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薄明怪異目録  作者: 立花 みかん
プロローグ
2/15

第零話『陣定』

 次々に、とある者達が入場する。すでに屋敷にてその者達を迎えようと赴いていた数多の人は、屋敷の入り口にて一つの波が打つように頭を下げた。

 とある者達は、男であったり、女であったり、大人であったり、青年であったり、少年、少女であった。その者達と言えば、少年少女は見受けられないが、青年であり老年であった。

 とある者達は、ある広間へ通される。そこで一見すると一昔前の殿と家臣が面会をする場のように、一段上がった畳の間には御簾がかけられていた。

 とある者達は、一列に並んで膝を畳む。皆一様に背筋を伸ばして、その時を待っている。

 一人の男が、音もたてずに上座の段、その近くに座った。とある者たちの中、一人の少年が息を呑む。


「安倍家次期当主、土御門次期当主、――両二名のおなりでございます」


 一度、大きな太鼓の音がなった。その音色を合図に、一文字に座る彼らは息を合わせて頭を付く。手指を綺麗に揃えて、足先を綺麗に揃えて、または交えて……深く深く、首を垂れる。

 衣擦れの音と、案内をする囁き。そして、小さく息を吸う音がした。


陰陽いんよう五家、よく集まってくださいました。では、始めましょう」


「はい、姉さま。つつがなく。――五家よ! 頭を上げよ! これより……陣定じんのさだめを取り計らう! 陰陽五家よ、今一度、叩頭せよ!」


 再び、大きく鼓が鳴る。五人は一様に深く叩頭し、その間に御簾が上がる音がする。


「結構。頭を上げてください」


 五人は眩い光を錯覚して見上げた御簾の奥。そこに座するは二人の女。

 手前には、同じように頭を上げたのだろう……一人の若い女と、その女が見つめる先に、同年代であろう若い女が座っていた。


「では、毎度の報告をお願いいたします」


 そう言って、奥の女――否、少女は微笑んだ。

 どこをどう見ても中学生程度にか見えない少女は、誰よりも上の場にて笑っていた。

 一見すると奇妙である。二度見ても奇怪である。しかし、この場ではこの世界に生まれたものならば、至極当然と目を吊り上げるであろう。

 これこそが、生まれによる階級付の世界である。これこそが、力による隔絶の世界である。

 つまり、彼女は――――。


「賀茂家当主、賀茂次晴かも つぐはるにございます。北海道における怪異の出現は、やはり年を追って減少の一途をたどっており、境界の協力者とも異常なしとの合致となります。が、極端に減る年もあり、一度幽世にて調査を実行する必要あり、と申し上げたく存じます」


 この場において、全てを掌握している最上位に違いなく。

 今発言している男でさえも、彼女に逆らえる道理など何処にもない、というに外ならず。

 一列に並んだ五家と呼ばれる男女共々、その周囲にて固唾を呑んで会議を見守る固い面の者共も、全てにおいて彼女に否を飛ばせない。

 それほどまでの唇の微笑と、それほどまでの瞳の力。


「……滋岳家次期当主。ご報告。東北における異常と呼べる数値のブレは微小。問題無し」


「き、鬼一家次期当主を仰せつかります、しゅうです。中部にて微小の脈の乱れを感知、今調査中で……」


「柊、ちょっと違う。発言をお許しください、土御門殿」


「――よろしいでしょう。御影」


「は」


 慌てる少年の肩を取った少女は、土御門と呼ばれた少女に深く頭を下げた。


「中部にて来る微小の乱れの調査は、今朝終わっています。間に合わなかった、というだけです。定終わり次第、ご報告にいきます」


「よろしい、次」


 柊と名乗る少年は、隣の少女に肩を小突かれた後に、僅かに腰を丸めた。

 それをくすくすと見守る最上段の少女を、土御門が溜息と共に見やる。


「三善家次期当主、三善一誠みよし いっせいです! 関東は概ね良好、そろそろ幽明境の百鬼夜行かも、くらいですかねー? 何かあったら都度連絡しますっ!」


「よろしい。……蘆屋からは?」


「……特になにも」


「ありません、だろ? あ、き、ら!」


「……ありません」


 最上段の少女が頷くと、また一つ鼓の音が響く。


「皆の報告、しかと承りましたわ。目録の編纂はいつものように。何か一つでも、項目を超えるようなことがあればすぐに土御門に連絡をしなさい。……では、鈴佳」


「はい、姉さま」


 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、重たく冷たい、鼓の音が屋敷中に響き渡る。

 それは終了を告げる合図でもあり、それは己の使命を自覚させる戒めでもあった。

 ――今、最上段に座る少女が立ち上がる。

 彼女の名こそ、安倍鏡子。

 安倍が意味するのは、陰陽道の頂、その名こそ安倍晴明の一。

 故に証明できよう、この場の異様さを。

 故に納得できよう、彼女の偉大さを。

 故に、彼女は、そう、疑いようもなく。


 安倍晴明、その人であるが、故に。






 これは、一つの怪異目録を編纂する物語。

 安倍晴明が編集せしめた一つの本。それこそが、この怪異目録。

 日本を守るという使命を一つだけの真実とし、時代と共に移り変わる怪異を常日頃更新し続ける、とても地味でとても辛い、彼らの生まれた理由。

 たとえそうでも、怪異と人間の境界が崩れたら、それだけで人間達は死んでしまうから。

 鏡子はスカートを翻して、夜な夜な街を歩くのです。

 それだけが、――鏡子の生まれた意味、なのだから。

 それこそが、この身に宿る炎を燃やす意味、なのでしょう、と。

始まりました薄明の丘第二部、薄明怪異目録!

こちらは薄明の丘第二シーズンではありますが、トワイライト→怪異目録、という順番ではありません。

ので、単品でも楽しんでいただけたらな~と思います。

鏡子編は不定期更新です!

ゆった~り、お待ちください。

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