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変なエルフ

 これまでに起きたことをざっと整理しよう。日本で普通に高校生活を送っていたはずの俺、「緋響ヒビキ カナタ」はある日親友に裏切られて殺され、この世界に記憶と容姿を保ったまま転生した。

 

 その後右も左も分からない中森の中で見つけた、周囲の草木が全て凍結している不思議な広場で一体の死にかけの巨竜、「氷塊竜・シルヴァ=グラキアータ」と出会う。しかし、出会って早々に言われた言葉は、「この身を殺して欲しい」だった。


 明らかに無謀な頼みに、俺は適当に断ってその場を去ろうとしたが、氷塊竜いわく、俺のような転生者は皆非凡な力を持っているため、氷塊竜を殺すのに転生者は適任なのだという。

 

 俺は半信半疑ながらも氷塊竜の自分を殺して欲しいという願いに応え、直感でマナを纏わせた拳により氷塊竜を打ち砕いた。しかし、全てが終わった後で俺は驚愕のものを目撃してしまうのだった。



 「俺が……氷塊竜を殺したから……君が死ぬだって?……待てよ、なんで……」



 とある巨木の根元にて、目の前の腐敗したように見える耳の尖った少女は、なぜか微かに笑みを浮かべている。



 「私はドラゴエルフの『スティーリア』。数年前にほとんどが死んでしまったドラゴエルフの最後の生き残りなの。私たちは氷竜様(氷塊竜)から力を得て永遠に近い時間を生きてきた種族……でも、氷竜様が死んでしまった今、私はもう生きる術を失った。だからもう死ぬ」


 「……えと、ごめん……その、そんなつもりは無くって……俺、氷塊竜を助けたかっただけで……」


 「ふふっ、ううん?いいの。どのみち、遅かれ早かれ氷竜様は近いうちに死んでただろうし。ごめんね、罪悪感を駆り立てるようなことして」



 ……何だろう。この娘、スティーリアはサイコパスに近いのだろうか。わざと俺に罪悪感を感じさせて楽しんではいないか?まさかこんなに早く氷塊竜が言っていた「優しさが自分の首を絞める時もある」を体感することになるとは……



 「……なあ、死ぬのって、怖くないのか?」


 「?変なこと聞くね。寿命の長い私たちの中じゃ、死は最大の幸福だって認識なんだけど。まぁ、私はまだ生まれてから十六年しか経ってないけどね。身体の成長が止まるのももう少し大人になってからだし…」


 「それってまた俺をおちょくってるのか?……結局生きたいのか死にたいのかどっちなんだ」


 「そりゃ……」



 スティーリアは急に重たい表情をした。頑張って笑おうともしているが、どうしても表情が作れないようだ。



 「私だってできればもうちょい生きたかったさ。せっかく長命な種族に生まれたんだし……でもしょうがないよ。悪い時期に生まれちゃったんだから……でもね?みんなのところに早く行けるから、寂しくはないんだ!」



 何となく、これは本心な気がする。この娘はちょっとサイコ気質があるけど、今だけは信じていいような気がする。



 「あのさ、もしかしたら、俺なら君を救えるかもしれない。氷塊竜みたいに永遠の命を与えるなんてことできないと思うけど、普通の人間くらいは生きられるようになるかも」


 「……!いや、待って?もしかして仕返しとかじゃないよね。さっき私がキミをからかっちゃったから……」


 「俺はそんな嘘つかねえよ。お前とは違うからな」


 「ははは……バカにされたもんだ、私も……んなら聞こうじゃないか。どうすれば私は生きられるんだい?」



 スティーリアは再び明るい表情で俺を見つめてきた。けれども期待と不安が入り混じった複雑な表情をしているようにも見える。



 「……大丈夫だ。簡単なことだから。俺が氷塊竜を倒した時、どういうわけか俺の中に氷塊竜の力を感じたんだ。その力があれば、お前を生きながらえさせることが出来るかもしれない」


 「……!え、ほんと!?さすが転生者!……コホン……ッ」


 スティーリアは一瞬子供のように目を輝かせて喜んだような様子を見せたが、すぐに冷静な表情になって木の根元に寄りかかった。色々と気になるところのある少女だが、今はまあいいだろう。

 俺はスティーリアに手をかざすと、氷塊竜を倒した時の要領で全身のマナを手に集中させた。氷塊竜の力は依然として俺の中にある……それをしっかりと意識し、魔力に織り交ぜて手のひらから一気に放出する。今度は攻撃のためではなく、目の前にいる少女を優しく包み込むことをイメージして……



