしていた。

 俺の身体には氷塊竜の力が流れている。その強大な力があればその辺の魔物くらい取るにとらない存在だった。……と言っても、今はまだ小さな氷のかけらを何本か飛ばせる程度なのだが。



 「キミ、結構やるんだねぇ……エレキスネークをこんな簡単に倒すなんて……初めてでしょ?すごいよ!大精霊様が足の小指の先でつついたくらいの威力出てた」


 「褒めるか貶すかどっちかにしてくれ……そんなにその大精霊様って強いのか?」



 そう聞いてみると、スティーリアは鼻を高くして答えた。



 「強いなんてもんじゃないよ!王国の異端排除隊を千人相手にしても余裕で皆殺しにしたんだから!」



 まるで自分の武勇伝かのような口ぶりだ。この娘は実に調子のいい……待て、今千人と言ったか?今大精霊がいないことを考えると、結局は負けてしまったということだろう。千人では余裕だった大精霊が負ける……?



 「おい……一体その王国の軍って何人でお前らを攻めて来たんだ!?」


 「……前に氷竜様から聞いた。三十五万四千人……これが、国が私たちを滅ぼすために派遣した軍の数だよ。氷竜様は記憶力がいいから、間違いないはず」


 「三十五万四千人!?酷すぎるだろ……一つの種族のためにそこまでするのかよこの国の王様は……」


 「だから頑張ってね、カナタさん。転生者であるキミが全ての鍵なんだから。……助けられさせてよ、私に……ね」



 三十五万四千人……そのあまりに残酷な数字に俺は激しい怒りを感じていた。正直なところまだスティーリアに協力することを迷っていたが、もう迷う理由など無くなった。絶対にこいつを助けてみせる。これは氷塊竜から未来を授かった者の使命でもあるのだ。



 「よし、スティーリア……俺、もっと強くなるよ。氷塊竜の力ももっと使いこなせるようになるから!」



 それから俺は感情のままに森を走り回り、見つけた魔物を片っ端から倒し続けた。不思議と体が軽い。自然とマナが俺に合わせてくれているようだ。



 「魔力量が増えて来てる気がする……今なら誰にも負けねえ!……あそこにいるやつも……」



 ここで俺が見つけたのは、巨大な毛むくじゃらの魔物だった。一つも動くことなくじっとしている。



 「待って!そいつはダメ!」


 「竜氷ドラキエス!」


 俺は一本の巨大なつららを魔物の頭目掛けて放った。じっとしているこいつは、俺にとって格好の的かに思えた。

 しかし感情的になりすぎていたせいか、俺は判断を誤ったようだった。スティーリアの忠告を無視してスキルを放った自分を恨んだ……魔物に命中する直前で、つららは粉々に砕けてしまったのだ。当たって砕けたとかではない。あれは間違いなく空中で砕けている。



 「どうなってんだ、あれ!?」


 「だから言ったんだよ!あれはバリアイエティ!遠距離攻撃を全無効にする厄介なやつ!おまけに攻撃力もアホみたいに高いんだって!」



 バリアイエティは俺たちの存在に気付くと、巨大な体をぬっとこちらに向け、野太い声で咆哮を上げた。脳に響いてくる凄まじい声量だ。



 「……これ、まずくね……?」


 「ああそうだよ!……何してんの、はやく逃げ……」


 いや、もはや逃げる必要などない。逃げようとしても逃げられないからだ。さっきまで少し離れた距離にいたはずのバリアイエティが、瞬間移動でも使ったかのように俺たちの目の前に立っているのだ。



 「まずい……Lv.4だ……〈特殊スキル・コーナードライブ〉……自身から逃げる獲物を追いかける時だけ、スピードが通常の十倍になるスキル……よりにもよってLv.4に出くわすなんて……こうなりゃ一か八か戦うしか……!」


 「え?なんだって?Lv.4?」


 「いいから戦闘体制をとって!あとで教えるから!……生きてればだけど」



 俺はスティーリアに言われるがままスキルを撃つ準備をしたが、目の前のバリアイエティは俺たちを軽く覆い隠せるくらいの影を落としている。こんな化け物にかなうなど到底思えない……



