第6話 クラッシュ・バイ・ミー
「ほっといて!」
あっち行けと竹刀を振り回す。本当は見つけてくれて嬉しかったのに。見つけてほしくて、リョーマなら見つけてくれる気がして、だからお弁当も傘も……。
気持ちとは逆に荒ぶる竹刀。でもすぐにビクともしなくなる。今朝の鶏小屋を思い出す。高速で目を瞬くと明らかになる全貌。
小ぶりな傘を横に、全身で竹刀を受け止めるリョーマ。その影から覗く瞳。
やっぱこいつ只者じゃない。手練れがすぎる。
「来いよ、相手してやる」
私を見透かすように浮かぶ不敵な笑み。ゾクッと鳥肌立つ。堰を切ったように竹刀に乗る私の感情(物理)。
「髪切られたの無理すぎしんどい。薄羽カタナうざい。あんなん泣く」
竹刀のリズムに合わせて、好き勝手に弾ける泣き言。でも……。
「言い返せなかった自分はもっとうざい」
言い返せる程の志も夢も実力も、言い訳すらない自分が一番腹立つ。
「私、間違ってる」
薄羽さんの言葉がずっと沼る。彼女は正しくて、私が間違って見える。今まで何してきたんだろってなる。周りと比べて、私だけがダメみたいで恥ずかしい。皆が遠く感じて、漠然とした不安に息が詰まる。
「間違ってない」
リョーマは顔色ひとつ変えず、淡々と返すだけ。なんかイラっとする。
「食うか飲むかしか考えてない奴に何がわかんの?」
「なら、お前はわかってんのか?」
私の攻撃は簡単にいなされた。竹刀と小学生の傘が互角に渡り合ってる。それだけリョーマには私の心が見えてる。比べて私は自分の気持ちすら……。
「わかんない」
感情に任せて、お構いなしに、踏み込みより速く打突する。
「わかんないわかんないっ、わかんないことがわかんない!」
理解不能がゲシュタルト崩壊しそう。そりゃリョーマの顔も歪むわ。乱れに乱れる呼吸に打ち込みも不規則になる。こんなの剣道じゃない、楽しくない。
「それはな、答え合わせしようとするからだ」
心当たりある。私は不安だとすぐ他人見がちだし。ネットミームはその副産物。
「わかるわけねえ。そこらに答えなんか落ちてねえんだからよ」
リョーマがたまに見せる眼差し。普段とのギャップが刺さる。私より少し年上なのかもしれない。
「お前の答えは、お前しか引き出せねえ」
私の答えって? わかんないよ。
「……剣道やめるし、やめなきゃダメだし」
「それお前の答えじゃねえだろ」
私は竹刀を地面へ叩きつけた。
「だって私、皆みたいに剣道する理由ないし!」
言ってて虚しくなる。私ってマジ中身ない……。