 「竜之加護ドラゴ・ブレッシング!」



 氷のように冷たいマナが俺の手のひらから放たれ、スティーリアの身体を包み込んだ。するとみるみるうちに腐敗していたスティーリアの身体は美しい姿を取り戻していき、ようやく俺はスティーリアの本当の姿を見ることができた。

 首元あたりまで伸びた綺麗な水色の髪に、宝石のような緑色の瞳……まるで氷塊竜とこの森を表しているようだ。



 「うおっ!?ほんとに元に戻ってる!はあ……やっと元の身体を取り戻せたよぉ……いやーごめんね?ずっと血生臭い絵面ばっかで……どう?この姿!大精霊様も褒めてくれたほどの美少女だよー?」


 「……んまあ、否定はしないけど……それより、もちょっと俺に感謝とかしてもいいんじゃないかな……」



 命の恩人に感謝の言葉もない挙句、自分の姿を見せびらかして鼻を高くしているところはちょっと、いやだいぶ気に食わないが、確かに美少女であることは認めざるを得ないのでますます腹立たしい。

 俺はぴょんぴょんとはしゃぎ回るスティーリアを尻目に、スティーリアが腰掛けていた木を眺めてみた。今まで気が付かなかったが、この木は他の木に比べてものすごく大きい。樹齢でいえば軽く万はいってそうだ。



 「……この木、すごいでかいな」


 「ん?……あーうん、そうでしょ?どういうわけか、この木は氷竜様の力を強く受けてるみたいで、他の木よりもずっとおっきいの。だから私たちはこの木をずっと昔から神木として崇めてきた。

 私の育ての親である大精霊様も、この木は何があっても守り抜かないといけないって言ってた。あ、大精霊様ってのは、私たちドラゴエルフの長なんだ!んまあでも、その辺の細かい説明はまた今度ね。話すと長くなるから……」



 神木や大精霊のことを話しているスティーリアは普段より一段と声のトーンが高い。この子にとって一族がどれだけ重要な存在だったのかがよくわかる。


 しかし次の瞬間にはそんなほっこりする空気から一転し、スティーリアは意味ありげな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでいた。経験上ろくなことにならないのは言うまでも無いだろう。



 「それはそうとさぁ、盗人さんは氷竜様やドラゴエルフにかなぁり深く関わっちゃったわけじゃん?」


 「……なんだよ……あと、その盗人って呼び方やめろ。俺は緋響 カナタだ」


 「んではカナタさん?ちょっとお願いがあるんだけどー……私に手を貸してくれない?」



 やっぱりだ……そんなことだろうとは思ったが、やはり頼み事をされる流れだった。



 「……んもうわかったよ!それで、なんだ?頼み事って」


 「私、実はやりたいことがあるんだけど……まあカナタさんもわかっての通り、私はドラゴエルフ最後の生き残りであるがゆえ、行くあてが無いわけですよー……そこで!」



 スティーリアは大きな声と共に急に距離を詰めてきた。



 「うわっ、びっくりした!」


 「私に協力してくれないかなあ……損はさせないよ!ね、お願い!だめ?」



 言うまでもないが、スティーリアはそもそも断らせる気がない。これはおそらく俺が首を縦にふるまで絶対に逃してくれないやつだ……



 「……ああっもう!やればいいんだろ?やれば!」


 「よし、決まり!即決まいどありー!そしたらそしたらー……えっと、確かあっちの方に……」



 スティーリアは足を弾ませながらそのまま木のうろに向かい、ガラクタの山から一冊の本を持ってきた。埃をかぶってはいるが、それなりに大事にされていたであろう形跡がある。



 「それは?」


 「これはね、大精霊様の予言書。カナタさんみたいな転生者に関する予言が書かれてるの。この時代に現れる三人の転生者のことも書かれてるんだけど、その中の『反逆の盗人』は、異国の顔たちをしてるって書かれてて……

 さっき氷竜様に転生者だって言ってたから、君が反逆の盗人に違いないって思ったの。……今から思えば、キミが氷竜様の力を使えたのも、キミが反逆の盗人だったからなのかな」



 スティーリアはにっこりと笑いながらそう言う。氷塊竜の力を使えたのが転生者の力によるものなのだとすれば、反逆の盗人の力とは一体……



 「それで、その予言書とお前がやりたいことにどんな関係が?」


 「えっとね、予言ではこう記されてる。反逆の盗人は、殺した魔物の力を奪うことができる。そしてその力で、やがて大いなる存在を打ち滅ぼすであろうって」


 「俺にそんな力が!?」


 「らしいね……んで、これは私のやりたいこととかなり一致してる!私はね、私の一族を滅ぼしたこの国の王族が許せない……だからこの国の王様をいつかこの手でぶっ殺してやりたいの!

