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第3話 結婚してください

「け、結婚するなら私とじゃないとダメ!婚活するなら私でもいいでしょ!絶対拓哉のお嫁さんの座は誰にも譲らないもん!」


一瞬何を言われてるのか全く頭に入ってこなかった。

それが美優からのプロポーズだと気付くまでそう時間はかからなかった。


「………えぇぇぇぇぇぇ!?」


「そ、そんなに驚かなくても……」


「い、いや……驚くでしょ」


逆に言えば驚く要素しかない。

だって疎遠だった幼馴染と再会したと思ったらいきなりプロポーズされたんだぞ?

叫んでしまうのもしょうがないというものだ。

むしろこれが普通の反応だろう。


「拓哉は私と結婚するのは嫌?」


「いやいや!そういう問題じゃないって!」


そんなに目をうるませて上目遣いされても「はい!結婚しましょう!」とは言えないんですけど!

ていうかなんでこんな話になったんだよ!


「拓哉が嫌じゃないなら私と結婚してほしい……拓哉好みの女の子になってみせるから……!」


「そういう話でもないから……そもそもなんで俺と結婚しようと思ったの?」


美優ならいくらでも結婚しようと思えばできたはずだ。

モテない俺に結婚をお願いする理由なんてないのが悲しいところである。

俺が疑問を問いかけると美優はプロポーズのとき以上に顔を真っ赤に染める。

おい……その反応はまさか……!


「拓哉のことが好きだったから……小さいときから今もずっと」


ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!

初恋だった幼馴染から告白されて心の中で叫びまくり悶絶する。

俺の顔も熱くなっていて真っ赤になっているのが分かってしまう。

なにしろ女子からの告白なんて初めてなんだから耐性なんてあるはずもない。


「そうだったのか……」


予想外の結末にそれくらいの言葉しか出てこない。

好きだったけど高嶺の花すぎて告白することすらできなかった女の子なのだ。

そんな美優から告白されている今の状況が信じられない。


「ダメ……かな?」


美優は明らかに落ち込んだ様子を見せる。

だが俺は良い話だと思っていた。


美優は長い時を今まで一緒に過ごしてきたから仲も良いし居心地がいい。

それはこれから数十年間続く結婚生活において一番大切なことだと俺は思う。

だから俺としては断る理由なんて何一つとして無いのだ。

それに根拠はないけど美優となら幸せな家庭を築ける気がする。


「分かった」


「それじゃあ……!」


美優の顔がパッと明るくなる。

その花が咲いたような可愛らしい笑顔を見ていると幼い頃に心にしまい続けた恋心が戻ってきたような感覚がした。

会社の面接なんかと比べ物にならないくらい緊張しているけどするべきことは見失わない。

俺は美優の手を優しく握る。


「大石美優さん。俺と……結婚してください!」


「……っ!!……はいっ!!こちらこそよろしくお願いします……!」


美優は涙を流しながらも幸せそうな笑顔でプロポーズを受けてくれた。

答えは分かっていてもホッとしてしまう。


上手くいってよかった……

やっぱりジェンダーレスの世の中と言っても男はかっこいいプロポーズに憧れがあるものなのだ。(俺調べ)


「よかった……拓哉にフラれたらどうしようって……ずっと不安だったから……」


美優は緊張から開放されて安堵の涙を流す。

俺はハンカチで美優の涙を拭いながら落ち着くまでずっとそばに寄り添い続けた───


◇◆◇


美優が泣き止んだタイミングで俺たちは店を出る。

もう日も傾き始めていたので今日のところはこれからのことについての話し合いやデートは諦めまた今度の機会に行うことで合意した。


「ごめんね。家まで送って貰うことになっちゃって」


「いいさ。美優は俺の大切な人なんだから」


「あぅ……」


美優は俺の婚約者で昔から家族みたいな存在だ。

まだ夕暮れ時とはいえ俺に用事があるわけでもないし送る手間を惜しむ必要なんてない。

そもそも俺の家と美優の家は徒歩5分くらいのご近所さんだから手間にも入らない。


「今日は拓哉にも久しぶりに会えたし、想いも伝えられて夢みたいな日だなぁ……」


「あはは!俺も美優がプロポーズを受けてくれてすごく嬉しかったよ」


「それは私のセリフだよ。私を受け入れてくれて本当にありがとう。拓哉」


気付くとあっという間に美優の家に着いていた。

別れを惜しむかのように美優は少し寂しそうな顔をし俺に礼を言ってくる。

確かにこのまま今日あっさり別れるのは気が引けた。


「ねえ美優。抱きしめてもいいかな?」


「……うん。いいよ」


許可を貰った俺は美優を優しく抱きしめ美優も抱きしめ返してくれた。

その体は華奢で柔らかくて壊れてしまいそうな儚さを持っていたけど俺にぬくもりを感じさせてくれた。


……このぬくもりを手放したくない。

絶対に美優を大切にして幸せにするんだ……!


「それじゃあそろそろ帰るよ」


「うん……送ってくれてありがとう」


「大丈夫だって。俺が送りたかったんだから」


別れの挨拶をし帰ろうと後ろを振り向いた瞬間肩を軽く引っ張られ美優の口が耳に近づけられる。


「大好きだよ……拓哉♡」


ハッと振り返ったら美優は走って家に入ってしまった。

美優の甘いささやきが頭から離れなくて思わずその場に立ち尽くしていた。


(あー……俺もう美優のこと大好きだわ……)

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