第12話 リョーマの休日
膝から崩れ落ちる私を受け止める手。この温かさに覚えがある。
「まーた泣いてんのか」
高速で目を瞬くと明らかになる全貌。ボサボサ頭から伸びる茶筅髷。逆光の中、相変わらず暢気に笑う彼。
「泣き虫なとこは似てねえな」
それから何度も彼の名を声に出した。親の名前より呼んだ。もう呼べないかもしれないから……。
「私思い出したの、じーちゃんの話」
止まらない涙が何よりも別れを悟らせる。
「安土龍真。“傘下の剣豪”と呼ばれた男……私の御先祖様」
二ッと悪戯っぽく笑うリョーマ。
「遅刻理由も強ち嘘じゃなかった! 先祖蘇ったし」
「何言ってんだ、お前」
ごめんねとありがとう、夢が叶って嬉しかった。色々伝えたい時に限ってしょーもない会話ばかり続く。
「穴だらけにしちまった。ゴメンなさい」
壊れた傘を恭しく差し出すリョーマ。
「もう使えねえか?」
「そも使わないわ!」
こんな話してる場合じゃない。引き留めたい。
「マジで帰んの? そっち大変なんでしょ」
リョーマにとって元の世界は過酷、だから。
「俺には俺の好きがある、向こうにな」
なんで? 怖くない? 不安じゃない? いつ殺されるかわからない世界で……。
「お前が笑ってることが、俺の好きを貫いた答えだ」
「いかないで」が言えなかった。代わりに泣き面くしゃくしゃにして笑ってた。
一筋の星が瞬き、ボロい釣瓶に足をかけるリョーマ。
「お前の味、ずっと覚えとく!」
「最後まで飯の話かよっ」
嬉しいのに素直になれない。
「じゃあ、またな!」
リョーマの身体がゆっくり沈む。見つめ合う視線が井戸に遮られる。堪らず駆け寄ろうとした瞬間、親指を立てた拳が突き上げられる。I'll be backとか言いそう。思わず吹き出した。
光が消える。もう会うことはない。
この世界はリョーマにとって息抜きになったかな。
カタナの言葉がまた過る。
『きっと、幸せじゃなかった』
そんなことなさそうだよ。リョーマなら大丈夫。だって日本一規格外の侍だから。
――目まぐるしく情報が飛び交う現代、だからこそ『好き』を忘れたくない。好きは人を想う優しさをくれる。躓いても乗り越える勇気をくれる。私は、自分の好きを信じてる。
でももしまた見失いかけたら、見上げるんだ。神棚に飾った二本目の傘を。
「お! 俺の家だ」
井戸から顔を出したリョーマの前に聳える天守閣。老いた声を精一杯張り上げ、若き主君を探す宿老の足音。
唐傘を開き、その影の中で不敵に笑う。
「いつもうるせーな、ジイは」
以上で、リョーマの時間旅行はおしまいです。楽しんでいただけたでしょうか?
この作品のベースは、私が少年漫画誌を夢見ていた17歳の時に小説版として執筆したものです。当時と比べて少しは成長してるかなと振り返りながら、過去の想いを汲みつつ、今回の形に仕上げていったこのひと時がかけがえのないものになりました。また明日から一歩一歩、自分に挑戦していこうと思います。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
私の次回作にご期待ください(フラグ)。




