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薄明怪異目録  作者: 立花 みかん
第一章
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第一話『呪われた一族』

「過去の因果に繋がれて、囚われて……ただ蘆屋という姓を持つだけで、俺はこの命尽きるまで……鏡子、お前の後ろに犬の様に従うしかないのか」


 そう言った少年は、少女の目を真っ直ぐに見つめながら首を横に振った。その様は嫌だと空に向かって叫ぶように、地を踏みながら否を示す。


「俺はお前を超える! ――絶対に! そしてあのクソ共に、この穢れた蘆屋の血こそが最優であるとわからせてやるッ!!」


 燃える瞳は憎しみの炎。震える指先は憎しみの飛び火。

 全身にそれを迸らせた少年は、感情のままに目の前に立つ少女に吠えた。

 虐げられた生活よ、嘲られ捨て置かれた一族よ、――ただ蘆屋というだけでこの少年の価値は、一つの世界の中で地に落ちた。


 裏切りの蘆屋。

 呪われた一族。

 安倍家の下僕。


「何とか……言えよッ! 安倍鏡子!」


 対する少女は、黒髪を右手の甲に走らせ風を遊ばせた。

 少年の怒りを一身に受けたにも関わらず、涼しい顔をして――目を細め、まるで嘲笑にも見える表情で笑う。


「うーん……鏡子が居るのに?」


 少女は、言う。


「安倍晴明の生まれ変わり――と言われるこの鏡子は差し置いて、蘆屋が最優になろうなんてちょっと考えが足りないのではないのですか?」


 鋭利な刃は、未だ幼い少年の心臓を的確に抉る。

 美しさは時に冷酷さを増す――そのように、少女の笑みは少年の瞳から心臓へと涙が凍て付く様に一瞬で浸食した。


「身の程を知りなさいな、蘆屋彰」


 生まれながらの優者は、動くことを許されない劣者とは違い、口元に笑みを浮かべたまま視線を夕陽へと動かした。

 少年にはどう映る? ――嗚呼、視界にも入れる価値の無いその事実が。身の程を知れ、と……未だ自らの環境の劣悪さを認められない少年の心に、一つの障壁も設けられぬまま投げ込まれた。


 残酷なまでに美しい少女に、少年は激烈な復讐心を灯らせる。


「鏡子と彰は、あまりにも違うでしょう?」


 当主の座を約束された少女は、余裕を体現した笑みを放つ。生まれ出た時から全てを奪われた少年と、全てを与えられた少女を彩る笑みの色は全てが反対を現した。


「――――鏡子……!!」


 少年の――頭は、影を見ることも出来ずに少女の足を頭上に許した。彼女を守る式神の類が少年の身体を押さえつけ、少年が見えない速度で振り上げられた足は少年の頭上に下される。


「超える、超える、超えてやるッ!! お前等なんて踏み潰して、蘆屋が、俺がッ! 最高だと言わせてやるッ!!」


 少女は少しだけ目を細めた。――少年には、嫌悪の色に見えた。


「……彰。――身の程を、わきまえましょう」


「だから犬の様に足を舐めろって言いてェのか!? ふざけるな――ふざけんなッ!! いつまでも、いつまでも俺を抑えつけられると思うなァッ!! いつか、いつの日か――絶対に、絶対にお前をぶっ潰してやるッ!! その澄ました顔を、絶対に、絶対に―――!!」


「鏡子様!! ――彰! またお前か!」


 少女の式神より連絡を受けた4人が、一斉に教室に飛び込んで来た。すぐさま式神の代わりに少年を抑えつけると、少女は足を退け少年を見下ろした。


「彰――己の力を見定めなければいけませんわね。……兄上の様にはなりたくないでしょう?」


 その一言は、俗に言う"言ってはいけない一言"であった。

 今の少年にとっては、最も触れてはいけない部分に値した。

 少年は、この日の最後の記憶として――音を聞いたのだ。

 心の中で張り詰めていた糸の、切れる、音が。







 安倍家とは、日本に存在する全ての陰陽師を取りまとめる長であり、陰陽道を後世に伝える伝道者の頂点で在り――日本に蔓延る魑魅魍魎から民草を守る隠された組織の主人であり、王である。

 安倍家に連なる陰陽師家は五つ。賀茂かも家、滋岳しげおか家、鬼一きいち家、三善みよし家、蘆屋あしや家である。五芒星の様に均衡を保つ――はずの五家だが、名前の並び順の権力差になっているという事実がある。つまり――蘆屋家は、陰陽師の中で最下位に属するのである。


 この五家を纏め、従え、全国の陰陽師を指揮する総本山である安倍家次期当主"安倍鏡子"は、中学生ながらに天才、いや、鬼才を用いて既に頂点に君臨していた。

 絶対的自信と、生まれながらの気質は誰もが当主の器を少女に見る。未だ幼い少女なのに、彼らはその少女の意志に当主たる影を探し、見出していた。


 反して、蘆屋家とは――負け犬と称される一族である。

 皆、蘆屋家に対して語るは一言しかない。「穢れた一族」と。

 遥か昔から、安倍に対抗して悉く敗れた一族であると。勝ちと言えば、それは外道極まりないやり方で――。……故に蘆屋家は、未だ陰陽師として名を連ねてさえいるが、その有様は安倍家の恩情であると言われ続けている。


 上五家の僕であり、犬であり、使い捨ての蘆屋家の末の子"蘆屋彰"は、幼少期より募らせた憎しみの炎を目の内に煌々と燃え上がらせている。

 幼き少年にも慈悲は無い仕打ちに。誠実なる兄達に対する酷い仕打ちに。そして――。

 先日、死んだ兄に対するあまりにも残酷な言葉に、少年は胸の炎をただ膨らませた。


 安倍に愚鈍な心で頭を垂れる者達に、制裁という名の暴力を喰らう中で、彰は絶叫する。

 ここは、陰陽道に根差して作られた私立学校――その裏の顔の一室で。

 関係者以外には覗かれることのない闇の中で。

 ただいつもどおりの、折檻の侮辱の中で。


『彰、彰……』


 幻覚だ。妄想のそれだ。彰は目に垂れる血の中に浮かぶ兄を見ながら、身体を痛みに揺らして顔を上げた。


『あまり傷付かないでくれ。彰……』


 その瞳に陰りが落ちるのは、こんな状態では、あまりにも当然ではないのだろうか。

 たとえ彰に付き従う式神が手当てを施したとて、そこに本来の暖かみはあると、信じられないのも当たり前ではないだろうか。


『兄さんは、お前が痛そうにするのは、嫌だよ……』


 だからって、兄さんを、父さんを、あんなふうに嬲り殺した奴らを、許せって――――?


『彰……』


 意識を手放すその前に、心配そうに囁く声を聞いた。

 色とりどりの手は、眼差しは、まだ幸せだった頃を描く白昼夢に違いない。

 嗚呼、このまま、目覚めなければ――――。

 家族みんなが笑っていた、あの陽だまりに――――。

いくら血を流してもいい、そう薄明ならね!!!!!!!!!!!!!!!!!

やっていくせレッツゴー陰陽師。

やっぱりね、魔法使いとか陰陽師とか、そういう後方支援のジョブこそね、

フィジカルって必要なのよ。

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