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第5話 結婚しようとするからだ

「君に娘はやらん」


その瞬間空気が凍りついた。

そ、そんな……!


「お父さん!?」


美優が驚いたように立ち上がる。

美人の怒りは怖いって聞いたことがあるけど確かにその通りであの英俊さんですらも少し怯んでいる。

怒ったままでも顔が美しいってのはどういう理屈なんだろうな、と若干現実逃避が混じる。

そんな怒れる美優を止めたのは美樹さんだった。


「落ち着きなさい。美優」


「お母さん……でも……!」


「いいから。私に任せておきなさい」


美樹さんに言われて冷静になったのか美優は大人しく席に着く。

それを見て微笑んだ美樹さんは英俊さんと向き合う。

美樹さんの表情は笑顔なのに背筋が凍った。


「あなた?何が不満なんですか?」


「い、いや……それはだな……」


「言い訳は無しです。正直に言ってごらんなさい」


あの英俊さんが肩身が狭そうに縮こまっている。

……この一瞬でこの家の力関係が分かった気がする。

俺ももし結婚できたら美優の尻に敷かれるのだろうか。

まぁ美優に敷かれるのは大歓迎だが。


「ほら、拓哉くんのどこがダメなんですか?」


「……美優と結婚しようとするからだ」


…………………え?

俺と美優はその言葉に唖然とし美樹さんは呆れたようにため息をつく。

結婚しようとしたら不合格なんて合格者が出るわけないじゃないか……


「ではあなたは美優を愛してもいない男性と美優を無理やり結婚させるのですか?」


「そんなことはさせない!美優は誰にも渡さないんだ……!」


「それではあなたの都合で美優に独身を強いると?それに孫も見ることもできませんよ」


「そ、それは……!」


明らかに英俊さんが劣勢になってきた。

美樹さんのあまりの迫力に俺たちはただ見ていることしかできない。

俺は女の人は絶対に怒らせないようにしようと心に刻み込む。


「どこの馬の骨とも分からない男性よりは拓哉くんの方がいいと思いませんか?」


「それはそうだが……」


「なら拓哉くんに任せましょうよ。拓哉くんならきっと美優を幸せにしてくれるわ」


「うーむ……」


英俊さんが悩み始める。

俺たちの結婚なんだ!美樹さんに任せっぱなしでどうする!


俺はもう一度立ち上がり英俊さんに頭を下げる。

美優と結婚するためなら何度だって頭を下げるし靴でも舐めてみせよう。


「どうか……お願いします」


しばらくの静寂が訪れる。

もう緊張なんてない。

ただ美優と結婚したいその一心だ。


「……分かった」


その一言に飛び上がるように頭を上げる。

心の奥から喜びが溢れてくる。

というか涙が出かかっている。


「それじゃあ……!」


「君と美優の結婚を認めよう」


美優と喜びを分かち合おうと振り返った瞬間美優が飛び込んできた。

顔を俺の胸に埋めてぐりぐりと押し付けてくる。

俺も涙が出てきてしまって止まらない。


「よかった……お父さんが認めてくれたよ……!」


「ああ。美優……俺と結婚してくれる?」


「うん!」


美優は今日一番の笑顔で答えてくれた。

絶対にこの笑顔を守ろうと心に誓った。


◇◆◇


「すみません。お見苦しいところをお見せしてしまって……」


彼女の家で割とガチ泣きをしてしまった。

落ち着いた今は結構恥ずかしい。

穴があったら入りたい気分だ。


「大丈夫よ拓哉くん。それだけ美優を思ってくれてるってことでしょうから」


美樹さんが温かい言葉をかけてくれる。

本当にいいお義母さんだ。


「美優もよかったわね〜!拓哉くんと結婚できることになって」


「うん……本当に夢を見てるみたい……」


「昔からずっと『拓哉のお嫁さんになるんだ』って言ってたもんね」


「ちょっとお母さん!?それは拓哉の前で言っちゃダメ!」


美優は赤くなって慌てて美樹さんを止めようとする。

本来なら美優を味方したいものだが気になるものは気になる。

すまん美優!


「お義母さん。その話詳しく伺っても?」


「拓哉!?」


「お義母さんだなんて嬉しいわ。もうたくさん話しちゃうわね」


「お母さん!?」


突然の俺たちの裏切りに美優は驚きを隠せない。

だけど好きな人が自分のことをどう言っていたかなんて気にならない方がおかしい。

幼馴染なのに知らなかったのだからなおさらだろう。


「美優は高校生になってもお嫁さん宣言してたのよ。大学に入っても拓哉くんに会いたいってずっと言ってたわ」


「ほうほう」


「一週間前の喜びようといったらすごかったのよ。『拓哉にプロポーズされた』って。私が今まで見た中でダントツで嬉しそうだったわ」


「そうでしたか……」


そんなに喜んでいてくれたとは……

美優の方を見ると首や耳まで真っ赤にして手で顔を覆っていた。

なんだこの可愛い生き物は……


「拓哉にはこんなの知られたくなかったよぅ……」


「俺はすごく嬉しいよ」


「そういう問題じゃないもん……」


これ以上は可哀想だからやめておこう。

頭を撫でてあげたら潤んだ瞳で少し睨まれた。

怒っているというより拗ねている感じなので怖くはない。

しばらく撫で続けていたら拗ねた顔が笑顔に変わっていった。

やばい……うちの未来の嫁が可愛すぎる件について。


「あらあら。完全に美優を手懐けているのね」


美樹さんにからかわれてしまった。

まぁ俺と美優のイチャイチャを止められるものなんてないけどな!


「拓哉くん。この後時間をもらえるかな?少し二人で飲みに行きたい」


「は、はい。喜んで……」


訂正。

お義父さんには勝てなかった。

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