 「……!来るよ!」 



 スティーリアがそう合図をした直後だった。凄まじい速さで振り下ろされた黒い手は、俺が反応する頃にはもう顔の目の前にまで迫っていた。その風圧と圧迫感に俺は瞬時に死を悟った。

 

 しかし次の瞬間、真っ暗だった視界に一筋の光が降ったかと思うと、バリアイエティの手、そして胴体が真っ二つに切断された。そしてその奥からはおどろおどろしい紫色の血と共に、透き通るような銀色の髪をした綺麗な顔立ちの見慣れない女性の顔が見えた。



 「……生きてる……?俺、生きてるのか……?」


 「生きていますよ、見慣れない方。冒険者か何かですか?ここは危ないので早く行ってください」



 女性は落ち着いた表情で俺に話しながら、武器と見られる金色のワイヤーについた血をハンカチで拭っている。



 「あの……あなたは一体……ていうか、どうやってあれを倒したんですか?」

 「簡単なことです。相手は止まっているただのデカブツ……背後から接近して叩き切ればいいんです」


 「ええ……」



 女性はさぞ簡単なことかのようにいうが、そもそもあの大きさの魔物を真っ二つにするなどできるはずもないだろう……いやでもこの人と俺の実力の差を感じさせられる。



 「おーい!カナタさーん!」



 遠くでスティーリアが俺を呼んでいるのが聞こえた。そういえばさっきから姿を見かけなかったが、どうしてそんな遠くにいるのだろうか……



 「スティーリアか!?お前どこ行ってんだ!?」


 「ごめんねー?なんか強そうなお姉さんが来てくれたから安心して離れちゃったの。ちょっと気になるものがあってさぁ……来てくんない?」



 声のする方を見ると、思ったよりも遠くからスティーリアが手招きしているのが見えた。俺は駆け足でその場に向かおうとしたが、さっき俺を助けてくれた女性が俺を引き止めた。



 「待ってくれ」


 「?どうしたんですか?」


 「その……あのお嬢さんがいるところにあるものは、私も関係しているかもしれない……」


 「そう、なんですか?んじゃ、一緒に行きましょうか」



 俺は女性を連れてスティーリアの所へ向かった。その場所へ着くと、スティーリアは何とも言えない微妙な表情でこちらを見ながら、無言で側の草むらを指差した。



 「……?」



 スティーリアにしては珍しい反応に不思議に思いつつ、そっとその場所を覗いてみると、なぜかそこには全裸で気持ちよさそうに眠る一人の少女がいた。スティーリアよりもずっと小さいように見える。恐らく手を出したら法に触るような年齢だろう。



 「ちょっ……!これ、大丈夫なのか!?あの、この子って本当にあなたと関係あるんですか!?」



 問いかけに対して、女性は頭を抱え込んだままため息をつくだけで何も言わなかった。そしてそのままスタスタと茂みに入り込むと、眠っている少女の肩を割と強めに揺らし始めた。



 「お嬢様ー?……ルナリアお嬢様ー?起きてくださーい?……風邪引きますし恥ずかしいのでほんとに早く起きてください」


 「んん……リヴェ……もうちょっとだよぉ……ここあったかいし……」



 少女は小さな声で駄々を捏ねている。ここだけ聞けば可愛らしく見えるが、このあまりに異質な状況のせいでどうしても表情筋が強張る。



 「何言ってるんですか……この祝氷の森の年平均気温は三度……確かに今の時期は少し暖かいですが、地面の温度はマイナスに達しているはずです。長旅で感覚がおかしくなってるんじゃないですか?」


 「んー?……んまあそう言われてみればちょっと寒いような……?わかったよ……もう起きるぅ」



 そしてようやく少女は腰を起こし、度々大あくびをしながら近くに乱雑に脱ぎ捨てられていた黄色い縫い目の目立つ白いドレスに袖を通した後、クセのある金色の髪を頭の後ろでまとめて髪留めでとめた。


 あらためて少女の服をよく見てみると、どこで買ったのか想像もつかないような高そうなドレスだ。何というか、どことなくふわふわしている少女だが、もしかして結構高貴な身分の人なのだろうか……



 「はぁ……お二人とも、ご迷惑をおかけしました。私たちは西の国から来たしがない旅人です。こちらのだらしない方がルナリア・クルシュードお嬢様、私は()()メイド兼()()護衛のリヴェライア・クレセントです。リヴェとお呼びください、長いので。あなた方のことはどのようにお呼びすれば……」


