第10話 ブルー・ドラゴン
《傘を持って公園で遊ぶのが好きだった。開くと大きなお花みたいで、くるくる回すと飛べる気がして。でも雨じゃない日は変だよって笑われた。皆と違うのはおかしいよって仲間外れにされた。好きなだけじゃダメなんだって》
これ走馬灯っぽくね。ただの部活で死んでたまるか……でもマジ身体重くてさ。
《雹が降ったみたいな音を立てて、私の傘壊されちゃった……》
「否定されていい好きなんてねえ」
私の視界に広がる小さな傘、その六枚の小間を各々貫く竹刀。
「ツルギの好きを否定すんじゃねえ!」
「……リョーマ」
私の孤独を引き裂く大喝、私のために立ち向かう背中。
「邪魔すんなコスプレ侍」
「好きだけで世の中通用するか! 甘ぇんだよ」
「安土ツルギを付け上がらすな」
竹刀が傘に刺さって身動き取れない輩。それでも口撃はやめない。
「うるせえなあ、俺の間合いでよ」
リョーマのいつもと違う声色、誘われる雨の匂い。狙ったような夕立。
「甘くて何が悪い。そっちのがうめえだろ」
確かに……いやそういう話じゃないが?
心の中でツッコむ間に、リョーマは輩ごと傘を振り回す。軽く人知越えてる。
「覚えとけ」
リョーマの身体が炎を放ってる。虹彩はぼんやり青く光り、黒かった筈の瞳が白く見える。龍が……。
瞬時に記憶が甦る。
――雲を呼び 風に舞い 雷と化す さながら龍が如く。
祖父がキレッキレに語ってた光景。
「まぐれが重なったら、まぐれじゃねえ」
リョーマの至極真っ当な主張と柔道畳までぶっ飛ぶ輩。こうして部活は平穏を取り戻したとさ。ってハピエン決めたい所だけど、風圧で私もあっさり吹き飛ぶ。
次こそ死ぬ。これもうただの部活じゃないよ……。
《開くと大きなお花みたいで、くるくる回すと飛べる気がして》
お洒落カフェを思わせるそよ風が頬を撫で、目を覚ます。幽体離脱かって焦るくらい天井近い。ゆっくり回転してたのは穴だらけの傘。
「私、飛んでる……?」
リョーマの腕に守られて。
雨上がり、蜩が夏の終わりを嘆く頃。
「ごめんなさいツルギ、髪切るのはやりすぎた」
カタナとは名前で呼び合う仲になってた。
「好きなら好きって早く言えばよかったのよ」
「あの空気で? 魂の重さ知った後で?」
言えるかこらと滲ませると、カタナは小さく鼻を鳴らして言う。
「あなたの口から紡がれたなら、それはあなただけの物。私は否定したりしない」
私を見下すことのない目。
「熱い魂に気付かされた。ありがと」
カタナは憑き物が落ちたように穏やかだ。