 キミが打ち滅ぼす大いなる存在って、きっと王族のことだよね。この国で大いなる存在ってそれくらいしかないもん。……だからさ、予言に従って協力してくれない?一緒に王族を皆殺しにするの!」



 ……殺意……のような、そうでないような、よくわからない感情のこもった変な目でスティーリアは俺に期待の眼差しを向けてくる。

 どうすべきだ……縁あって出会ったこの娘を、俺としては助けてやりたい。だが、俺がそこまでして王族を殺すメリットはあるのか?そもそも本当に予言通りにいくとも限らないだろう。俺に王族を殺せるのか……?



 「……スティーリア……俺は、本当にお前の期待に応えられるのだろうか……」



 俺は気力のない声でそう呟いた。それに対しスティーリアは慰めもせず軽蔑もせず、なぜだかただ大声で笑い始めた。



 「あはははははっ!あはははははっ!はははは……んや、ごめんっ……予言を疑う人間を初めて見たから……」


 「……なんだよ……それ」


 「予言は絶対……とは言わないけど、少なくとも可能性のある未来だということは確かなの。

 『時の神』の祝福を受けたこの国だと、未来の断片がころっとその辺に落ちていることだってある……だから、信じていいよ!その気になれば予言に書かれてることは必ずできる!絶対幸福!将来安泰!ねっ?」


 「……そう、か……ははっ、わかった。ありがとう……それじゃ、行こうか。救世主がお前を助けてやる」


 「あははっ!キミは転生者であっても、救世主になるとは限らないんだけど……まあいいや、助けられちゃいます!……あ、ちょっと待ってね」



 スティーリアは何かを思い出したように再び木のうろへと走っていき、ガラクタの山の中からそこそこ綺麗な白いワンピースと、フードのついた黒いマントを取り出した。



 「?それって……」


 「外出用の服だよ。今まで着てたのは私服。流石にあのままじゃまずいでしょ……んじゃちょっとあっち向いてて?……見ないでよ!?振りじゃないんだからね!?」


 「見ねえよ」



 ……しばらくしてスティーリアの着替えが終わり、俺は改めて彼女の姿を見た。なるほど、こうしてみるとそこそこ小綺麗だ。



 「どうですかい?なかなか似合うっしょ」


 「……うん、意外と……ところで、そのマントはファッションなのか?」


 「え?んや?耳を上手いこと隠すためだが?そりゃ悪竜を信仰するような異端種族だもん……バレればどんな扱いを受けるやら……」


 「あー……なるほどね……えっと、もう大丈夫か?」


 「うん、準備万端!レッツ国家反逆!」


 「言葉遣いは大丈夫じゃなさそうだな……」



 こうして、俺とスティーリアの反逆の旅が始まった。しかし、こういう旅には困難がつきものだというだろう。そして例によって、この後この森で出会うことになる「とある人物」も、俺たちに厄介な状況をもたらしてくるのである。


本日のご都合カット(尺の都合上カットしたシーン):〜スティーリアのマント〜


 「そのマントって、どこで手に入れたんだ?」

 「ん?カナタさん、そんなにこのマントが気になるのー?普通のマントだけど……」


 そう言ってスティーリアはマントをパタパタとさせる。


 「このマントはね、私が偶然見つけた国の異端排除隊の隊員からぶんどったやつだよ?見るからに弱そうだったから多分このマントも大したやつじゃない。でもこのマントがあるから私は街にも出かけられるわけだし……なんだかんだ結構お気に入り!」


 確かに、隅々までマントを見てみると、定期的に手入れをしているのか、とても綺麗な状態が保たれている。まぁこれのおかげでどこでも行けるのだと考えると、大事にするのも当たり前か。

 

 「それじゃ、これから街に行くのか?」

 「うん。何をするかはまだ決めてないけど、何かいいことが起きてくれればなーって」


 俺たちはそうしてまた歩き出す。今は流れのままに行くとしようか……


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