 「俺は緋響 カナタ。こいつはスティーリアだ。スティーリアは違うけど、俺は転生者で……」


 「待って、今転生者って言った?」

 


 俺が自己紹介をしようとした時、今まで眠そうな顔をしていた少女、ルナリアが突然目を見開いて俺に食いついてきた。



 「えっ、そうだけど……」


 「それって……言っていいの?」


 「ダメなのか!?」


 「あ、いや……あたしもよくわかってなくって……その、実はさぁ……」



 ◆◆◆◆



 「はぁ!?……つまり、あんたも転生者なのか!?」



 ルナリアの話では、彼女も元々日本から転生してきた転生者なのだそうだ。ただ、俺とは違ってルナリアは完全な別人に生まれ変わったタイプで、転生してからの十二年間は特にそれといった事もなく平凡な生活を送っていたのだとか。



 「まあそんな感じでさー?色々あって今は人探しの旅に出てる。詳しいことはここじゃ言わないけど……」


 「そうだったのか……あ、スティーリア!そういえば、予言!」


 「え?ああ!そっか、ルナリアさんはどの転生者なんだろう……」



 予言によれば、この世界のこの時代における転生者は三人……ルナリアはそのうちのどれなのか……スティーリアはパラパラとページをめくっていく。



 「えっと……これじゃない!?『猛追する奇人』!かの者は想い人を地の果てまで追い回し、己が理想を叶えんとするであろう狂人……月の如く全てのスキルを反射する鏡のような人物……これ合ってんの?って言おうとしたけど……ま、多分これだよね」


 「そうですね。お嬢様にぴったりです」


 「リヴェ!」



 ルナリアは不機嫌そうな顔でリヴェの腕をペシペシと叩く。猛追する奇人か……奇人ね、まあ、その通りとしか言えないかもしれない。



 「なんだよぉ!なんだよ狂人って!大体、その本なんなのさ!そんなわけのわかんない本であたしの何がわかるってんだよぉ!」


 「この本はうちの家系に代々伝わる予言の書で、最初の転生者が現れるよりも前からあるんだよ。ただ、この時代のページで最後なのは気になるけど」


 「ふーん?まー、肝心なとこには何も触れられてないしぃ?別にいいけどさぁ」


 「そうですね、たとえばお嬢様が前世で男だったこととか」


 「うわぁーーーーー!なんで言うのさぁ!」



 ……このメイド、容赦というものが全くない。主人に尽くすのがメイドというものではないのか……?ルナリアはさっきよりも強めにリヴェの腕を叩いている……それにしても、これが元男なのか?にわかには信じがたいが……



 「はあ、はあ、バレたのならしょうがない……そうですあたしは男でしたぁ!……きめえだろ?いい歳した男がこんな幼女になっててさぁ」



 ルナリアはそう言って頬を膨らませる。うーん……仕草は女の子そのものなのだが……



 「まあでも、むしろ安心したわ。あんたが男で。最初あんたが草むらで全裸になってるところ見た時、事件性を感じたもん」 


 「それってあんまり慰めになってないけど……まいっか。よろしくね、同じ転生者として……友達として!」



 こうして、とてつもなく異様な友人が俺にできた。同郷の友とは本来安心感を覚える存在だが、この人は……うん、なんだか魔物と知り合ったような感じだ。これからこの人は俺にどんな影響をもたらすのだろうか……

 


本日のご都合カット(尺の都合上カットしたシーン):〜狩りの収穫〜

  

 「カナタさん、さっきの魔物狩りでどれくらいのスキルをゲットしたのー?」

 

 そうスティーリアが興味津々に聞いてくる。


 「何だったかな……電気攻撃に、麻痺毒、身体強化に水中呼吸……氷塊竜の力ってシンプルだけど汎用性が高いから結構いっぱいスキルを手に入れられたな」

 「……なんか……魔物よりも魔物みたいだねぇ……さすが盗人……」

 「うるさいなあ……もうちょっとフレンドリーなスキルもあるからな?眠り粉に局所振動に触手とか……」

 「待って?……なんか、ちょっといけない感じがするんだけど……?」

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